第2話 マイナス15歳
綾月 朱奈、30歳。只今婚活中。
婚活がうまくいかなくてやけ酒呑んで寝たら、異世界にきていました。
…と思ってたんだけど…
なんか姿変わってる⁈
15歳も若返ってるし、服も当時の制服だし…
一体なんなんだ…
でも、15歳になったってことは青春真っ只中だよ‼︎
恋に勉強に忙しい時期だよ‼︎
ついこの間までは30歳だし、みんな結婚してるし、子供欲しいし、老後一人は嫌だし、一人で働き続けるのしんどいしって思って婚活して焦ってたけど、全然婚活とか考えなくて良いじゃん。
寧ろ結婚なんて随分先だし、純粋に恋愛を楽しめる。
あぁ、若いって素晴らしい。
いや、若くなくても恋愛を楽しんでいる人はいる。でも私にはそれが出来なかった。
色々気になって結婚って形が欲しかった。
そんな私でも今なら楽しめる。この世界に来て、この姿になって良かったと少し思った。
「ねぇ、その服可愛いけど、とても不思議な服だよね」
ショーウィンドウに映る自分の姿を見て考え込んでいた朱奈に、黒髪の美形は背後から声をかけて肩に外套をかけた。
「あっ、どうも」
今まで気づいていなかったけど、確かにこの世界でこの服は目立つかも。それで面倒ごとにならないように外套をくれたのか。結構気がきく人だな。
朱奈はまた歩き始めた。黒髪の美形はニコニコしながら横に並んで歩いている。
15分くらい歩くととても広い円形の広場に着いた。真ん中に噴水があり少し離れてそれを囲うようにベンチが並んでいる。その後ろには露店がたくさん出ていて賑わっていた。円の外側には大きな建物が立ち並んでいる。
その中で一際大きな建物があった。多分あれが管理局だろう。朱奈は管理局の入り口にまっすぐ向かった。
中に入ると吹き抜けの広いエントランスが広がっていた。受付のお姉さんが横に長いデスクにたくさん立っている。その前にたくさんの人が列を作って並んでいた。
取り敢えず目立ちたくないので左端の列に並んだ。
そして何故か黒髪の美形も一緒に並んでいる。
「あの、着きましたしもう良いですよ。用事、あるんですよね?」
「うん、用事があるから並んでいるよ。君の後ろにね」
…まあ、次の人は床に書いてあるラインより後ろで待っている感じでやってるみたいだし、まあ良いか。
この感じATMに並ぶ時みたいで親近感を覚える。次の人がすぐ後ろにいると内容聞かれたりして嫌だしね。
朱奈は自分の番が来たので前へ進んだ。すると何故か黒髪の美形も一緒に前へ出る。
「なんであなたまで一緒に‼︎後ろの人はあの線より後ろで並んでいるんじゃ…‼︎」
「うん?気にしない気にしない♪」
物凄く困るんですけど‼︎‼︎‼︎
黒髪の美形は軽い足取りで朱奈より先に受付に着く。
「やあ、リュラ久しぶり」
「あら、帰られてたのですね」
「さっきね♪」
黒髪の美形はどうやらリュラという受付のお姉さんと知り合いのようだ。知り合いだからついてきたとか?リュラはチラッと朱奈を見て言った。
「で、本日のご用件は?この女性と関係が?」
黄緑がかった黄色の瞳と髪をしたキリッとした目つきのリュラは声も凛としていてちょっと怖い。髪をまとめており、ピシッとしているのでさらに怖い。
朱奈はタジタジになってしまい、なんて言おうか考えていると、黒髪の美形が話し始めた。
「この子ちょっと遠くから来たみたいなんだけど、魔法に興味あるみたいなんだよねー。ってなわけで、魔法学校に入る手続きと、寮への入居など諸々の手続きをしたいんだけど。あっ、かかったお金はオレに請求して」
「へっ⁈えっ⁈」
「あれ?違った?」
「いえ…あの……」
「なら、良かった。じゃあリュラよろしく」
リュラは目を丸くした。暫く考え込んでから別室で待つようにと、二階の応接室に案内された。
手続きの書類を持ってくると言われ、今朱奈は、彼とソファに座り二人きりだ。
朱奈は呆然とした。取り敢えず朱奈がやるべきことは衣食住の確保。なのでどこか住む場所と働き口を探しにきたのだが、魔法は興味あった。
魔法学校へ入学と寮への入居は願ったり叶ったりだ。よくわからない場所で寝泊まりするより安心感はあるし、学食とかありそう。なにより魔法を学べる‼︎
しかし、学校は学ぶ場。お金がかかるだろう。ここのお金はあいにく持っていない。払えない。
それを、縁もゆかりもないさっき知り合ったばかりの人が援助までするという。
全くもって意味が分からない。
何か裏があると勘ぐってしまう。
それともそんなにお金が余ってるのかしら。
暇つぶしにしては、随分お金かかりすぎですよ。
「あの、折角のお話ありがたいのですが、私お金ないんです。学費とか寮費とか払えません。なので働きたいんです」
「知ってるよ。どんな経緯でここにきたのかは知らないけど、お金も、住む場所もないんだろうなってのは分かった。後、知人がいるって話も嘘でしょ」
「あっ…」
そういえば、そんな嘘言ってたな。すっかり忘れてた。しかもあっさり見破られてるし。
そんなに私、嘘つくの下手かな…。
「別に見返りは求めていないよ。オレの善意。まぁ、すぐには信じ難いよね。諸手続き、学費、食費、諸々の生活費全て面倒見たいんだよ」
「なんで?見返りもないのにそこまで…怪しい…。知らない人にそこまでしていただく理由はありません」
「まぁ、普通はそう思うよねー」
その時書類等を持ったリュラが現れた。
「そうだ。リュラ、オレのことをこの子に説明して欲しいんだ。なんか怪しまれちゃっててさー」
「確かに怪しさ満点ですよ」
「ひどっ‼︎」
「まあ、良いでしょう。あなたのお戯れに付き合わされて不安そうにしている彼女がかわいそうですしね」
そう言い、リュラは黒髪の美形について話し始めた。