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「よっしゃあああああああ!!!!!」
秀の叫び声が止まった思考を貫く
「どうだった?」
いつもの秀の声がこの時ばかりは耳障りだった
こういうところでも神は贔屓するのか
「・・・僕は先に帰るよ」
「え、おい!」
咄嗟に呼び止めようとする秀だが茜は止まることなく去っていった。
「・・・まぁあんなに楽しみにしてたのに落ちたらそうなるか」
・・・どのくらい歩いたかわからないな。
というか帰り道こっちじゃないのにな。
夜は栄えているが昼間は全く人通りのない飲み屋街
今は一人だけの空間に居たい僕には丁度いい。
「少し休むか」
場所柄のせいか、やけに値段設定の高い自販機でコーヒーを買う。
一旦落ち着かなければ・・・
人もほとんどいない、強いて言えばliveの抽選係員のオーバープルジャケットを着てこちらに走ってくる女性くらいか・・・
「・・・なんでこんなところにいるんだ?!」
その女性は何か叫びながらこちらへ向かってくる
逃げようかと思ったけれどそんな気力が気落ちしている僕にはなかった
「はぁ・・・はぁああああ・・・!!!」
鬼気迫る表情を浮かべながらも心なしか安堵する彼女
「・・・どうしましたか?」
「ふぅー・・・今お時間よろしいでしょうか?」
ここまで走って追いかけてくるとなるとさほど重要な手違いでもあったのだろうか
断る理由もないので話を促す
「ありがとうございます。まず、先程liveの抽選に連番で応募されてた方でお間違いないでしょうか?」
やはりliveのことか、折角気持ちを落ち着かせていたにも関わらず、この話を蒸し返されるのも癪なので不愛想に無言で頷く。
「良かった・・・突然のお話で申し訳ないのですが・・・」
若干間を空けて放った一言が僕の人生を狂わせる
「liveの世界を体験したくはないですか?」
あまりに突拍子すぎた提案に何故か僕は即答していた。
彼女の名前もliveのハード、≪pencil≫の開発元であるTHN本社に訪れるまでに紹介してもらっていたが、思考は上の空、忘れてしまった。
「こちらが開発主任の佐野です。」
「茜君・・・でよかったかな?開発主任の佐野です。」
「あの・・・あまりの出来事で上手く呑み込めないんですが、事情を説明していただいてもよろしいでしょうか?」
「まぁまぁ・・・詳しいことはliveのなかで話そうじゃないか。こちらにどうぞ」
「liveのなか・・・?」
佐野が示した方向に視線を向けると黒塗りの・・・人が一人すっぽり入ってしまうくらいの大きさのマシンがあった。
「・・・これは?」
「pencilのプロトタイプだよ。最も市販されているものよりかは性能が優れているけどね。」
「これでliveに・・・?」
「ふふっ・・・そうだよ。今日は此処で使用してもらうけれど、後日、茜君の自宅に運び入れさせてもらうよ?」
「どうしてそんな・・・そもそも僕の家に入らなかったらどうするんですか」
「その辺はすでに調査済さ、事前にこちらに情報を登録してあっただろう?」
・・・抽選の時か、いや思考発声のフリーゲームも確か個人情報を入力したな。
「どうして僕・・・なんですか?」
「ここから先はliveで・・・ね?」
屈託のない笑顔でマシンに入ることを促す佐野
何か物語の主人公のような体験をしている興奮からか思考が鈍っている。
気づいたらpencilの中にいた。
フリーゲームで体験した没入感とは違う違和感を感じた。
・・・意識が遠くなっていく
「では、暫く楽しんでね」