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第9話 入学式

 今日は待ちに待った魔法学校への入学式。朱奈は朝食を終え、制服に着替え、鏡の前でくるりと回った。


「よし、これでOK」


 朱奈は鞄を持って玄関へ行くと、ルーフェストが立っていた。


「やあ、いよいよ入学式だね。おめでとう」


「ありがとう、ルーフェスト。立派な魔法使いになれるように頑張ってくるね」


 朱奈は玄関を出て馬車に乗り込んだ。なぜかルーフェストも乗ってきた。


「?お見送りは玄関までで大丈夫よ」


「実はオレも学校に用事があってね。まあ、領主代理として式で挨拶もあるし」


「ふーん…」


 朱奈とルーフェストは他愛のない話をしながら学校へと向かった。


 学園に着くとたくさんの生徒が歩いており、降りる生徒の馬車もたくさん並んでいる。

 外からは黄色い声が聞こえ、ルーフェストは外の女生徒に手を振っている。


 まずい…これは先日のデートを思い出す。なんとかルーフェストと一緒に降りずに済む方法を考えなくては…‼︎


 しかし、時すでに遅し。


 馬車は降りる順番が回ってきて、ルーフェストは先に降り、朱奈に手を差し伸べている。

 因みにルーフェストが降りた瞬間、黄色い声が何倍にも膨れ上がった。

 朱奈は観念して、ルーフェストの手を取り、馬車を降りた。


 ああ、視線が痛い。

早くルーフェストと離れたい。この騒ぎの中心に居たくない。

 朱奈はそう考えていた。


「シュナ、はよー‼︎」


 横を向くとエリオスがいた。


「シュナのいる場所、ルーフェスト様がいるって女の子たちが騒いでいたからすぐ分かったよ。式の前に話があるんだ。ちょっと一緒にきてくれ」


 そう言い、シュナの返事もまたずエリオスはシュナの手を引いて走って行った。


「エリオス?どこに行くの?」


「それは着いてからのお楽しみー」


 エリオスは寮の前まできて止まった。


「ここ、私たちの寮よね」


「そうだねー」


「で、話って?」


「特にないよ」


「えっ?」


 ない⁈どういうこと⁈


「だって君、さっき困ってたでしょ。ルーフェスト様と付き合ってるから仕方ないのかもしれないけど。色んな目で見られて、早くここから立ち去りたいって感じがしたから…違った?」


 エリオス‼︎あなたはなんて良い人なの‼︎

 初対面の時は少し嫌な奴って思ったけど、訂正します。あなたは空気が読める良い人です‼︎

 朱奈は嬉しさのあまり、エリオスの両手を取り握った。


「ありがとう。私、ほんとーに困ってたの。あんな悪目立ちしたくないし、恥ずかしいし。出来れば外でルーフェストと一緒にいたくない」


 しまった、うっかり本音が。


「えっ?君、ルーフェスト様と付き合ってるんだよね?」


 やっ、ヤバイ…。


「えっと…家で一緒なのは良いけど、外だと目立つでしょ。一緒にいたいのは山々なんだけど、私の性格的に…ね。恥ずかしがり屋だから」


「そっかー。まあ、恥ずかしがり屋の人にはキツイかもねー。でもそうするとこれから大変だね」


 えっ?何が?


「同じクラスだし、寮も同じだから何か困ったら遠慮なく言ってね」


 だから何が?


 エリオスは口を挟む間も無く色々話してるけど、何が大変なのかそれが気になって仕方がなかった。

 なので、まだ話しているが話の腰を折らせてもらおう。


「エッ…エリオス‼︎」


 エリオスは止まった。


「あっ…あの、さっきの話なんだけど。何が大変なのか教えてくれる?」


「ルーフェスト様から聞いてない?ルーフェスト様、週に一回特別講師として魔法の授業を受け持つ事になったって」


 なっ、なんですとー‼︎


「きっ…聞いてない‼︎」


「もしかして驚かそうと思っているのかな?まあ、これからは離れて暮らす事になるけど、週に一回は会えるよ」


「そっ、そうね。恥ずかしいけど、嬉しいわ」


 あんまり嬉しくないけど、そう言っとかないと嘘がバレる。

 ルーフェストの事は嫌いじゃないけど、周りの反応が怖い。毎週会うようになれば皆もあまり騒がなくなるのかな?そうだと良いんだけど。


 エリオスがクラス発表を見ていて同じクラスだと判明した。

 私たちは式ギリギリの時間までここで時間を潰した。教室に行けば間違いなく質問攻めになるか、奇異な目で見られ色々遠巻きながら言われるかのどちらかだ。

 式の後でクラスに行ったらそうなるかもだけど、せめて式の前くらい穏やかに過ごしたい。


 そう言えば、先日の荷解きの時に貰った書類で分かったのだが、この学校、私は二つの学校が同じ敷地にあると思っていた。まあ、概ねはあっているのだが、真ん中にもう一つ校舎があり、二つの学校の生徒はそこがクラスの教室になる。クラスは両学校の生徒混合だ。

 だから私とエリオスは同じクラスになったのだ。そのクラスでは歴史等共通の授業を学ぶ。二年生になると、お互いが教師役をし、剣術、魔法を教えあい、基礎的な事は出来るようにする。殆どの授業はそれぞれ別れて専門的な授業を受けるので、普段は朝と帰りのホームルームを受ける教室という感覚が強い。

 故に校内で所属は魔法科、騎士科と呼ばれている。

 稀にどちらの才能もあって、もっと研鑽を積みたいという人もいる。そういう者には補習授業として、所属していない学校の授業を受けさせてくれるのだ。



 寮の前でのんびり過ごしていると一人の男の人が出てきた。


「ハーヴェル先輩、おはようございます」


 ハーヴェル先輩と呼ばれた男はどこか眠たげだ。薄緑の柔らかい髪に黄金色の瞳。髪は肩甲骨あたりまで伸びており、緩やかなウェーブがかかっている。


「ん……おは…よう…」


 ほんわかした雰囲気で、なんだか眠たそう。見ているとこっちまで眠くなりそうだ。


「さ…ぼ……り?」


「違いますよー。ちょっとクラスは今行くと騒がしいから…」


 エリオスは、先輩に先程のことを説明した。先輩の表情は変わらず、変わらずぼーっとしている。

 一頻り話を聞いた先輩はどこかへ歩いって行った。


「…なんか変わった先輩…だね」


「あれで、騎士科で一、二を争う実力者なんだよなー」


 えっ⁈あの風貌で⁈騎士⁈

 てっきり魔法科かと思ったよ。


 時間を潰した二人は、入学式の為、講堂に移動した。

 講堂に着くと、ちょうど式が始まったところだった。二人は後ろの空いている席に座った。

 すると、黄色い歓声と共にルーフェストが壇上に現れた。


「やあ、諸君。入学おめでとう。有望な若者がこんなにもたくさんいる事に心から嬉しく思うよ」


 女生徒達は、色めき立っている。確かに派手な外見でカッコいいとは思うけど、どうしてここまでモテるのかしら?

 そう考えているとルーフェストは朱奈を見つけ、ウインクした。


 今、目が合った⁈こんなに人がいるのに見つかった⁈


 ウインクと共に、また黄色い声が上がる。朱奈が混乱していると、ルーフェストはまた話し始めた。


「さて、皆も噂に聞いたことがあるかもしれないが、本年度の入学者には私の恋人がいる」


 はっ⁈なにこんな事こんな場で言っちゃってるの⁈意味分かんない‼︎


 講堂がざわつき始める。


「本年度から、魔法の授業を受け持つことになったが、恋人に対して特別扱いをするつもりは毛頭ないよ。その辺は皆心配しないでくれ。授業では皆平等に扱う。以上だ」


 ルーフェストは話し終わるとお辞儀をし、方向転換した。


 まぁ、確かにその辺気になってた人はいるよね。入学式は皆が集まるから手っ取り早いんだろうけど…けどー‼︎


 朱奈は一人頭を抱えていた。

 これで噂を知らなかった人も私の事を知ることになる。式の後が怖いな…


 ルーフェストは壇上を降りようとした時、なにかを思い出したようで、こちらを向き直った。


「言い忘れたが、男子生徒諸君。オレは恋人に入れあげている。それはもう、目に入れても痛くないほどに。好きになってしまうのは誰にも止めれないことだが、オレという恋人がいる事をゆめゆめ、忘れぬように」


 言い終えると、今度こそ壇上から降りた。


 なっ、何だったんだ…今のは。


 講堂の中はまたざわつき始めた。


「ルーフェスト様に、愛されてるねー♪」


「うるさい」


 エリオスはニヤつきながら小突いてくる。

 もう、私は平穏な日常を送りたいのにー‼︎

 案の定、教室に戻ると皆が私を見ている。

しっ、視線が痛い。そんなの関係なく接してくれるエリオスの存在はありがたい。本当に良い人だ。


「ったく、この学校は暇な奴らが多いな。人の色恋を機にする暇があったら自分の才能磨けよ」


 席に着いていた一人の男子生徒が、言い放った。

 水色の髪に水色の瞳。背が高く、目つきが鋭い。

 彼の名はキーリ=ティリアーノ。魔法科の首席入学者として先程新入生代表として挨拶していた者だ。

 周りで騒いでいた者たちは、静まり返りばつが悪そうな顔をしている。

 朱奈は騒ぎを一喝して収めてくれたお礼を言う為に、ホームルーム後キーリに話しかけに言った。


「あの、キーリ君。シュナ=リュークレスって言います。先程は助けてくれて、ありがとう」


「さっき…ああ。君がルーフェスト様の恋人か。別にうるさかったから言っただけだ。ルーフェスト様は差別はしないと言っていたが、君も恋人がいるからと浮かれず公私混同するなよ。本当にいい迷惑だ」


 うっ、おっしゃる通りです。

 ああ、早く恋人のフリ終わらせたい。色々面倒だ。


「コネで入学直前に試験もせずに入れたみたいだし、お前みたいな人の努力を愚弄する存在をオレは認めない」


 そう言い、キーリは教室から出た。

 これからの学園生活大丈夫だろうか。

 そう不安でいっぱいになる朱奈であった。

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