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さてはおめぇ、イギリス人だな

今日も相変わらず綿花の収穫の手伝いをしに、アルトゥルは3人の姉弟と一緒には綿花畑へ来ていた。


「アルトゥルはやいわねー」

作業をやたらと急いでいるアルトゥルだが、狙いは別にあった。

(お、ミミズだ)


籠を一杯にすると、木箱に詰めに行く途中で魚の餌になりそうな虫などを手当たり次第に捕まえていた。

(コレで18個め)

母親から貰ったボロ布を器用に縫って作った袋に虫を入れると、直ぐに綿花の収穫作業に戻った。

なるべく動き回り、父親にバレないように餌を集め。ついでに畑仕事が早く終われば、それだけ準備の時間が増えるからだ。


「ねえ、アルトゥル」

弟のアルベルトが綿花の間から顔を出した。

「うん?」

「異世界の話して!」

「ん?」

急なお願いに、アルトゥルは首を傾げた。


「どったの、急に?」

近くに寄るアルベルトの尻尾がゆっくりと振られているのが見えた。

「だって、気になるもん。昨日の船よりスゴいの一杯有るんでしょ!」

同い年の弟からせがまれ、アルトゥルは悩んだ。


一体、何を話せばいいか…。

前世の両親は正直嫌いだし。

妻子の事は6歳の弟に話してもつまらないだろうし。仕事の事は………。輸送機からパラシュート降下したりヘリに乗って襲撃する話しは乗り物から説明しないといけない上に、戦争の話しは聞かせたくない。


「船とかどんな感じだった?やっぱり一杯有るの?」

アルベルトの一言にアルトゥルは思い付いた。

(そっか、単純に乗り物の話をすれば良いじゃん)


「船は一杯有るよ。でも、木で出来た帆船は殆ど無くて、鉄で出来た船だったよ」

「鉄ー!?」

案の定、アルベルトは目を真ん丸にした。

今世の世界は技術的には近代一歩手前。この世界にも鉄鉱石から銑鉄を取り出す高炉は存在するが、未だ効率が悪く。鉄は高価だった。

そんな高価で、重たい鉄で出来た船があると聞き、アルベルトは尻尾を大きく振りだした。

「沈まないの!?」

「丈夫な鉄を薄く伸ばしてるから沈まないんだ。逆に木の時よりも大きな船が一杯増えたよ。でも、大きいとその分だけ重たくなるから、帆じゃ進めなくなったんだよ」


「じゃあ、何で進むの?」

アルベルトの尻尾が更に振られているが、アルトゥルは悩んだ。

(やっべ、スクリューとか蒸気機関を説明しなきゃダメじゃん)

前世であったら、写真や映画館、更には実物を見せれば良いが。

「えーっと………。スクリューってヤツが有るんだ。あの風車みたいな」


アルトゥルは悩んだ末に、土手とは反対側の丘の上に建つ風車を指差した。

「あんな形のヤツを水の中で回すと水を掻いて進めんだ」

「何で?」

(また即答かよ!)

アルトゥルは転生者故に、前世の記憶を持っているので歳の割りには賢いのだが。弟のアルベルトは転生者で無いのにも関わらず賢く、既にアルトゥルが教えた四則演算も出来る。その分なのか。知識に貪欲で、気になることは根掘り葉掘り聞いて来るのだ。


「羽根って傾斜してるじゃん」

「うん」

「風車は前からくる風が羽根にぶつかって、決まった方向に回るでしょ?」

「うん」

「コレとは逆に、別の力で風車を回すと今度は風が流れるんだ。この時に推す力が働くから船が進むんだ」

「………」


“上手く行ったか”と、アルトゥルは胸を撫で下ろした。

「じゃあ、別の力って?」

「えーっと……」


こうして、昼食の時間まで。アルトゥルは弟に色々と説明する羽目になった。




「カミンスキーさん」

全員で土手に座りながら塩湯でしただけのジャガイモを齧っていると。加治屋のビスカ氏がアルトゥル達と同い年の長男を連れて現れた。

「ああ、ビスカさん。仕事ですか?」

現れたビスカ氏はアルトゥルが住んでいる集落のすぐ近く。昨日見た魔王城があるファレスキに住んでいた。


「新しいポンプを使った風車の建設地を探してましてね」

アルトゥルの一家はビスカ氏が改良した農具のテストや排水に使う風車とポンプの実地試験の為の土地を提供していた。


「アレと同じ風車で良いので、地盤が硬い場所を探してましてね」

ビスカ氏が指差したのは、先ほどアルトゥルがスクリューの説明に使った風車。

この辺は湿地帯だったが、ビスカ氏が排水用のポンプを実験をしたがっていると聞きいたアルトゥルの父親が、二束三文でこの土地を地主から買い取り。アルトゥル達が生まれる前から開拓が進み、今では畑が広がっていた。


「今度のポンプなら、もっと広い範囲の土地から水を抜ける筈なんですが」

父親は上流側を指差した。

「でしたら、あそこが良いかと。凝灰岩が多く安定してます」

コレまた小高い丘だが、土手に近いため排水が容易そうだった。


時折、農家にしては不釣り合いな観察眼を父親が持っている事をアルトゥルは疑問に持つが。聞いても“色々有ったんだよ”とはぶらかすので、最近は考えるだけ無駄だと感じていた。


「アルトゥル、コレ食べよ!」

姉のアリナがバスケットを掲げるのが見えた。

「うん」

パリパリ…。

「ん?」

バスケットの中身を食べているとビスカ氏の長男のライネが音に気付き、近付いてきた。


「クリスプス…?」

「ん?」

ライネが漏らした単語にアルトゥルは反応した。

「チップスをクリスプスと言うたぁ。さてはおめぇ、イギリス人だな」

日本では“ポテチ”と略されるポテトチップスをアルトゥルがオヤツにと作って来ていたのだが。ライネがイギリス式に“クリスプス”と言ったので、転生者だと判った。


「うん、元イギリス人だよ。君は?」

何度か会ったことは有ったが、特に会話をする事は無く。今になって転生者だと気付いた。

「元アメリカ人。なんだ、転生者が多いって話しは聞いてたけど、結構近くにいるじゃん。食べる?」




「そうそう、クリスプスって意外と見ないんだよね。今世では初めて食べたよ(パリッ」

ライネの言ったことに、アリナは胸を張った。

「へー。家だとたまに出るよ。“アルトゥルがおいしい物がある”って教えてくれてから、母さんが作ってくれるんだ」

父親達が開拓計画を話している間。ライネはアルトゥル達とポテチを摘まみながら食事の事を話していた。


「意外だ。コレってジャガイモをスライサーか何かで薄くして、ちょっと冷水で締めてから揚げれば良いだけじゃん」

「そこまでしないで僕の所はチップスにしてるね。トビマスのフライと一緒に」

アルトゥルは前世の記憶を手繰り寄せた。

「チップスって言うけど、フレンチフライの事でしょ?」

軍の任務でイギリスに居た時。休暇の際に仲間の兵士数人とでパブで“チップス”を頼んだところ、“フレンチフライ”が出て来て面食らった事があった。


「そうそう、アメリカだとそう言うんだっけ?」

アルトゥルにフレンチフライと言われ、ライネは肯定した。

「仕事でニューヨークに行った時に、チップスが無くてビックリしたなあ」

アルトゥルの兄弟姉妹3人は知らない単語が出てくるので首を傾げていた。

「…コッチは大皿に盛られたフレンチフライが出てきたんだぜ」

「あぁ…」



「へー、普段は畑仕事の手伝いをしてるんだ」

ライネとアルトゥルは草むらに寝転がりながら雑談に興じていた。

「引退したら、農家も悪くは無いかとは思っていたが、結構楽しくてな」

「成る程ねえ。僕は機械弄りが好きだったから加治屋に生まれて良かったな。父さんと色々作れるし」


「何かオジン臭い」

聞き耳を立てていたアリナは話の内容がつまらないので、他の2人と追い掛けっこを始めていた。


「……行ったね」

「ああ………。で、提案なんだけどよ」

他の兄弟姉妹が居なくなってたら、アルトゥルはライネに相談を始めた。


「マスを釣りてぇんだ」

「マス…って、トビマスを?」

アルトゥルは頷いた。

「“危ないから”って、ちゃんんがやらせてくれないんだ。ほら、家は家族が多いからさ。今は9人家族だけど、母ちゃんは臨月でもうすぐ家族が増える。だから、金が必要なんだ。で、マスの卵が“結構良い値で売れる”って聞いたんだ。こりゃ、やるっきゃないだろ!」


話を聞いたライネは空を見上げた。

「良いね、マス釣か。何時やるの?」

「父ちゃんに見付からない様に明日の日の出前後。で、釣って戻って来れば父ちゃんも許してくれると思う」

ライネは身体を起こした。

「待った、君のお父さんは農家だから、朝早くない?」

「あー…。そうか………」


普段はアルトゥル達は日が登った後に起こされて(・・・・・)いるが。そもそも、両親が日の出前後に起きていては時間が無いのだ。

「何か策はねえかな」


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