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「・・・ここは」
音声が出力されている?!
liveでは思考発声でチャットログに入力するだけだったのに・・・
驚いた・・・痛覚もしっかり反映されている。
体が動いているのか・・・?そんなはずはない。
現在、僕の体はpencilプロトタイプの中で横たわっているはず・・・
背中にその感覚がなければいけないのに何も感じない。
後ろを振り向くも寝返りをうった感覚もなく、広がる漆黒の空間が広がるだけ。
「リアルに忠実すぎる・・・夢にまで見たVRゲームそのものじゃないのか・・・?」
そんな完成されるのもあと何十年も先になるであろうVRゲーム。しかもここまで完成度が高いと夢を見ているのではないか。
唖然として虚無の空間をただただ眺めていると目の前にいきなり佐野が出現した。
「おわっ!!!」
「期待通りの反応をありがとう」
出現したというよりも足元からポリゴン状で形成された・・・と形容すべきか。
「ここは・・・やっぱりpencilが見せている空間でいいんですか?」
「呑み込みが早くて嬉しいよ、ほぼ正解に近いね」
いや理解して納得できたわけじゃないけどそうとしか考えられないでしょ・・・あとあるとするならば
「死後の世界かと思いましたけどね・・・」
「!」
何気なく虚無の空間に呟いたつもりだったが佐野が驚いた表情で僕を見つめる。
暫しすると急に真剣な表情になり、僕にこう告げた。
「・・・単刀直入に言うね。ここは死後の世界と同等の空間といっても過言ではないんだよ」
・・・先程までもそうだがここの人間は意味の分からないことを言い出すな。
ここまで来るとドッキリ番組の企画かと思ってしまう。
あの手の番組は視聴者からすると滑稽で面白いのだけれど、やられる側はたまったもんじゃないなと身に染みて感じた。
「どうやら信じてはいないようだね。だけれどもこの空間で起きていることを君はどう理解する?」
「どう理解するって言ったって・・・エンジニアや医学の知識が全くない僕には見当もつきませんよ・・・」
「そうか、そんな茜君にもわかるように簡略に説明しようか。」
見下されているようでどうにも腑に落ちない
「・・・お願いします。」
「まず此処は茜君を含めた一般のユーザーが想像するようなVRの空間ではない」
もう一度、佐野は僕にこう言い放つ。
「此処は、死後の世界だ。」
「・・・それだったら僕はともかく、佐野さんも死んでしまっていることになりませんか」
「そうだね」
死に対して余りにも冷静に佇む佐野の姿を見て、抑えていた感情が一気に膨れ上がる。
「・・・!!!」
「まぁ、落ち着いてくれ」
「落ち着けるわけないじゃないですか!!!死後ってことは殺人ですよね?!貴方は僕を殺して自分も死んだってことですか!!!!??」
佐野はその大雑把な性格には似つかない整った髪を掻き上げる。
「死後の世界と《同等》って言ったよね。実際に死んだわけじゃない。」
「死んだわけではないけれど死後の世界・・・?」
「そう、所謂《仮死状態》って僕らは呼んでるよ。勿論、現実世界にちゃんと蘇生できる。」
「そんな技術を『はい、そうですか』って信じろと?」
「うーん・・・現に茜君は体験してるはずだよ。それにこの技術は説明しても理解できない領域だし、そもそも公開できないんだよね。」
大手上場企業だからといってノコノコついてきた僕が思うのも端から見たら可笑しいけれど、怪しすぎることに巻き込まれてしまった。
「仮死状態の脳内とpencilをリンクさせているんだよ、リアルに近い五感もそのおかげで成し得ている」
まるでSF世界そのものだが、とりあえずは納得するしかなさそうだ。理解はできないけれど。
「改めて、茜君。ようこそ《live》の世界へ。」