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第1話 異世界へ

「…な……朱奈……。………の……花嫁」


「んっ…」


 ほんの少し冷たい風が頬を撫でる。しかし、それが心地良い。暖かな日差しと相まって絶好の昼寝日和という感じだ。風でそよめく草が顔をくすぐるのが少しこそばゆいが。


「草っ⁈」


 朱奈は不思議な感触に慌てて飛び起きた。目を開くとそこはあたり一面草原が広がっている。少し左に舗装された道がある。空は青く、雲ひとつない。


「ここどこ…?私、家で呑んでて…えっ?」


 朱奈は酷く混乱していた。朱奈は確かに家で呑んでそのまま寝た。それが目が覚めたら家でなく、どことも知らない場所でしかもただ草原が広がっているだけの場所で寝ていたのだ。


「たくさん呑んでたし…夢?かなぁ」


 そう思い頬をつねるがとても痛い。それに草が頬をくすぐる感触、風が頬を撫でる感触、地面を踏む感触。全てがとてもリアルだ。


「こんなにリアルな夢ってあるのかな?夢じゃなかったら何これ?誰かに寝てる間に連れさらわれてここに捨てられた⁈」


 朱奈は腕を組み色々考えた。しかし何が正解かは皆目見当もつかない。


「…取り敢えず、歩いてみるか」


 そう言い左にある道へと歩いた。そして少し下りになっている方へと歩き出した。



 ひたすら歩き続けているとあたりはすっかりオレンジ色になった。歩き始めた時は人はいなかったが、何人か同じ方向へ歩く人がいた。数百メートル先には大きな門があり城壁に囲まれた町か要塞か何かの施設が見えた。


「やっと人がたくさんいそうな場所が見えた。これで何処かわかる」


 途中から人を見かけたので話しかけてみようとしたが、誰かに連れさらわれて捨てられた線も捨てきれないので人に話しかけるのが怖かった。あそこなら人も多く警察もいるかもしれない。早くどこか知りたくて朱奈は早足になった。



 門の前まで来ると、2人の甲冑を着た人が通る人をチェックしていた。それを受ける為にたくさんの人が列を作って並んでいた。なんのチェックをされるか分からないが、並ばないと中に入れないのは分かったので目立たないように大人しく並んだ。

 門から見える中は、レンガで出来た建物が綺麗に並んだ街並み。街並みも人々の姿、格好も日本人や日本の物ではない。まるで海外やファンタジー系のゲームの中に来たようだ。

 しかし、並んでいる人が話しているのは日本語。これはとてもリアルな夢か異世界の線が濃厚になってきた。もしくは何処かの悪の組織が壮大な箱庭を用意して、ここにいる人たちは雇われていて日本語を話せるとか?

 しかし、朱奈を連れさってこんな大掛かりな事をする意味が分からない。

 色々思案しているうちに、朱奈の番がきた。


「こっ、こんにちは」


「…んっ?ほらさっさと出しな」


「へっ?」


「へっ?じゃないよ。後ろが使えてるんだから早く通行証を出しな」


「あぁ、通行証ね。通行証…」


 焦ってポケットを探ったりするが何も出てこない。夢なら都合良く持っているかと思ったら、そう都合良くはいかないようだ。


「あれっ?どこいっちゃったのかなー?落としたかなー?」


 朱奈の怪しい動きに甲冑の男は訝しんだ。


「おい、お前本当は持ってないんじゃ…」


 その時、後ろから花の良い匂いがした。匂いに気を取られていると、後ろから誰かに抱きつかれた。声を上げようとしたら右側から手で口を押さえられてしまった。そして空いた右手で甲冑の男に何かを差し出している。


「悪いね。これ、この子の通行証。この子オレの連れなんだけど、自分のと一緒に持っててさ。んでこっちがオレの通行証」


「これは…ほら嬢ちゃん悪かったな。もう通って良いぞ」


 なにかよく分からないが、後ろの人が助けてくれたようだ。


「あの、ありがとうございます」


 通行の邪魔にならないように門から少し離れてから立ち止まり、後ろを振り返ってお礼を言った。

 振り返ると漆黒の髪と瞳、そして真っ赤な着物を着崩したような格好の男の人だった。髪は肩甲骨より少し長く、一部髪を結って簪をさしている。この街の人達とは全然違う見た目と格好。日本人に見える人を初めて見て、少し親近感を覚えた。


 そして凄く美形で妖艶だ。


「気にしなくて良いよ。余り物だしね。良かったらあげるよ。君、通行証をなくしたみたいだし」


 黒髪の美形はそう言い微笑んだ。

 こんな美形と話す機会なんてなかった朱奈は美形に微笑まれ赤面した。


「あっ、ありがとうございます」


 美形はニコニコしながら一本距離を縮めた驚いた朱奈は半歩後ろに下がる。すると腰に手を添えてグッと身体を引き寄せた。


「君この辺じゃ見ない顔だけど、遠くから来たの?」


「えっと…まあ、そうだと思います」


「思う?」


「あっ…その…」


 朱奈はしまったと思った。助けてくれた人だけど、怪しさ満点。信用できない。


「知人がこの街にいるのですが、どこに住んでるか分からないので役所に行きたいんですが、場所教えてもらえますか?」


 身体をグッと押し戻して離しつつ、苦し紛れに話題を逸らして、ここがどこか知る手がかりを手に入れようと考えた。


「その知人の名前は?オレこの街の人の事なら大抵知ってるよ」


「えっ⁈」


 まさかの切り返しに動揺する。朱奈は深呼吸して相手を真っ直ぐ見つめて伝えた。


「助けていただいて申し訳ないですが、初対面の人をいきなり信用することは出来ません。なので然るべき公的機関で調べますので結構です」


 黒髪の美形は目を丸くした。ちょっと言い過ぎただろうか。

 やがて黒髪の美形は口元を緩め、笑い始めた。


「フハハハッ‼︎あっ、いやすまん…フハハハッ。確かに怪しいな。うんうん。しっかりしたお嬢さんで感心したよ」


 どうやら怒ってはいないらしい。


「それならこの大通りを真っ直ぐ行くと、ひらけた場所に出る。そこが街の中心だ。そこにある1番大きな建物が管理局と言って、街の色々な事を管理している。中に入ると受付がある。そこで用件を伝えればそれに適した部署を案内してくれるよ。その左に騎士院、右に魔法院があるけど、そっちに用事がある時も、管理局で聞けば案内してくれるよ」


 黒髪の美形は丁寧に教えてくれた。


 ー魔法院ー

 即ちこの世界には魔法が存在することを示している。朱奈は心の中でガッツポーズした。

 朱奈は昔からアニメやゲームで見る魔法に憧れていた。よく呪文を覚えて唱えたものだ。魔法について知りたいという欲求に駆られて、意外と親切丁寧に教えてくれたのでついでに魔法についても質問してみた。


「あのっ、ここには魔法を学ぶ場所はありますか?私でも魔法は学べますか?」


 黒髪の美形はまた目を丸くした。そんなに変な質問をしただろうか。


「いや…失礼。確かに女性魔導師も昔より数は増えたからね。結論から言うとなれるよ。この街にはさっき言った魔法院に管轄の学校があるからね。場所は少し離れるけど」


 少し引っかかる言葉があったが、誰でもなれると言うことに、朱奈は安堵した。


「でも、この街の魔法学校に入るにはナギリス領に住んでいないとダメなんだ。基本は自分の所属する領土内の魔法学校に入るからね。まぁ、ここの魔法学校は国内でもレベルが高いから他領や他国の生徒もちらほらいるけど」


 ナギリス?言い方的に、ここはナギリス領という領土内というところか。


「他からの場合はどこ所属のものかって言う書類が必要なんだけど…君持ってる?」


 …えっ?

 そんなのないわよ‼︎


 異世界って普通に召喚された人とか暮らしていけてる感じだと思ってたけど、住民票みたいなのないとまずいのかな…

 あっ、でも乙女ゲーだと異世界に飛ばされた主人公を攻略キャラが最初に助けてくれて、衣食住の確保みたいな感じあるあるだし…


 ………


 確かに私は乙女ゲーに出てきてもおかしくないような黒髪の美形に助けられて、色々教えてもらってる……


 いやいやまさか。乙女ゲーみたいにたくさんの良い男とフラグ立つとかそんな現象ないない。婚活で疲れた脳が癒しを求める為に現実逃避してるのかしら?

 まあ、夢にしろ異世界にしろ、この世界にいるうちは衣食住を確保して生きていかなきゃいけないから頑張らなきゃ。

 その為にここは異世界、と思うことにしよう。夢だと思って楽観視し過ぎて死んだりしたら嫌だしね。

 今のところこの人親切だけど、乙女ゲーみたいに本当に親切な人とは限らないし、警戒は怠らないようにしよう。


「大丈夫?」


 朱奈は声をかけられ、ハッとした。


「あっ、すいません。色々考え事をしていて。取り敢えず管理局に行ってみますね。色々教えてくださりありがとうございました」


 そう言い、早足で朱奈はその場を離れた。

しかし、後ろから足音がついてくる。


「あの、ついてこなくて大丈夫ですよ」


「気にしないでくれ。オレもちょうど管理局に用事があるんだ。ついでに知り合いの管理局員に口添えしてあげるよ」


 黒髪の美形はニコニコしながらついてくる。

 まあ、大通りで人の行き交いも多い。下手なことはしてこないだろう。


「あっ‼︎」


 黒髪の美形は急に声を上げた。


「ちょっと待ってて、すぐ戻るから」


 そう言い、黒髪の美形は横にあったお店に入っていった。そして数分で出てきた。


 ホントにすぐ戻ってきた。しかもなんか持ってるし。


「取り敢えずこれ羽織っておいたほうが良いよ。オレは気にならないけど、管理局員にはお堅いやつもいるからねー」


 そう言い、黒髪の美形は外套を朱奈に渡した。

 どう言う意味か分からず首を傾げていると、黒髪の美形は横にあるお店のショーウィンドウを指差した。


「自分の姿、見えるよね?」


 そう言われて光の加減でうっすらとしか映っていないが、自分の姿を凝視した。


「えっ…えぇっ‼︎」


 そこには思いがけない姿が映っていた。

 焦げ茶の瞳に、赤茶の髪でセミロング。確かに自分ではある。しかし若い。私は今30歳だ。

 しかし、映っている姿は中学の卒業アルバムに映っていた姿をしている。しかも服も中学の制服でセーラー服‼︎


 私、15歳も若返ってる⁈

なんで⁈


 意味分かんないー‼︎


「なにこれー‼︎」


 朱奈は暫く呆然としその場から動けないのであった。

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