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第10話 料理

 入学式の後、朱奈はルーフェストと話をしようとした。しかし、女生徒に囲まれていてとても話しかけれる状況ではなかったので仕方なく寮へ行った。

 寮の部屋で着替え終えると、窓に何か当たる音がした。のぞいて見ると、そこにはルーフェストがいた。


「ルーフェスト‼︎」


 朱奈は慌てて外に出た。


「やあ、シュナ。大丈夫かい?」


「大丈夫じゃないよ、ばかー‼︎」


「ごめんごめん。朱奈は目立つのがあまり好きではなさそうだから、嫌がるかなと思ったけどね」


「嫌がるに決まってるでしょー‼︎噂は流れてたけど、一緒に登校したり、壇上で言わなければ誰も私の事だとは…」


「でも噂をより広めるのがオレの目的だから。これだけ広まれば、王都にも噂は行くだろう」


 あっ、そうだ。ルーフェストが私にフリを依頼のはお見合いをなくす為。王都にいるお母様の耳に届かなくては意味がない。自分でもお母様には言っているだろうけど、外からの情報がないと信憑性が薄い。

 彼が目立つのは理解していたつもりだったが、理解できていなかった。フリをすると言う事はどう言う事か理解できていなかった。覚悟が足りなかった。


「ごめんなさい。私は覚悟が足りなかったみたい」


「いや…目立つのが嫌いなタイプに酷な役を押し付けてしまったな。嫌ならもう辞めるか?強制はしたくない」


「…いえ、続けるわ。この街に来て、私はあなたにお世話になりっぱなし。少しでも恩を返さないと私の気持ちが収まらない。今は騒ぎが凄いけど、人の噂も75日。ずっとじゃないわ。頑張る。それにエリオスみたいに気にせず話しかけてくれる人もいる。なんとかなるわよ」


「すまないな、嫌な思いをさせて」


「私こそごめんなさい。全然分かってなくて。あっ、そう言えば一つ聞きたい事が…」


 朱奈は先程キーリに言われた事を思い出し、ルーフェストに聞いてみた。


「…って言われたんだけど、私不正入学なの⁈」


「んー、まあ。確かに普通は試験を受けるね。でも高位魔導師の推薦があれば、試験は免除されるよ。それが君。そう言う人は少ないし、しかも恋人に推薦を貰ったわけだから…疑う人もいるかもね」


じゃあ、キーリにああ言われてもしたかないのか。


「一ヶ月君の魔法指導をしてきたが、君は十分入学水準には達している。努力の賜物だよ。胸を張っていい。ただ、人より出来るようになった方がうるさく言われないだろうけど。でも君は五位以内を目指すんだろう?」


 ルーフェストが不敵に笑う。朱奈もつられて笑った。


「そうよ。誰も何も言えないくらい凄い魔導師になる予定なんだから‼︎ルーフェストもビシバシしごいてよね‼︎」


「ああ。分かったよ」


「うん。じゃあまた授業でね。私ちょっと出掛けてくるねー」


「ん?どこに行くんだい?」


「明日からお昼、お弁当を作るから、その買い出しだよー」


「お弁当⁈シュナは料理が出来るのか?」


「うん。念の為、料理本を見ればだいたい作れるだろうし。大丈夫だよー」


 料理が作れるのは嘘じゃない。アラサー独身一人暮らしだったんだから。結婚できなかった時の為に貯金していたから、自炊しないとやってけなかったのよ。ただ、この世界特有の食材もあったりするから本は必要だと思う。


「ふーん」


 ルーフェストは疑ったような顔をしている。そんなに料理出来なさそうかな?


「買い物に一緒に行っても良いかい?」


「えっ?一緒に?」


「ああ、目立つから嫌かもしれないが、興味があるんだ。料理人以外が作ったものは食べた事がないから、食材の買い物も見た事がないんだ」


 成る程。お金持ちは家に料理人がいるから家族では作らないか。


「もう、気にしない事にしたから。堂々としてる方が逆に目立たないと思うし。堂々としてたら皆も言わなくなるかもだし」


 朱奈はポジティブに考える事にした。


「その考え、嫌いじゃないよ。じゃあ行こうか」


「ええ」


 二人は大通りのお店で買い物をした。

 ルーフェストはやはり目立つのでジロジロ見られたりしたが、堂々としていると気にはなるが、前よりは気にならなくなった。気の持ちようというやつだ。

 本屋で料理の基本が載っているレシピ本買ってみたら私の知っている洋食に近いものが多かった。米があったのは有難い。しかし、鍋で炊くようだ。

 卵はあるし、魚もある。おにぎりに卵焼き、焼き魚に野菜の和え物。味付けは和風の調味料はあるかはよく分からないが、見た目は和食のお弁当は出来そうだ。

 来る前にキッチンを見たら冷蔵庫と言われている冷蔵庫のような魔法装置もあったし、オーブンもある。レンジはないけど、鍋やフライパン普通に使っていたのと同じだ。

 ルーフェストと二人で買い物は初めてだが、普通に楽しい。堂々とする事を心に決めて周りが前より気にならなくなったのもあるが、一緒にいて会話しながら色々見て…楽しい。色々自己中心的な事を心の中で呟いてゴメン‼︎と心の中でルーフェストに謝った。

 食材を買い終えて歩いていると、一つのお店に目が止まった。


 こっ…これは…卵焼き器‼︎


「ルーフェスト‼︎この店、見たい‼︎」


 朱奈は大興奮してルーフェストに言った。

そして二人はお店の中に入った。

 中に入ると、なんとそこには見覚えのあるものがたくさんあった。

 卵焼き器に土鍋、醤油や味噌まである。なんなんだ、このお店は。

 すると、中から店の亭主が出てきた。50歳くらいの白髪混じりのおじさんだ。


「いらっしゃい」


「このお店、変わった物がいっぱいですね。他では見たことないわ」


「ああ、こんな物置いても殆ど売れないからね。因みに調味料はこの店オリジナル。私が作っているんだよ」


「えぇー‼︎」


 朱奈は驚いた。醤油や味噌がおじさんの手作り⁈

 つまり、おじさんは日本人⁈

 朱奈はルーフェストに聞かれないようにこっそりおじさんに尋ねてみた。


「もしかして日本人ですか?」


「おや。珍しく客が来ると思ったらお前さんも日本人か。転生か転移したんだな」


「はい。私多分死んでいないと思うので、転移かと。私達みたいな人って他にもいるんですか?」


「そうだな…たまに転移者は見かけるが稀だな。転生者だと向こうがそれを隠していたら分からないからあまり見かけないな。」


 やっぱりあまりいないのか。でも自分以外にもいたのはすごく嬉しい。そしてこれで和食が作れる‼︎

 朱奈は調理器具や調味料等をいくつか買って店を出た。


 そして朱奈達は寮へと戻った。


「荷物持ちありがとう。調子に乗っていっぱい買っちゃったから助かったわ」


「これくらい平気だよ。初めてご飯の買い出しをしてとても新鮮だったよ。最後に凄く変わったのも買ってたし、どんなお弁当を作るのか凄く気になるな」


「もし良かったら講義のある日はお弁当作ろっか?一人分作っても余るし。作る手間は同じだからさ」


 ルーフェストは目を丸くした。

 彼、こんな表情(かお)もするのね。


「そ…れは、凄く嬉しいな。そんな事言われるとは思っても見なかった」


 ルーフェストを見つめていると、みるみる彼の顔が赤くなった。


 えっ…えぇっ⁈

 なんで赤面してるの⁈


 ルーフェストは朱奈から一歩離れ、片手で顔を隠し横を向いた。


「今は…ちょっと見ないでくれ。多分変な顔してる…」


「そんな言い方されたら余計見たくなるし‼︎」


 そう言い顔を隠しているルーフェストの手を掴み、顔を除いた。

 彼の顔を見ると耳まで真っ赤で、少し口元がニヤついている。

 余程嬉しかったようだ。確かに手作りお弁当って縁がなさそうだもんね。


 やばい、めちゃくちゃ可愛い‼︎

 こういうギャップって私弱いんだよ‼︎


 それを見て朱奈もだんだん気恥ずかしくなり、ルーフェストの手を離し顔を逸らした。

 しばらく沈黙が続き、お互い相手の様子を伺うかのようにゆっくりとお互いを見た。


「いいのかい?」


「だから、大丈夫だって。一人分も二人分も手間は一緒よ」


 するとルーフェストの手が、朱奈の頬に触れようとした。

 その時


「シュナー。こんな所で何やって…って、めっちゃ荷物多っ‼︎運ぶの手伝うよ」


 そう言い、現れたエリオスは、荷物を中へと運んで行った。

 取り残された二人はなんか気まずそうにしている。


「じゃっ、じゃあ。今日はありがとう」


「あっ、ああ。じゃあまた」


 朱奈はルーフェストを見送ると寮へと戻った。キッチンに行くとエリオスが片付けしてくれていた。


「ありがとう、エリオス」


「気にしなくて良いよ。なんか面白いのがいくつかあるね」


「うん、あるお店に変わったのが沢山あってつい買っちゃった。明日からお昼はお弁当を作るんだ」


「お弁当⁈シュナは料理が出来るの⁈」


 ルーフェストに続きエリオスまで。私が出来なく見えるのか、この国の同い年の子は料理しないのかしら…あっ、でも。確かに私も学生の頃はお母さんがお弁当を作っていて、自分では作ってなかった。私、15歳若返ってたの忘れてた。30歳の自分基準で考えてたわ。


「ねえねえ、明日料理する所見ても良い?オレ、人が料理する所見た事ないんだ」


 エリオスも⁈エリオスもお坊ちゃんだったんだ。なんか勝手に私と一緒の庶民と思ってたよ。


「いいわよ」


「やったー♪」


 エリオスと荷物を片付けた後、朱奈は部屋に戻り、予習をした。予習を終え、少し休憩しているとノックが鳴った。


「誰?」


 扉を開けると、エリオスがいた。


「夕食の時間だよー。食堂へ行こうぜ」


 時計を見ると、六時半少し前だった。ちなみに学校がある日のご飯は、朝も夕も六時半。寮母さんが寮母さん専用のキッチンで支度してくれる。昼は学食で食べるか学生用キッチンがあるので自炊してお弁当。休みの日の昼は自炊か外食だ。

 基本的には朝夕は揃って食べることになっている。

 お金はルーフェストからの支給だし、なるべく節約していこうと自炊する事にしたので、本日買い出しに行った。

 まあ、結果的に色々買ってしまったけど。その分、お弁当で返そう。


 エリオスと二人で食堂に行くと、扉が閉ざされている。扉には「一年生へ。全員揃ったら扉を開けよ」と書いてある。


 ?何これ?まだ他の三人が来ていないので、二人はここで待つことになった。

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