第12話 新入生歓迎会 後編
「こっ…恋人のフリって……えっと…あの…」
朱奈はしどろもどろ言った。
ライアスは詫び入れなく話を続ける。
「だって、前にルーフェスト様、お前が女だったら恋人のフリを頼むのにな。見合い話が多過ぎてかなわないって言ってたから」
成る程。しかし、そんな事ここでぶっちゃけて良いのか⁈他の生徒に知れ渡ったらルーフェストの計画は台無しじゃ…
朱奈がそう思っていると、モナ先輩が同じツッコミをした。
「もしそうだとしたら、それ言っちゃダメでしょー。皆にバレて親にまで嘘だってバレたらルーフェスト様の計画は台無しになるんだし」
モナ先輩に指摘されたライアス先輩は青ざめた。
「どっ…どうしよう。オレヤバイ事言っちゃった⁈ゴメン皆‼︎今のは聞き流してくれ。ってか、オレの時にそう言っただけで、シュナがそうとは限らないし。オレはお似合いだと思うよ。ルーフェスト様とシュナ。いいか、お前ら。今の話はオレの勝手な思い込みだ。事実ではない。絶対に変な噂流すなよ‼︎そんな事になったら…オレ……オレ……ルーフェスト様に顔向け出来ねぇー‼︎」
ライアス先輩はついには泣き出してしまった。それをなだめるモナ先輩。そして皆一様に頷く。
この状況なら大丈夫そうね。
「あんたたち、後でシュナちゃんに『で、実際はどうなのー?』とか聞くの禁止だからねー‼︎」
モナ先輩が念押しした。
ありがとうございます、モナ先輩‼︎‼︎‼︎
先輩には足向けて寝られません‼︎
そして、中断してしまっていた自己紹介が再開された。
私の隣に座っていた子は背丈の小さな幼い顔の女の子。褐色の肌に金髪の髪に金色の瞳。長い髪を下で二つ結びをしている。幾つなの⁈この学校って何歳から入れるんだろう…ってか皆何歳?
「イリス=マクマグスフィン。ここに来るまでは旅芸人の一座に居たんだけど…。これ……」
イリスは左腕を出して袖をまくった。前腕に包帯が巻かれており、外すと外側部分に火がモチーフの文様が刻まれている。
すると文様が光り、火の精霊が出てきた。赤い小動物みたいな精霊だ。
「この子マクマグスフィンって言うの。マクマグって呼んであげて。私の家系はこの子の加護を授かっている一族。マクマグが憑いていたおばあちゃんが死んだ後に生まれたのが私で、私に憑いたの。でも、私じゃコントロールが難しくて。ほら、右腕。火傷しちゃった。酷い人は焼き尽くされて死んだ先祖もいたみたい」
なんてこった‼︎加護の精霊が、宿主を殺すなんて…‼︎加護というより呪いなのか。
「この子と一緒に旅一座で芸をしながらコントロールの方法を探していたんだけど、この間暴走しちゃって…。旅一座を抜けたの。行く宛がなくて困ってたら赤い髪のおじさんが学校に連れてってくれたんだ。明日から始まるからねって。ここならマクマグと一緒に楽しく過ごせるよって♪」
赤い髪の…おじさん…。まさか……
「それって、もしかして入学式で挨拶していた髪が赤い人かい?」
誰もが気になった事をライアスが聞いた。
「うん、そうー♪おじさん偉い人だったんだねー。この包帯もおじさんがくれたの。自分でコントロール出来るまではこれを付けなさいって」
そう言い、イリスは包帯を巻いた。ルーフェストは困っている人を放っておけないタイプのようだ。まさか私の後にも人の世話をしていたとは。
朱奈はもう一つ気になった事をついでに聞いてみた。
「ねえ、イリスは幾つなの?」
「十歳だよー」
「十歳⁈えっ、魔法学校って年齢制限ないの?」
「んー、確か14歳から16歳が入学の年齢だよ。それより上も入学は可能だけど、魔力が高くないとダメだね。それより下は魔力が高くて、必要性があるものは特例が認められるはずだよ。精霊付きなら魔力は桁外れに高いだろうし、命の危険があるからね。認められる案件でしょ。まあ、実力主義だから年齢は離れすぎてなければ、あんまり意識されないよねー。だから年齢が自分より若くても先に学んだ者は先輩。社会に出たら若くても実力があれば上に行く。」
「そうなんだ。ありがとう、エリオス」
そうなのか。あんまり年齢は気にしない世界なのか。それは有難い。是非とも結婚の年齢も気にしない世界であってほしいものだ。
「あっ、でも一つだけ年齢気にするやつあったねー」
「あれは、セクハラよ、セクハラ。何で勝手に心配されなきゃいけないのよ」
「えっ、モナ先輩。もしかしてそういう年頃なんですか?」
「煩いわよ‼︎」
えっ、なんなの…。嫌な予感しかしない。
その予感は的中し、ライアスは嫌な事実を言った。
「結婚は今も昔も言う人多いですよね。20歳までに結婚しないと行き遅れだって。男は30歳くらいまでですけど」
「20歳⁈」
あまりにも驚いて朱奈は思わず声をあげた。
「あれ、シュナ知らなかった?シュナの住んでた所じゃ言われてないの?この国だとだいたいそう言われてると思ってたよ」
「ああ…私、国外から来たから」
「ああー、それで知らないんだ。でも学校卒業すると基本最短で15歳。それなら余裕で間に合うよ」
「余裕で…間に合うですって……」
朱奈の中で何かスイッチが入った。
「そうよ。学生の頃は、結婚なんてまだ先ーとか思ってたわよ。社会人になってからも婚活なんてって、結婚を急いでいた子を鼻で笑ってたわ。一人の時間が今は大事‼︎趣味とか色々やりたい事、沢山あって充実してて、結婚なんてしたいと思えない。ーーそう思ってたわよ。でも、気がついたら周りが結婚してる子が増え、子供が生まれ、そろそろって思った時には上手くいかず、焦って婚活しても良い人見つからなくて。そうなのよ‼︎良い人は結婚してるのよ‼︎たまに良いなって思う人がいても、それは周りの未婚女子も同じ思いで、競争率が高くて。私のスペックじゃ無理なのよ‼︎若いって唯一持ってた武器を使わずに気がついたら年齢を重ねてしまってたのよーーーーー‼︎‼︎‼︎」
朱奈はうっかりアラサー未婚女子の思いの丈をつい吐き出してしまった。
皆がビックリして固まっている。
「ーーって友人が言ってたのよ。だから私も頑張らないとなって」
いかん。今の私は15歳。まだ、行き遅れていない。
「でっ、でもルーフェスト様って言う最優良物件を捕まえたんだから、大丈夫よ。…問題は私よ…」
モナ先輩は自分で言って落ち込んでいる。
確かにルーフェストは顔良し、頭よし、地位あり、金持ち。私のいた世界でも婚活市場でモテモテの物件だ。あの時は15歳なんだから婚活なんて気にしないで自由に恋愛をー‼︎って豪語してたけど、この世界でも後五年もすれば結婚はいつ?とか聞かれるようになるのか…。これは、本腰入れて学生の間に恋をしないと‼︎
朱奈は決意し、拳を握りしめた。
そして、だいぶ脱線させてしまったのを詫びて自己紹介を再び再開した。
イリスの隣にいる人は灰色のフードを深く被り顔が見えない。
「リッツ=エルディア、騎士科です。特待生制度を使って他領の小さな村から来ました。よろしくお願いします」
リッツ?あの湖で会った人と同じ名前ね。
リッツと名乗った男はボソボソと小さな声で自己紹介し、早々に席に着いた。フードも取る様子もないし、どんな人か全然分からない。
「キーリ=ティリアーノ。魔法科です。同じく特待生制度を使いました。よろしくお願いします」
続いてキーリも簡単に自己紹介してすぐに座った。
「あらあら、新入生の特待生組はシャイなのねー」
「………」
「………」
少しは喋りなさいよー‼︎
こうして新入生歓迎会は幕を閉じた。
その夜、朱奈はお風呂に入る為大浴場に来ていた。寮の風呂は一つだ。時間を区切って男女交代で使っている。今日は男子が先で、時間はまだ早いが、女子の札に変更されていた。きっと、早く入り終わったから変えてあるのだろう。
そう思い、扉を開けた。
「えっ………」
そこには風呂上がりで体を拭いている男がいた。先程の歓迎会には居なかった男。あの、湖で会ったリッツがいた。
「きっ、きゃあぁあああー‼︎」
何故か同じ男の裸を二度も見る羽目になった、災難な朱奈であった。いや、災難なのは見られたリッツかもしれない。