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第13話 フードの理由

「リッツ⁈あなたリッツよね、あの湖で会った。なんでここにいるのよ。しかも、そっそんな格好で‼︎」


「おっ、落ち着いてくれシュナ。取り敢えず後ろを向いてくれないか。着替えるから」


 そう言われ、後ろを向いた。先程リッツの裸を見た時に左腰にイリアみたいに不思議な紋様があったけど何かしら?

 べっ、別に私はリッツの裸をじっと見ていたわけじゃ…。たまたま目についたのよ。たまたま‼︎


「シュナ、もういいよ」


 リッツから声がかかったので、朱奈は振り向いた。服は寝巻きに着替えているがフードのついた羽織を羽織っている。その羽織は先程の新入生歓迎会にいたフードを被った男の物だ。


「フードを被った男はあなたなの?リッツ」


「ああ。隠していてすまない。姿を見られないようにしていたから、風呂を最後に入ったんだ。まさか、シュナが入ってくるなんて…」


「?でも、外の札は女湯に変わってたわよ」


「えっ?」


「「………あっ‼︎」」


 二人はある可能性に辿り着いた。悲鳴をあげても誰も来ない。まだ入っているのに女湯に変更されている。つまり、これは誰かが意図的に仕組んだものに間違いない。


「たぶん、食堂で今頃笑ってるんじゃない?」


「かもな」


 二人は同時にため息をついた。


「で、なんで姿を隠して過ごしているの?」


「そっ、それは…。人に見られるのが恥ずかしいんだ」


「えっ?」


「人に見られてるとうまく話せなくて、いつもフードを被って生活していた。そもそも引きこもって人に会わないようにしていたし。でも見兼ねた両親が、人とまともに接することが出来るようにって学校に入れたんだ。しかも騎士科。魔法科ならまだ人と接する機会が少なくてもやっていけそうなのに、騎士科なんて…。しかも特待生で入らないとフードを没収するって言われるし。もう大変だったんだ」


 あの湖で会った好青年はどこへ行った。素敵な人だと思ったのに、音を立てて崩れていく。私のトキメキ返せー‼︎

 ん?今、フードを被らないと話せないって言ったよね。あれ?

 朱奈は一つの疑問にぶつかった。


「でも、私と会った時は普通に話してたよ。今だって…」


「……さあ、なんでだろうな」


 いや、こっちが聞きたいよ‼︎


「でも、よく引きこもりで騎士科の特待生になれたね」


「剣術はいつも裏庭で一人で素振りしていたからな。勉強も嫌いじゃないんだ。ただ、フードを被ったりしないと人と会えないから、書斎に篭って本を読んだり、騎士の鍛錬をこっそり覗いて真似てみたりしていたんだ。どうしても分からない時は、フードを被って教えてもらいに行ったよ」


……凄いな。


「でも、フードを被れば大丈夫なんだよね。ならフードを被って普通に教えて貰えば良かったじゃない」


「前に模擬試合で、風でフードが取れそうになったんだ。だから怖くて無理だよ」


「なら、学校はどうするのよ‼︎」


「………サボる」


「えっ?」


「サボりたい。でも、サボってるのがバレたら親に怒られる。どうしたらいいのか分からなくて途方に暮れているんだ。どうしたらいいと思うかい?」


「今も私と普通に会話出来ているから大丈夫よ‼︎あなたはきっと自分で思い込んでいるだけ。だから、顔を出して普通にすればいいの‼︎」


「以前にも試したんだが、ダメだったんだ。本当に初めてなんだ、こんなこと。自分が今一番驚いている」


 リッツは真剣な表情だ。嘘はついていないと思う。顔を隠す…か。


「フード以外で隠せるものは?」


「仮面舞踏会の仮面は大丈夫だったな。眼鏡は…レンズが付いているだけで隠れないからな。そもそも目、悪くないし」


 成る程。目元に何かあると良いのか。確かにこの世界の眼鏡はレンズのみでフレーム無いしね。……フレーム?

 朱奈は一つ良い事を思いついた。


「ねえ、リッツ。明日の放課後私に付き合って」


「えっ?」


「街に買い物に行くわよ。いいわね」


「わっ、わかったよ…」


 朱奈は、食堂で面白がっていたライアス先輩、モナ先輩、エリオスにお説教をし、部屋に戻って寝た。


 翌日の放課後


「ーーで、今日はちゃんと授業受けたの?」


「ああ、今日は講義だけだったしな」


 相変わらずリッツはフードを被っている。寮でも学校でもだ。


「さあ、行くわよ‼︎」


 朱奈たちは街に繰り出した。そして、先日行った日本の物が置いてあった店に来た。


「ここは…?」


「ここはね、ちょっと変わった異国の物が置いてあるお店なの。おじさーん、こんにちはー」


 二人は店の中に入った。

 店の中に入ると、リッツは驚いた。そりゃそうだ。見たこともない物だらけなのだから。


「いらっしゃい、今日は何をお探しかな」


「眼鏡ってある?伊達眼鏡が欲しいの」


「ああ、それならこっちに…」


 朱奈は部屋のある一角へと案内された。そこには時計、指輪、ネックレス、眼鏡など身につける装飾品が並んでいた。その中にある一つを手に取った。茶色で縁が彩られている眼鏡だ。縁は少し太めでフレームが強調されている。


「これにするわ。レンズの度は要らないから」


「はいよー」


 リッツが話に全然付いていけてない間にさっさと買い物を済ませる朱奈。品物を受け取ると、リッツに渡した。


「はい、これ」


「えっと…これは?」


「眼鏡よ。普通の眼鏡はレンズの縁に何もないでしょ。でもこれは縁取られているの。結構縁あるでしょー」


「確かに、結構あるな。こんな眼鏡は初めて見る。しかしオレは…」


「大丈夫ー。これは伊達眼鏡と言って度が入ってないから、目が良い人がお洒落とか顔を隠したりするのに使う物なのよ」


「顔を…隠す…」


「そう。ほら、かけてみて♪」


 朱奈はリッツを鏡の前に連れて行った。リッツはおずおずと眼鏡をかけてみる。かけた瞬間、朱奈はリッツのフードを取った。


「わっ、ああっ‼︎」


「大丈夫だから‼︎鏡をよく見て」


 朱奈に促されて鏡を見ると、そこには眼鏡をかけたリッツが写っていた。銀色の髪と灰色の瞳に茶色の眼鏡が良く映える。伊達眼鏡をかけたのでだいぶ雰囲気が変わった。


「これが…オレ?」


「そうよ、雰囲気変わるでしょ。これならフードを被らなくても全然大丈夫よ‼︎顔、ちゃんと仮面みたいに隠れてるわ‼︎」


 だいぶ誇張してるけど良いのだ。リッツの問題は心の問題。私と普通に話せてたし、本当は人と普通に話せるはず。ただ、何かがきっかけで、顔を隠さないと人と話せなくなって引きこもってしまった。だから、自身を持たせる必要がある。

 仮面はOKだったから、仮面みたいに隠れてるよって強く言ってそう思わせれば良い。

 実際、少しは隠せてるし後は本人の気の持ちようだ。


「そう…だな。うん、これならフード無しで過ごせそうだよ。……ありがとう、朱奈」


 眩しい‼︎リッツは顔の作りが良いから、笑顔を向けられるとヤバイ。眼鏡をかけてこの威力か…。これはある意味みんなの為に眼鏡をかけてた方が安全だわ。


「朱奈。これで普通に学校で生活出来るようになったけど、まだ人と交流出来るか心配なんだ。なるべく一緒にいて欲しいんだが…いいか?」


「いいわよ。クラスは隣だから、放課とかお昼休みとか来たい時はいつでもどうぞ。でも私は魔法科だからね。騎士科の授業は頑張りなよ」


「あっ、ああ」


 こうして朱奈はリッツのお世話係り(?)になった。まるでペットに懐かれたみたいだ。

 後日、リッツの両親から呼び出しを受けるの事になるとは、その時の朱奈は想像もしていなかった。


 買い物をすませて外に出ると、一羽の鳥が朱奈に向かって飛んできた。手を出すと、鳥が留まる。伝書鳩みたいなものだ。首から下げている手紙の筒を開けて中を見る。どうやらルーフェストからのようだ。


 【シュナ、緊急事態だ。母上が、帰ってくる。話がしたい。寮で待っている。】


 えっ、えぇえええーー‼︎‼︎‼︎


 一難去って、また一難。朱奈の心の休まる日はいつくるのだろうか。


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