第14話 緊急事態 前編
今回の話の流れの都合上、第1話の人物描写のルーフェストの部分を変更しました。
【シュナ、緊急事態だ。母上が、帰ってくる。話がしたい。寮で待っている。】
ルーフェストからのSOSを受け、朱奈は急いで帰った。
「ルーフェスト‼︎」
寮に入るやいなや、朱奈は叫んだ。すると、食堂の扉が開いた。
「やあ、シュナ悪いね、外出中に」
「大丈夫よ。用事は終わってたから」
「なら、良かった。……ん?君は…」
「この寮に住んでいるリッツよ。さっきまで一緒にお買い物に行ってたの」
「へえ」
「「「えぇえええー‼︎」」」
食堂から覗き見していたライアス、モナ、エリオスが叫んだ。
「リッツなのか⁈リッツってこんなに美形だったのか⁈」
「やーん、キレー。お姉さん、本気出しちゃおうかなー♪」
「フード被ってるより、そっちの方が全然良いぞ」
三人はリッツを囲い騒いでいた。リッツも最初驚いたが、皆が好意的だったので安心した。
「驚かせてすまない。改めて、皆よろしく」
「「「……………」」」
必殺リッツスマイルを浴びて三人が頬を染めている。やはり、リッツの笑顔は危険だ。明日から何人の人(主に女生徒)の心を弄ぶことになるのだろう。
「ルーフェスト、話があるんだよね。取り敢えず部屋行こっか。じゃあ、また夕飯で」
皆に挨拶し、二人は朱奈の自室へ向かった。
部屋に入るとルーフェストは呪文を唱えた。部屋が一瞬緑に光った。
「これは?」
「音漏れ防止の魔法さ。聞き耳立ててそうな人がいそうだからね」
「確かに、いそう」
朱奈はルーフェストに椅子を出し、自分はベッドに座った。するとルーフェストもベッドに座った。
「椅子、あるよ?」
「こっちがいいんだ」
「あっそ…」
ルーフェストって本当恥ずかしいセリフ言うよね。平常心保つの大変だし。
「で、お母さんはいつ帰ってくるの?」
「明日なんだ」
「明日⁈」
「ああ。領内の有力者の奥様会に明日急遽行く事になったから、その帰りに噂の彼女を見たいと」
「どっ…どうしよう。私二ヶ月先って思ってたから心の準備が。礼儀作法とか大丈夫かな⁈」
「落ち着け。シュナはそのままで大丈夫だから。何も心配せずに、ただ側にいれば良い。明日はこの服を着て待っていてほしい。昼過ぎに迎えに来るよ」
「分かったわ」
話が終わり下へ降りるとちょうど夕食の時間で皆が待っていた。多分一部の人は聞き耳を立てていたが、何も聞こえないので諦めて降りてきたのだろう。
「シュナ。もう終わったのか?」
「ええ」
「じゃあ、夕飯の時間だから食堂に行こう」
リッツはそう言い腕にひっつく。幻覚で尻尾と耳が見え、でっかいワンコに懐かれた気分だ。
「あー、君。ちょっと話が」
「なんですか。せ ん せ い」
「……少し表で話そうか。それじゃあ、また明日」
そう言い二人は外に出た。
「ヤバイよ。リッツ、ルーフェスト様に怒られてるんじゃ。そりゃ、目の前で彼女に他の男がくっついていたら嫌だけどさー」
「大丈夫ですよ。ルーフェストはそんな事で怒ったりしませんって。さあ、聞き耳立てずに食堂に行きますよー」
朱奈も二人が気になったが、皆を食堂に移動させる為に、一緒に食堂へ行った。
その頃寮の外では…
「ルーフェスト、話って?」
「いやー、驚きましたよ。貴方がフードを被らず人と話をするなんてね。悔しがりながら、分からないところをフードを被って聞きに来ていた頃が懐かしい」
「シュナが、オレを変えてくれたんだ」
「へえ。でも、彼女は私の恋人ですので。そこはお忘れなきよう」
「フリ、だろ?今は君の茶番に付き合うよ。シュナが困るのは本意じゃないからね。でも、期限が来たら本気で行くから」
「それこそ貴方の問題に巻き込まれたら彼女が可哀想なのでは?」
「彼女はオレが守る。全てのものから守ってみせる」
「今まで人と碌に会話もせずに引きこもっていた貴方が?そのせいで、貴方の周りはゴタついている。それを綺麗にしてからでないと彼女を守るのも難しいと思いますよ」
「……………」
二人の視線が絡み合い、激しく火花が散った。
「ただいま」
ルーフェストとの話を終えたリッツが戻ってきた。
「リッツ、大丈夫か?ルーフェスト様に怒られたか?」
「先輩大丈夫ですよ。先生は怒っていませんでしたよ。オレとシュナの仲の良さに嫉妬しただけです」
リッツスマイル全開で、リッツは言った。
((((((それは、怒ってるって言うんじゃ…))))))
朱奈以外の六人は一様にそう思った。
翌日、朱奈はルーフェストの母親と会うための準備をしていた。
今日は休みの日なので、早めに準備を始め、念入りにしていた。
綺麗に見せるにはスキンケアが一番重要。まず蒸しタオルを顔に当てる。
「あー気持ちー。これ、目の疲れが取れるし、毛穴開くし。疲れ取りとスキンケアが出来て一石二鳥♪」
開いた毛穴の汚れを落とし、保水と保湿をして毛穴を引き締める。よし、完璧だ。
若返ったが、今手を抜くと後に響く。若い頃日焼け止め塗らずに出歩いたり、化粧落とさずに寝たり、化粧水とか面倒だなってサボったりしたこともあった。その影響がアラサーになってヒシヒシと感じているので、頑張ってこのみずみずしい肌を少しでも長くキープしたい。
人は失って初めてその価値に気づく。本当にそうだと思う。
化粧を終えて時計を見るとまだ時間がある。お昼をたくさん食べると、もしお茶菓子を出されて食べれなかったら失礼になる。かといって、食べないで行くとお腹がなりそう。
そう思った朱奈は軽く食べる為に、食堂へと移動した。
休みの日は自分でご飯を調達しないといけないので、ご飯時は大体皆外出している。朱奈はさっと簡単なものを作る事にした。
スクランブルエッグとベーコンにサラダ。それにパンと紅茶。朝食的メニューだけど気にしない。軽くにしないと後が困るかもだし。欲を言えばインスタントスープがあれば良かったんだけどな。流石にフリーズドライとか無いしな。
……魔法でなんとか出来ないかな?
空間遮断と氷魔法や風魔法で出来ないかな?ちょっと研究してみようかな。
そんな夢物語を考えていると、扉が開く音がした。
「何しているの?」
「リッツ。今からね、軽くご飯を食べようと思って作ってたの」
「シュナが作ったのか⁈」
「そうよー。学校がある時はお弁当も作ってるわよ」
「お弁当も⁈」
「お昼まだなら一緒に食べる?卵とベーコンならあるし、簡単に出来るから」
「ああ、ありがとう」
朱奈はおかずをさっと作った。
「そう言えば、服もだけど、メイクや髪もいつもより気合入っているな。いつも可愛いけど、さらに可愛いよ。ルーフェスト……先生の為というのが悔しいが」
「さっ、さあ。出来たわよ。召し上がれ」
朱奈は恥ずかしさを隠すために話題を切り替えた。
「いただきます。………美味しい‼︎今まで食べた食べ物の中で一番美味しいよ」
「そんなまさか。お世辞にしても、大袈裟過ぎだよー」
「いや、オレが今まで食べてきた物は、仕事で作っている人の物だった。仕事ではなく、善意で作ってくれたものは真心がこもっていてとても美味しい。ありがとう」
朱奈は真剣にお礼を言われて照れた。ルーフェストは分かるけど、リッツは田舎の出身じゃ。なんでお金持ちみたいなこと言ってるのかしら。田舎の富豪なのかな?
暫くするとルーフェストが迎えにきた。
「やあ、今日は一段と綺麗だね。いつもより念入りにお化粧してるし、髪も綺麗にまとめている」
「お母さんに会うからね。ちゃんとした淑女に見えるようにしないとね。さあ、行きましょう」
「ああ。……じゃあ、行ってくるよ。リッツく ん」
「……………。行ってらっしゃい、シュナ」
屋敷に着くと、ルーフェストは着替えてくるのでその間待っていて欲しいと言われ、朱奈は屋敷の庭に出ていた。
色とりどりの花が咲いていて心が洗われる。やっぱり花は癒しだな。
暫し花を愛でていると、足音がした。
「あっ、ルーフェ…ス……ト?」
朱奈は足音の方を振り向いて首を傾げた。
「ふふふっ、そうだよ。驚いたかい?」
ルーフェストと言えば、漆黒の髪と瞳に真っ赤な着物。一部の髪を結って簪をさしている。昔の日本人を思わせる風貌だ。
それが目の前にいるのは、赤い髪に赤い瞳。髪をポニーテールにしており、黒いフォーマルな洋装だ。顔は同じだが、何もかもが違う。
「ちょっ…その髪と瞳、どうしたの⁈服も違うし、髪型も…」
すると、外で馬車が止まる音がした。
「ああ。母上がきたようだね。この話はまた後で」
色々気になるが、今は到着したお母さんに会うことが第一。
朱奈は緊張しながらルーフェストの後を追い、玄関へ向かうのだった。
ルーフェストの容姿の謎については次の話で触れる予定です。