第16話 新入生実力テスト1
入学してから数日が経ったある日、朱奈たちは校内の闘技場に来ていた。観客席には先輩や騎士科の人たちがいっぱい座っている。
今日は新入生実力テストが行われるのだ。
明日から騎士科も魔法科も本格的な実技が授業で開始する。それに伴い新入生の実力を見て専門授業のクラス分けをするのだ。
テストはトーナメント戦の模擬試合。魔法科、騎士科の順に行われる。そして最後は魔法科・騎士科の上位二名ずつ選出し、魔法科・騎士科一名ずつのペアを組み戦う。
組み合わせは、バランスを取るために魔法科一位と騎士科二位、魔法科二位と騎士科一位がペアになる。
噂では先輩の模擬試合も見られると聞いた。自分の出番は怖いが、こう言ったイベントはやはり皆楽しみで、ワクワクしている。他の人の戦い方が見れるのは凄く楽しみだ。
魔法科は最初なので下に降りて自分の出番を待っているところだ。
ルールは相手が戦い続けるのが困難になるか、負けを認めさせれば勝ち。相手の生命が危なくなるような魔法を感知した場合は、すぐに中止に出来るよう先生たちもスタンバイしている。
一応ルールの中に今回は初級魔法のみ使用可能と書いてある。未熟な新入生が難しい魔法を使い暴発させるのを防ぐためと、広範囲魔法は観客にも被害が及ぶためだ。
因みに騎士科の試合は木刀で行われる。
「勝者、キーリ‼︎」
会場が湧いた。キーリが勝ったようだ。流石主席入学者。
因みにイリスは先程負けた。彼女の使える魔法は、今のところあの紋様の精霊のみ。しかし、それは最高位魔法に属するので、今回の試験では使用出来ない。なので負けてしまうのは仕方がないことなのだ。
まあ、あの子は魔法の基礎を学んで精霊をコントロールする事が目的だからゆっくり基礎を学べるクラスのが好都合だろう。
そうこうしているうちに私の番がやってきた。
「ううー、緊張するー」
「お手柔らかにね」
そう言い対戦相手は微笑んだ。彼女は同じクラスのサラだ。確か水魔法が得意と言っていたかな?
「では、始め‼︎」
合図とともにサラはお得意の水魔法を繰り出す。私はそれを避けつつ、身体強化魔法をいくつか重ねる。
「速度強化、速度強化、速度強化ーー‼︎」
身体強化魔法は今の私は三つ付けれる。つい先日知ったのだが、同じのを重ねて付けることも出来るようだ。まあ、二個付けたからといって効果が二倍とはいかないが、三つ付けるとかなりの効果だ。
初級魔法のみというのは、魔導士にとってはなかなか難しいのだ。確かに魔力によって同じ魔法でも威力は違う。しかし、初級魔法だ。大魔法とかに比べたら全然ショボい。
つまりこの試合では魔法以外の要素がかなり重要になってくるのだ。
私はルーフェストに、魔法を学ぶなら身体能力を高めるのも大切だと言われ毎朝走っていた。
確かに戦う場合、持久戦になるなら体力がいる。魔法は精神力に依存するが、体力もたなきゃそもそも意味がない。
魔導士は戦いでは基本後衛だが、敵の攻撃が来ないわけではない。攻撃を避けれる瞬発力、攻撃を防げる防御力もあった方が戦術の幅が広がる。
私は防御を棄てて瞬発力を上げた。
サラの攻撃をかわしつつ、彼女の背後に回る。
「ウインドブレス‼︎」
私は彼女の背中に至近距離で風の魔法を打ち込み。風圧に押されて彼女はそのまま地面に落ちた。
「勝者、シュナ‼︎」
ワッと歓声が上がる。上を向くと寮のみんなが手を振っていた。
それから、私は勝ち進んだ。ルーフェストに特訓してもらった一ヶ月は大きい。私の実力はまだ皆には遠く及ばないが、体の基礎作りと実践における魔法のコツを学んでいたのでそれが有利に働いた。
この制限ありの戦いは私にとって好条件だった。
普通魔導士なら魔力が高いほうが良いと思うだろう。
まあ、そうなのだが、それだけの人は役に立たない。体力・体術・知略等色々伴わなければ役には立たない。
魔法学校に入ったばっかの生徒は魔法以外が欠如している者が多いとルーフェストから聞いた。
私は皆に魔法で負けているから、他をしっかり鍛えて差をつけろと。
半信半疑だったが、本当にその通りだった。流石首席卒業生の言うことは違う。
そして、遂に私は決勝戦に駒を進めた。
相手は予想通り、首席入学のキーリ。周りの皆は首席対ダークホースと騒いでいる。
「まさか君が相手とはね。先日の件は謝罪するよ。君にはある程度は実力がありようだね。まあ、魔法の力は怪しいが」
「どうも、ありがとう。魔法はまだ未熟かもしれないが、貴方に負けるつもりはない」
「望むところだ」
「それでは、始め‼︎」
始まった瞬間、二人は走りながら身体強化魔法をかける。
「速度強化、速度強化、速度強化ーー‼︎」
「速度強化、速度強化、攻撃強化、攻撃強化ーー‼︎」
えぇっ、四つ⁈
しかも攻撃強化って……。
するとキースは速度を上げて近づいてきて足技を繰り出す。そして怯んだ隙に私の体に魔法を叩き込んだ。
「くはっ……‼︎うっ……」
一瞬の出来事だった。
「勝者、キース」
私は負けた。しかも一瞬で勝負がついた。情けない。情けなさ過ぎる。
キースが立って私を見ている。なんか不敵な笑みだし。ほら見ろ、お前の負けだ。とでも言いたげな顔だ。むっ、ムカつくー‼︎
ああ、倒れた時の衝撃で体が痛いし、目が霞んでよく見えない。意識も……。
こうして私は意識を手放した。
「試合‼︎……ってあれ?」
朱奈は目を覚ますと、真っ白な部屋にいた。あたりを見渡すとカーテンで覆われていて、ベッドに寝ていた。どうやら医務室に運ばれたようだ。
「おねえちゃん、だいじょうぶ?」
横を見るとイリスがいた。医務室に運ばれた私を心配して、ついていてくれたようだ。私はイリスの頭を撫でた。イリスはくすぐったそうにしている。でも、心地いいのか嬉しそうだ。
「あっ、試合。そう言えば試合はどうなったの?」
イリスに質問をすると、医務室の扉が開き、区切られていたカーテンが開いた。
「シュナ、大丈夫か?全くキーリも酷いやつだな。シュナに怪我を負わせるなんて」
「リッツ、でも試合だし……」
「怪我を負わせるにしても、限度があるだろ。あいつ本気でシュナに蹴り入れてたな」
あれは痛かった。でも、キーリが体術習得していたことに寧ろ驚いたよ。
「それで、試合は……」
「今、騎士科の試合が終わったよ。オレが優勝で、準優勝がエリオス。だから、混合の試合は、オレとシュナVSエリオスとキーリだよ。シュナと一緒にペアが組めて本当に嬉しいよ。優勝より、君と他の人がペアを組むのが許せなくて頑張ったんだ」
リッツは爽やかな笑顔で微笑んだ。その後ろから疲れ切ったエリオスが現れた。
「こいつ、マジヤバイよ。いや、ホントに。シュナとペアになるのは自分以外許さないって殺気立ってて、試合怖かった。殺されるかと思ったよ」
「エリオスなに言ってるんだい?オレがそんな怖いだなんて、はははっ」
キラキラ眩しいリッツを見て、エリオスは本気で震えている。
「じゃあもうすぐ試合?」
「いや。君は医務室だし、エリオスも疲れ切っているからね。先に先輩たちの試合が始まるよ。起き上がれそうなら観に行くかい?」
「うん、観たい‼︎」
「じゃあ……」
「おねえちゃん一緒に行こ」
リッツの言葉に被って、イリスが朱奈を誘う。朱奈とイリスは嬉しそうに仲良く手を繋いで歩いて行った。
出遅れて固まっているリッツの姿を見て、エリオスはコソッと笑ったが、笑ったのがバレてリッツに睨まれる。
エリオスは逃げるように二人を追いかけ、リッツもその後を追った。
観客席の寮のみんながいる場所に行くと、ハーヴェル先輩の姿がない。
「あの、ハーヴェル先輩は?」
「ああ、あいつなら あ そ こ」
モナ先輩は下を指差した。その指の先を辿ると装備を身につけたハーヴェル先輩の姿があった。
今から行われる先輩たちの模擬試合。しかし何故か三人しかいない。姿的に騎士科二人に魔法科一人?
しかもあの並び方だとまるでハーヴェル先輩が二人を相手するような……。
私の考えていることが分かったのか、モナ先輩は教えてくれた。
「異例なんだけど、ハーヴェルが騎士科、魔法科の生徒二名を相手するのよ。……まあ、理由は見てれば分かるわよ」
状況的にハーヴェル先輩の方が不利だけど、それだけ先輩が強いって事なのかな?
「二年生によう模擬試合を始める。では、始め‼︎」
合図がなると騎士科の二人が剣を抜いた。すると、さっきまでいつも通りふわふわしていた先輩の様子がおかしい。
「おおっ……うおぉおおおおおーー‼︎‼︎‼︎」
先輩は突然叫び出した。
なっ、何事なの⁈
次の瞬間、魔法を唱えている魔導士めがけて先輩が斬り込みにかかる。
「おらおらおらあぁあああああーー‼︎」
圧倒的な強さ。しかし、それ以上にこの変わりようは……。
「ハーヴェルはね、剣を握ると性格が変わるのよ。狂戦士って言われてるのよ」
初めて見たハーヴェル先輩の変わりように、朱奈は驚き開いた口が塞がらないのでした。