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第8話 デート

「なっ、なんとか間に合った…」


 広場に戻ると、ちょうど広場の時計がなった。待ち合わせの時間ピッタリだ。本当は待ち合わせには五分前にはついていたいタイプなのだが、遅刻じゃなかったのでまあ良しとしよう。

 あたりを見渡すと女の人の人だかりが出来ていた。


 多分あれだ。


 ルーフェストを囲っている人だかりを見つけたが、怖くて近づけない。すると、中からルーフェストが出てきた。


「やあ、シュナ。制服とっても似合っているよ。ああ、一緒に通えたらどんなに良かったか」


「制服で来ることになる事、知ってたんでしょう。なんで教えてくれなかったのよ‼︎」


「だったて言ったら、今日にしなかっただろう。デート」


 その通りだ。


 二人が話しをしていると、気づくと周りを女の人たちに囲まれていた。


「ルーフェスト様。そちらはまさか…」


「ああ、最近付き合い始めた彼女さ」


 そう言い、ルーフェストは朱奈の腰に手を回し引き寄せる。


 きゃーっと黄色い声が響き渡り、やっぱりー、ショックー、等色々な声が飛び交っている。


「じゃあ、行こうか」


 ルーフェストは周りを気にせず歩き始める。その後ろを囲っていた人たちが付いてくる。


「ねぇ、ついてくるんだけど」


「そうだねー。まあ、見せつけておけば良いんじゃないか?」


「私は凄く気になるんですけど‼︎」


「なら…」


 そう言い、ルーフェストは朱奈な顔に手を添える。

 きゃーっと言う黄色声が響く。女の人たちは顔に手を添えて、その隙間から見ている。


「もっと見せつければ良い。そうすれば向こうも恥ずかしくて見てられなくなるんじゃないか?」


 いや、バッチリ見てるし‼︎

 朱奈は深呼吸をした。

 そして朱奈はルーフェストの手を退けてその手を繋いだ。

 ルーフェストは首を傾げている。


「じゃあ、見られない場所に行けば良いのよ‼︎」


 そう言い朱奈はルーフェストの手を引いて走り出した。それに気づいた女の人たちも追いかける。

 追いかけっこが始まった。


 朱奈は学生の頃陸上部だった。現在は運動不足でとてもじゃないが走れないが、15歳若返っている。もしかしたらその頃のように走れるかもしれないと思った。


 予想は的中し、走れた。


 凄い‼︎走っても全然苦しくない‼︎大人になってからは、あーすれば良かった、こーすれば良かったと若い頃の後悔ばかりをしていたが、今は昔の私に感謝している。

 15歳の私、陸上部での経験は無駄じゃないよ‼︎

 早く苦しくなく走れるのが嬉しくて、朱奈はたくさん走った。

 走って走って…たくさん走った。

 そして、汗をぬぐってあたりを見渡すと、どこにいるか分からなくなっていた。


「あっ…あれ?ここは…?」


 あたりを見渡すと緑が多く、家がポツポツと点在している。中心部から大分離れたようだ。

 後ろを振り返ると、手を繋いでいたルーフェストが肩で息をしていて、汗が滴り落ちている。


「ごっ、ごめん。つい走り過ぎちゃった。…大丈夫?」


「あっ…ああ。しかしシュナは足が速いな。オレも足には自信がある方だが…ははっ、運動不足かな」


「じゃあ、今度一緒に走ろっか」


「それも良いね」


 ついてきていた女の人たちは勿論ついてこれるはずもなく、気がつけば二人しかいなかった。


 手を繋いでいた事を思い出し、恥かしくなって手を離した。


 ぐーーーーー。


 朱奈のお腹の音が鳴り響いた。

 はっ、恥ずかしー‼︎

 いっぱい走ったし、お昼も食べてなかった。


「シュナ、あそこにパン屋があるみたいだね。オレもお腹すいたしパンを買ってお昼にしようか」


 二人はパン屋でパンを買い、芝生に腰を下ろした。


「体を動かした後の食事は格別だな」


「そうだね、いつもより美味しく感じる」


 ルーフェストは朱奈の口元についていたソースを拭ってペロリと拭った指を舐めた。


「ソース、ついてたよ」


「あっ、ありがとう…」


 朱奈は恥ずかしくて下を向いた。


「さっきは嬉しかったよ。まさか君から手を繋いでくれるとは」


「あれは、女の人たちから逃げる為で…」


「それでも嬉しかったよ」


 風が吹き、髪がなびく。

 汗をかいた体が風によって冷えていく。


 くしゅん‼︎


 朱奈は体が冷えてくしゃみをした。


「ああ、いっぱい走って汗をかいたから、体が冷えてしまったね。そういやこの近くに温泉があるよ」


 温泉‼︎この世界にも温泉があるんだ‼︎


 朱奈とルーフェストは、冷えた体を温める為温泉へ行った。


「おおー。まさしく温泉‼︎」


 朱奈はウキウキしながら中に入った。

 石造りの床に石で囲ったお風呂。端にはお湯が流れ出ている場所がある。

 外にあるので、周りは木で覆われている。露天風呂だ。

 湯の色は乳白色で、入浴剤を入れたような色だ。


「しかし、まさか屋敷の近くだったなんてね」


 朱奈は当てもなく走り迷子になったかと思ったら、なんと屋敷の近くにきていた。


 ルーフェストは近くなのでこの温泉にはたまに来るようだ。

 温泉に行く前に鳥で文を屋敷まで届けていたので、温泉に着いたらメイドが着替えを届けにきてくれた。


「あー、極楽極楽♪」


 やっぱ温泉は格別だ。体の疲れが取れていく。寮に入るけどまたにはここに来よう。

 しかし、なんでこんなところに温泉が?他のお客も全然いないし。

 もしかしてナギリス家専用とか?屋敷から近いし、それはありえるかも。


 色々考えていると、扉が開いた。


 そこには腰にタオルを巻いた裸のルーフェストが立っていた。


「やあ、温泉は気持ちいいだろう」


「きっ…きゃあぁあああー‼︎」


 バシャーン‼︎


 朱奈はビックリして潜った。しかし潜り続くられるわけもなく、ブクブクブクと口まで外に出てきた。


「なんで、ここに…。ここは女湯でしょ?」


「?何を言ってるんだ?ここには一つしか風呂はないぞ。混浴だ」


 混浴⁈そんなの聞いてない‼︎

 騙された…。風邪引くから早く入ってきなと先に風呂場へ案内されて、てっきりそこが女湯だとばかり。一緒に着替えたら私が入らないから、敢えて入った後で来たんだな。


 朱奈はゆっくりと端の方に移動した。そして置いてあったタオルを取り、湯の中で体に巻きつけた。


「なんでそんな端にいるんだい?」


「恥ずかしいからに決まってるでしょ‼︎入るなら離れて入ってよ‼︎」


 その声も虚しく、ルーフェストは湯船に浸かり、じりじりと寄ってくる。


「ちょっ…きちゃダメって言ったでしょー‼︎」


 その声も虚しく、ルーフェストは肩と肩が触れ合いそうな距離まで来た。

 お湯が乳白色で、本当に良かった。


「今日は本当に楽しかった。ありがとう。どんなデートにしようか色々考えていたけど、全部吹っ飛んで予想外のデートになって楽しかった。本当に君といると飽きないな。いつも驚かされる」


 ルーフェストは朱奈を見て頭を撫でた。


「オレはたくさんの女性と遊んできたけれど、君は他の女性とは違う。どうやって口説いたらいいか分からない。本当に新鮮で面白いな」


「別にフリだから、口説かなくて大丈夫じゃないの?」


 ルーフェストは苦笑した。


「そういう所も可愛いけどね。じゃあ、のぼせる前にオレは出るよ。シュナも長風呂しすぎるなよ」


 そう言いルーフェストは立ち上がって湯の中を歩き始めた。

 するとその時後ろの木々が音を立てた。


「えっ?」


 朱奈は振り向くと、木の中から何かが飛び出してきた。


「きゃあぁあああー‼︎」


 朱奈は慌てて立ち上がり、必死に湯の中を走る。前を歩いていたルーフェストにぶつかりそのまま押し倒してしまった。


「あっ、その、あの…」


 朱奈は真っ赤になって慌てている。ルーフェストは朱奈の後ろを除くと動物がいた。


「ああ、モンチーだよ。心配ない」


 モンチーと呼ばれる動物は、猿のような動物でリスのような頬袋と尻尾を持っている愛くるしい動物だ。人に危害は加えず、人懐っこい。

 朱奈は安堵し肩で息をした。

 するとルーフェストが抱きしめた。


「なっ、何するのよ‼︎離してよ‼︎」


「抱きついてきたのは君じゃないか。いやー嬉しいねー」


「あれは、何かが飛び出してきて、びっくりしてつい。モンチーだなんて分からなかったのよ。もー離しなさーい‼︎」



 緑豊かな場所にひっそりとある温泉。静かな場所に朱奈の叫び声がけたたましく響くのであった。

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