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プロローグ

 車の窓からは星はよく見えないが高層マンションの灯りがたくさん見える。その窓には隣で運転している彼の姿もうっすら見える。


 綾月 朱奈(あやつき しゅな)

 今日で30歳。中肉中背で瞳の色は焦げ茶、髪は赤茶のセミロング。ゲーム・漫画・アニメ大好きなオタクだけど、オシャレは大好き。主に赤文字系雑誌の服が好き。別に男に媚びる為にそういう服を着ているのではなく、好きだから着ている。でも、男受けも良いからラッキーだよね。仕事は別に好きな事を仕事にしてるわけではなく、嫌いではないから生活の為に続けている感じ。

 彼とは付き合って2年。最近仕事が忙しくてあまり会えず、仕事の疲れを癒す為、趣味(主にゲーム)でストレス発散してた為さらに会う頻度は少なかった。正直当初のようなドキドキ感はなく、ぶっちゃけあんまり会わなくても良いかなーと思っちゃうことはあるけど…嫌いじゃないし、居心地は良いし。

 30歳の誕生日だし、そろそろプロポーズとかないかなーと期待しているのだが…


 そんな事を考えていたら車は家の前に着いた。


「あっ、着いたね…」


 お互い見つめ合い沈黙が続く。彼は深呼吸をし、沈黙を破った。


朱奈(しゅな)、俺たち別れないか?」


「えっ…?」


 なにそれー⁈なんの冗談⁈


 朱奈は開いた口が塞がらなかった。


 今日は30歳の誕生日。水族館に行って、豪華なディナーを食べて今に至る。この節目の誕生日、これはもう誕生日プレゼントで婚約指輪が出てきてもおかしくはない‼︎と思っていたのにいきなり真逆なことを言われて朱奈は困惑した。


「今日って私、誕生日だよね⁈」


「そう…だね…」


「しかも30歳の誕生日だよ⁈言うタイミング違くない⁈」


「確かにそうなんだけど…前から言おうと思ってたんだけど、気がついたらこの日になっちゃってさ。これ以上別れ話を先延ばしにはしない方が良いかと」


 30歳の誕生日に別れ話を言われた事ももちろんショックだが、彼が前から考えてたと言う事にもショックを受けた。


「な…んで…、別れようと…思ったの?」


「ここ半年、月一で会えれば良い方だったよね。連絡もあんまり取ってなかったし」


「それは、仕事が忙しくて…」


「前ならお互い少しの時間でもって考えた。でも、今は疲れたしまた今度。最初は君が忙しくて会えないのが辛かった。でもだんだん会えなくても大丈夫になってしまったんだ。君だって会えない事に平気になってたんじゃないか?」


 彼の言葉がグサッと心に刺さった。この半年仕事が忙しくて残業や休日出勤で会えない日が多かった。会えないだけでなく連絡も疎かになっていた。でも頑張って時間を作ろうとは思わなかった。

 寧ろ仕事で疲れて人に会いたくなかったし、正直趣味でストレス発散してた方が楽しくて会うのが億劫になっていた。でも会ったら会ったで楽しいし、この歳で別れたら次見つけるの大変だし、嫌いじゃないしって惰性で付き合ってた感はある。だから彼の言い分は痛い程よく分かる。もしこれが若い頃なら普通に別れてた。

 でも、友達は次々と結婚していき、焦っていた友達も婚活パーティーで知り合った凄く好きとは言えないけど、まあ条件はクリアしてるし一緒にいて辛くないなって人と結婚した子もチラホラいる。それと一緒じゃない?


「あなたは…結婚とかしたいと思わないの?」


「結婚?まあ、したくないわけじゃないよ。確かに君との関係は居心地が良いよ。でも、会わなくても平気と思ってしまうのは違うと思う。結婚しても続かないよ。仕事が忙しくて家庭を全く顧みない旦那が奥さんに離婚を突きつけられるってあるじゃん。それと同じような事になるよ」


 彼の言葉がすっと心に入った。私はただ別れて一人になるのが怖いだけ。邪魔にならない存在なら彼でなくても問題はない。

これ以上彼を引き止める言葉は、もう朱奈には思いつかなかった。


「分かった。別れよう」


「朱奈…」


「今まで、ありがとうね」


 そう言い、朱奈は車を降りた。彼は何か言おうとしていたがさっさと降りて歩いた。もうこれ以上彼の言葉を聞きたくない。このままいたら爆発して色々言ってしまいそう。涙を堪えて朱奈はマンションのエントランスに駆け込んだ。


 エレベーターを待つ時間も惜しむように、朱奈は階段を駆け上がった。一気に三階分駆け上がって息が苦しかったが、休まず玄関まで早歩きし、鍵を開けて部屋に入った。内鍵をかけて部屋に入ると気が抜け荷物を床に落としてしまい放心状態になった。


「シャワー、浴びようかな…」


 そう呟きふらついた足取りで風呂場へ行った。

 30分後、シャワーを浴び終えた朱奈は台所からワインとチーズを持ってきた。座椅子に腰掛けてテーブルに置くと大粒の涙が溢れた。


「確かにあんたじゃなくても良かったよ。でもそんな感じで結婚する人だっていっぱいいるじゃん‼︎仕事だって生活の為にしてて生きがいってわけでもないし、友達もどんどん結婚するし焦ってるんだよ‼︎30歳だよ⁈25歳の時は30歳には結婚してるって思ってたよ。30歳まで独身だと色々趣味も増えるんだよ。一人楽しいんだよ。お互いの時間大切にしたいんだよ。それでたまに二人で…」


 そこまで言って朱奈はハッとした。一人の時間は楽しみたい。でも自分のことばかり考えずに相手の事も考えないといけない。自分の都合の良い時だけ一緒に居たいってのはワガママだ。さっき彼が言っていた仕事人間の話と同じだ。

 あの時は分かったつもりでいたが、本当の意味で分かってなかった。朱奈には思いやる気持ちが欠けていた。そして彼にも欠けていた。それが別れる原因だったのだ。


「でも…だからってわざわざ30歳の誕生日に言わなくても…。余計に傷が深くなるよー‼︎もー、今夜は呑んで呑んで呑みまくるぞー‼︎」


 朱奈は缶ビールをグビッと一口呑んだ。ビールが喉を通り気分が高揚する。つまみを食べながら一本、二本と缶を開けていく。何本か呑んだあたりで意識がぼやっとしてきてそのまま床に横になった。


「あー、これからどうしよう。一人は楽しいけど…寂しいよぉ。だれか…どこかに…私…」


 朱奈はブツブツ呟きながら、瞼を閉じていった。

 それから数ヶ月後、クリスマスイブ


 街中はイルミネーションが煌めいていて、楽しそうなカップルで溢れていた。


 はぁー。クリスマスなんて嫌いだー‼︎


 朱奈はカフェで一人でお茶しながら外を眺めて心の中で呟いた。

 彼と別れてから二週間は好きな事をして遊んで楽しく過ごしていたが、また友人から結婚式の招待状が来て現実に引き戻された。

 一人は楽しいが、孤独死はしたくない。キャリアウーマンじゃないからこのまま仕事をし続けても年収はたかが知れてる。老後も不安だ。

 共働きでお互い一人の時間も大切にしつつ、二人の時間もちゃんと持つ。お互いのことを思いやれる、そんな相手に巡り会いたいし、私も思いやれる人になりたい。

 

そう思うが出会いがない。


 友人に紹介を頼もうにも既婚者が多く紹介出来る相手がいないと言われる。

 意を決して、婚活サイトに登録して何人かと会ってみた。しかし、なかなか良い人に巡り会えない。初回だけではどんな人か分からないから、生理的に受け付けなかった人以外は何回かデートしてみた。でもダメだった。

 今になって、なんで元彼をもっと大切に出来なかったのだろうと悔やまれる。比べてはいけないのだろうが、元彼以上の人に会えない。

 まあ、実際は元彼をある程度大切にしていて結婚してたとしても、やっぱりダメだったような気はするが。元彼以上に良いと思える人でないなら、上手くはいかない。


 そんなこんなで、今に至る。


 今日はクリスマスイブ、街はカップルで溢れていて、おひとり様の私には外は居心地が悪い。

 じゃあ何故外に出たかって?今日は平日で仕事。しかも忙しくて残業帰り。

 外は寒く疲れたのでカフェでカフェラテをテイクアウトしようとお店に入ったら美味しそうなお茶菓子があったので、お腹も空いてたし店内で頂くことにした。

 しかし、今日がクリスマスイブだということを席に座って一口飲んだ時に思い出し後悔した。


「そろそろ家に帰ろうかな」


 残っていたカフェラテを飲み干して、朱奈は店を出た。

 吐く息は白く、今にも雪が降りそうなくらい寒い。折角飲み物で温まった体が冷えていく。

 歩いていると大きなクリスマスツリーが見えてきた。綺麗にライトアップされていて恋人たちが楽しそうにしている。こんな場所さっさと通り過ぎたいと思い早足で歩き始めようとしたが、朱奈の足は止まった。


 そこには女の人と仲睦まじく手を繋いでツリーを眺めている元彼の姿があった。


 朱奈の頬を涙が伝った。


 別に彼自身に未練はない。確かに彼以上の人には出会えてないが、彼に対しての愛情は残ってない。ただ、自分は何も進んでないのに、彼は進んでいる。この事実が受け入れ難かった。


 そこから先のことはあまり記憶にない。その場を一秒でも早く立ち去りたくて、がむしゃらに歩き、気がついたら家に着いていた。


「よし、今日も呑もう‼︎」


 そう言い朱奈は缶ビールを何本か冷蔵庫から出してきた。

 そっからはまた浴びるように酒を呑み、また意識が朦朧としてきた。


「なんか良いこと起きないかなぁ…私も恋、したいなぁ…人を好きになりたいなぁ…」


 そう言い朱奈の意識は途切れた。









「やっと見つけた………の……花嫁……」




 朱奈が眠ると、謎の声とともに体が暖かい光に包まれ朱奈の体は消えた。

 まさか、これから目を見開くような出来事が起こるとはこの時の朱奈は夢にも思わなかった。


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