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灰色の街
今朝は一段と冷え込んでいたので安物のコートを羽織った
茜、20歳。
フリーター、恋人なし。
特技も目立つものもなし。
変わった特徴といえば男なのに女のような名前だけ。
日々、漫画やアニメを観て脚色された物語にあこがれを抱く。
「これ誰に向けて語ってんだ・・・?」
友人との約束の時間に備え足早に家を出る。
「・・・どれだけ並んでるかな」
この日は待ちわびたコンシューマーゲームの発売日で店頭販売は抽選式。
友人と共に待機列に並ぶ約束だった。
「よう」
なじみの声に呼びかけられて振り向くと秀の姿があった
その風貌や人当たりの良さからリアルでは勿論、ネットでも人気者。
ハイスペックオタクと勝手に呼んでいる。
「早めに到着したつもりの僕が言うのも可笑しいけれど・・・秀、早すぎないか?」
待ち合わせの時刻として予定されていたよりも30分程早い到着であったが、
それよりも先に寒さで鼻を真っ赤に染めながらも僕を待っていた秀は恐らくかなり前から待機していたのであろう。
「こんな全世界のゲーマーが待ち望んでいたゲームの発売日に大人しく待っているほうが・・・どうかしてるぜ?」
「まぁ、その通りだよな」
今日から発売される家庭用コンシューマーゲームは今までのような固定観念を超越している。
その魅力はなんといってもコントローラーが不要なことだろう
脳からの信号を読み取り、キャラクターを操作する。
チャットなども思考発声を用いる。
「今日の為に思考発声の練習頑張ったよな・・・」
「あれは大変だったな、思考発声型のフリーゲーム配布とか運営の神対応のおかげでなんとか習得できたけれど・・・」
「あんなの練習せずにいきなりオープンワールドに出発とか有り得ないわ・・・なんたって考えていることが文字として勝手に出ちゃうもんな」
「ミュート機能とかはあるけど会話に支障が出るだろうから基本つけっぱなしにするから・・・誤爆とか当たり前になりそう」
『ただいまより新作MMORPG≪live≫の最速抽選販売を行います』
「「「「「うおぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!!」」」」」
辺りの人々が熱い歓声を上げる。
「俺、今日まで生きててよかったよ・・・」
妙にガタイの良い、如何にも職人のようなオッサンまで感動で顔を赤くする。いや寒さのせいもあるか。
『なお、抽選に当選された方は事前に告知しておりましたが、公的身分証明書が必要な為、そちらも必ずお持ちください。』
辺りが未知の世界への興奮のせいか今の告知には全く無関心であったが、僕と秀は以前より少し気になっていた。
「なぁ、普通に考えておかしいよな?」
「ただのゲームの販売にそんな手間をかけないでいいのにね・・・」
「一度ユーザー登録したら他のユーザーの手に渡っても使用できないらしいからその為に使うのかもな」
「中古品が出回らないからここでゲット出来なかったらかなりショックだね」
「その時は新作が出るまで首を長くして待つしかないよな・・・」
そんな会話をしているうちに僕と秀の抽選番号の順番になった
「連番で取っといてよかったよ・・・この長蛇の列に僕一人で並ぶとか暇すぎて考えられないよ」
「さぁそんなこと言ってないで早く行こうぜ・・・新しい世界が待ってる」
「厨二っぽいね、けれど僕もうずうずしてきたよ」
免許証を係員に見せ、入り口を通過する。
抽選タッチパネルの前に二人並んで立つ。
「いくぜ?」
「・・・うん!」
興奮よりも抽選結果が気になって緊張してしまい、手が震えている。
抽選箱ではないのでこの液晶をタッチするだけで結果が出力される。
震える指で押してみたのだが、上手く反応してくれなかったのでもう一度意を決して押す。
パネルに表示される《お客様にはご用意できませんでした》の簡素な一文
「え・・・」