第4話 ルーフェスト=ナギリス 後編
出会って…初日に…告白
私、何した⁈
告白されるような甘いエピソードあったかな⁈
「あの…えっと…出会ってまだ…半日も経ってないよ。しかも、特別な人を作らない主義の人が一体なんで…」
朱奈は、何か言わなきゃと一生懸命頭を回転させ、やっとの思いで言葉を紡いだ。
この人、意味分かんない‼︎
いや、実際乙女ゲーとかで主人公に最初から好意を寄せているキャラとかいるよ。一目惚れとかも現実にあるよ。
でも、出会って初日に告白はないよね⁈
この人、まだ私の中身を知らないから…見た目を好きになったのか?
私、そんな特別可愛いとか美人とかじゃなく普通だと思うんだが…
誰とも付き合わないから理想が高いのかと思ったけど、変わった趣味なのかな?物好きなのかな?何か裏があるのかな?
じゃなかったら、あんな美形が私に告白なんてあり得ないでしょ‼︎
本当の15歳なら、こんな美形に優しくされて、告白されたらドキドキして、嬉しいだろう。
しかし中身は30歳の朱奈は、物事を斜めに見る癖がついていて、美味しい話には、まず疑ってかかる。
色々拗らせてしまい、自己肯定感が低くなってしまい、美形が自分に好意を寄せるなんてあり得ないと、心の底から思っているのである。
「ふふふふふっ…」
頭の中で色々考えていたら、ルーフェストに笑われた。
「良いね、その顔。面白くて良いよ。ふふふふふっ」
「そんなに変な顔、してたかな?」
「表情がコロコロ変わって見てて楽しいよ。そう言うところ好きだな」
朱奈はストレートな言葉に思わず赤面した。
ホント女慣れしてるって感じだな。こんな事さらりと言う人漫画とかじゃないといないよ。流石、異世界。
「流石、浮名を流しているだけあるわね。ホントよくそんな小っ恥ずかしいセリフが出てくるわー」
「君にだけだよ」
嘘こけ‼︎‼︎‼︎
そんなやり取りをしていたら、料理が運ばれてきた。
サラダ、スープ、お肉にお魚。見た目も美味しそうだし、とっても良い匂いがする。
繊細な飾り付けとかはなく、素朴な感じ。お肉は豪快な感じだが気取ってなくて私は結構好みだ。
ルーフェストは、手際よく次々と取り分けてくれた。こう言うさりげない気遣いがモテる秘訣よね。
ストレートな愛情表現、さりげない気遣い。まだどんな人かよく分かんないけど、今まで見てきた一面は好きになる要素満載だ。しかも美形。
本当の15歳の時の私なら、きっと既に恋に落ちていたに違いない。
それでも初日に告白されたら戸惑うけどね。
「さあ、冷めないうちにどうぞ」
「じゃあ、いただきます」
朱奈は手渡されたスープを口に運んだ。
美味しい‼︎‼︎‼︎
野菜がゴロゴロ入ったポトフに近い感じだけど、お肉と野菜の味がスープに滲み出て美味しい。香辛料もいくつか入ってるのかな?それが良いアクセントになってて、美味しさをより引き立たせている。
「どお?お味は」
「すーっごく、美味しい‼︎」
朱奈はやや興奮気味に、力一杯答えた。
「そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。じゃあ、他の料理も冷めないうちに食べよう。後でデザートも追加しよう。ここのプリンは格別だから」
プリンあるんだ‼︎
その後二人は、楽しく談笑しながら食事を楽しんだ。
店を出ると馬車が待機しており、乗るよう促された。
きっ…気まずい‼︎
先程の告白があったから、狭い空間で二人きりはかなりキツイ。
さっきは話が途中で中断しちゃったから、その話をされそうで怖いよー
朱奈の予感は的中し、ルーフェストは先程の話をし始めた。
「さっきの告白だけど。出会って間もないのに付き合うとか考えられないって言う君の気持ちは理解出来たよ」
「…うん…」
「じゃあ、恋人のフリは?」
「はっ?」
ルーフェストはまた、予想もしない斜め上をいく発言をした。
「家にいる一ヶ月、寮に入って離れて暮らす期間二ヶ月。計三ヶ月間の間、恋人のフリをして欲しいんだ。勿論実際に付き合ってはいないからキスもしないし、それ以上の関係もない。まあ、対外的に付き合っているとおもわせるためか、手を繋いだり肩を抱いたりは有りにしてほしいかな」
「それで期間が三ヶ月なのは?」
「実は最近母からお見合い話が多くてウンザリしていたんだ。入学して二ヶ月経つと一週間の休暇があるのだが、その頃ちょうどパーティがあってね、そのパーティに同伴して欲しいんだ」
「成る程…」
「その後もフリを続けてもらえるならこちらとしては助かるけど、君も自由に恋をしたいだろう?それにパーティを乗り切れば母は暫く周遊の旅に出るからね」
朱奈が少し考えているとちょうど馬車が止まった。どうやらルーフェストの家に着いたようだ。
「着いたね。答えはまた後で聞かせてくれ。出来れば明日には聞かせてもらえると助かるな」
そう言いルーフェストは、先に降りて馬車を降りる朱奈に手を差し伸べた。
朱奈はその手を取り、前を向くとそこにはとても大きなお屋敷があった。
後ろを振り向くと、目の前に噴水があり、その周りを馬車が回れるようになっている。その先は一本道で、遠くに門がある。おそらくあれがこの屋敷の入り口に当たるとこだろう。入り口から実際に建物に行くまで長すぎる。これは馬車でもないと建物まで辿り着くのが大変だ。
流石領主様のお屋敷は凄いな。
扉が開くとそこにはメイドと執事と思しき人達が控えており、朱奈はメイドに客室を案内された。
屋敷や部屋にあるものの説明を一通り受けると、一人のメイドがやや興奮気味に尋ねた。
「ルーフェスト様とはどういったご関係なんですか⁈」
「ルーフェストは…恩人…かな?」
「恋人ではないのですか⁈」
「いやいやいや‼︎違うよ、そんなんじゃないよ‼︎」
まだ恋人のフリを受けると決めたわけじゃないし。嘘じゃない。
「なーんだ。違うんですね。ルーフェスト様、地位も美貌もお持ちだから、たくさん女の人は言いよるんです。しかも女好きだから、色んな人とデートするし。でも特定の人は今までお作りにならなくて。初めてなんです。女性を家に招待するの。しかも、家に住まわせて、今後の生活の面倒まで…。これは遂にルーフェスト様にも唯一人のお方が‼︎と屋敷の者は皆興奮していたのですよ‼︎」
それで着いた時、屋敷の人たちの私を見る目が変だったのか…
期待させて悪いが、彼が屋敷に招いたのは利害の一致だからなんです…
「ルーフェスト様、軽薄に見えるかもしれませんが、本当はとても真面目な方なんです。是非ともルーフェスト様の事、よろしくお願い致します‼︎」
まるで、うちの子すごくいい子なのよ‼︎とめっちゃゴリ押ししてくる母親の様だ。
でも、それだけルーフェストが屋敷の人に愛されている証拠だ。
少し、ルーフェストへの好感度が上がった。
大浴場があり、気分良くお風呂に入ってきた朱奈は廊下を鼻歌を歌いながら歩いていた。
すると、窓の外を眺めているルーフェストがいた。
「ルーフェスト…」
「やあ、風呂上がりかい?」
そう言い、ルーフェストは朱奈のまだ少し濡れている髪に触れた。
月明かりに照らされたルーフェストを見ると、彼もまた少し髪が濡れており、風呂上がりのようだ。
そのせいかいつもより色っぽい。
なんか顔が火照ってきて、ドキドキしてきた。でも風呂上がりだからだよ、きっと。
そう思い朱奈は首を横に降る。
「シュナ?」
ルーフェストは朱奈の顔を覗き込んだ。
顔と顔が近く、吐く吐息がかかりそう。
朱奈は一歩下がって言った。
「ルーフェスト、取り敢えず三ヶ月、恋人のフリをするよ」
「ふふっ、それは助かるよ」
「だってあなたが私を学校に入学させてくれたり、世話してくれるのってそれがあるからでしょ」
「なんだ、気づいていたのか」
「出自の分からない私なら、ややこしい家の問題もないし、魔法学校へ入学して寮に入れば会う頻度が少ないから嘘もバレにくい。恩があるから私は断りにくい。うってつけの相手よね」
「でも、恩を売って強制しようとは思ってないよ」
「分かってる。でも、ただの善意より、利害一致のが信用出来る。正直やっぱ怖いからね。行くあてがないからと、今日あった人に色々お世話になるの」
「確かに、それもそうだな」
朱奈はルーフェストに手を差し出した。
「じゃあ、これからよろしくね」
ルーフェストは朱奈の手を取ると、その手を引っ張り抱きしめた。朱奈の顎に手を添えて、顔が近づいてくる。
朱奈は彼の口に手を添えた。
「その手があるとキスが出来ないんだが」
「キスは無しって話じゃなかったっけ?」
「その先も?」
「当たり前でしょ‼︎」
ルーフェストはうなだれた。
やっぱりこの人遊び人だ。
「と言うか、別にフリなんだし、今までみたいに女の人と遊んだら?」
「今回は初めて本気で好きになったと思わせたいからね。遊びは控えるよ。ただ、オレも男だからね。他の女性と遊ばないわけだし、スキンシップは少しは欲しいなと」
「自分でキスとかしなくて大丈夫って言ったくせに」
「あそこでしたいって言ったら、断っただろ?」
…確かに
「だから…ね」
ルーフェストは懲りずにキスしようとした。
「ダメなものは、ダメ‼︎」
「なら…」
ルーフェストは朱奈の顔に手を添え、頬にキスをした。
「ちょっと‼︎キスは無しじゃなかったの⁈しかも、また抱きついてきてるし‼︎」
「頬は挨拶みたいなものだよ、ふふふふふっ」
「もー、離しなさーい‼︎」
満月がとても綺麗な夜。ルーフェストの館に朱奈の叫び声が響き渡った。
OKするの早まったかもと、早くも後悔した朱奈であった。