第2章 プロローグ
ーーあれから10年の年月が経った。
16ともなると体のバランスが悪くない。
というか、過去の経験を合わせ強さのピークに達するのではないだろうか。
まぁいい。
エドの修行自体は5年で終え、残りの5年はこの世界でのランキングシステムと呼ばれる階級制度を上げるため、依頼をこなす作業となった。
儂は、サテンと2人でコンビを組み、依頼をこなしていくことでなんと、Sランクを獲得したのだ。
「で、どうしてまだ依頼を任されるのか」
今は、1人スラム街のはずれに向かって歩いている。
Sランクだからといって、乗り物が与えられることはないようだ。
疲れるなぁ。
なんて文句を言っても始まらない。
さて、今回の依頼をまとめようか。
ーー今回の依頼を要約するとこうだ。
双子だか、三つ子だか、 顔のよく似た女たちがここいらをうろついているところを目撃した。
最近では、そこらに建造物が出来ていて、そこに接近したメンバーが攻撃を受けた。
また、目撃証言には、三つ子だけでなくもっとたくさんの同一の顔を目撃しているというものもある。
建造物および、それらの人物を探り報告してくれ。
また、それが敵性組織のものである場合攻撃の許可出ている。
ps 話し合いで解決できそうならそれが好ましいぞ。
だ、そうだ。
「さて、資料によるとそろそろ見えてきてもいいと思うが」
ここいら一帯は見覚えがある。
もともと自分の住んでいた家があった付近であり、縄張りとしてよく狩りを行っていた。
「懐かしいものだな。 あれから10年か」
あたりを見渡すと、過去の記憶が蘇るようだった。
しかし建造物らしきものは見当たらない。
広場のようなスペースがあり、そこに座り込む。
「妙だな」
と、いうのも、スラムは基本的に王国の廃棄物により埋まっており、スライムが周辺にいない場合このように広場となることは少ない。
あって、バイクが通れるような道程度だろうか。
あたりにスライムの残骸はない。
戦闘を行い綺麗に除去したか。
あるいは、ここで何かしていたのか。
「どちらにせよ……だな」
どちらにせよ、何者かがここで何かをしていた痕ということだ。
とりあえず周りを歩いてみることにした。
周りを歩いていると、小さな悲鳴が聞こえる。
聞き覚えのない声。
女の声だろうか。
すぐさま駆けつける。
できる限り気配を消して。
様子を見てみると、スライム3体に囲まれた同い年くらいだろうか。
女の子がいた。
服をはだけながら、やや息を切らしている。
綺麗めの童顔だが、プロポーションとしては抜群だな。
でるとこは出ていて、控えめなところは控えている。
いかにも、男が引っかかりそうな女だ。
ーーさて、どちらがいいか。
このまま、ここで尾行を開始するか……スライムにやられそうだが。
ここで助けに出るか……顔を見られるが。
迷う暇は与えんと、スライムは3体と、周りの残骸を吸収しながらかなりの大きさとなった。
大きなトラックを想像してもらえば間違いはないだろう。
ーーやむを得まい。
儂は陰から飛び出し女の横に着く。
「べ、別にあんたのために助かるわけじゃないんだから。 た……ただ、このスライムが食べたいだけなんだからね」
儂はふつうに、できる限り素直な印象を与えるように敵ではないことをアピールした。
「なんなんですか。 別に助けなんていらないのですが」
ツッコミも入らず、クスリとも笑わない。
しまった。
これは馬が合いそうもない。
いや……まてよ。
この言い方、ツンデレか。
被せボケ? 本物?
試す価値はあるか。
「なんでツンデレやねん!!」
なんというか……神さま、ツッコミの才能をくれ。
「ツンデレ? というものがわかりませんが。 って危ない」
女から、突き飛ばされる。
突き飛ばされた先にはスラムの分離体が落ちてきて、その地が溶かされる。
「おい、ツッコミとはそういうものではないぞ。 儂が言うのもなんだが」
「いや、目の前の敵に集中したください。 死にたいんですか?」
女から目線をそらし、スライムを見る。
いやぁでかいな。
10数年の付き合いだが、このサイズは初めて会う。
「そうか、こいつが悪いんだな。 嬢ちゃん、こいつを倒せば名前を教えてくれるんだな?」
過去の戦闘ではスライムにはそのまま食事が可能となる炎を使う機会が多かった。
しかし、今回はスピード勝負。
こんな邪魔者をさっさと排除するのがいいだろう。
左手に炎が集まる。
まだ、収束していく。
圧縮しているわけではない。
ただ、右手に魔力を集めるために。
「よし、こんなものか」
今までの炎の魔法は、魔力を分子の移動に使うだけでなく。
熱の収束。
他のところから暖かさを集めることに使っていた。
つまり、他が寒くなると言うこと。
「よーく狙って。 ズドンっとな」
氷の弾丸は見えない。
雹を打ち出すと言うより、今回のは熱の停止を当てるイメージだ。
スライムの時が止まり、崩れる。
スライムに与えた温度はマイナス273度。
それは、ある一種の生物を除き、全ての生物が活動を停止する温度。
それは、スライムとて例外ではないようだった。
「あ、あなた。 一体」
「ん? 儂はウルフだ。 お前は?」
とびっきりの笑顔で迎える。
前世では詐欺も行なっていた儂の笑顔は一点の曇りはなく。
あのサテンをもってして、綺麗すぎて裏がありそう、不気味!!
と、賞賛されるほどのものであった。
「………………」
沈黙、が流れる。
「えと、名が話せない理由があるのか?」
「え? あ、いや。 名前はイレブンです。 あの、助けていただきありがとうございます」
イレブン……11か。
「とてもいい名前だな。 少なくとも、名付け親がいると見える」
「……失礼します」
イレブンは踵を返し逃げようとする。
止めようと手を伸ばすがそれより前に、急にうずくまる。
よく見ると、足に手を置いている。
「痛めたのか? もしよければ、この近くに家がある。 そこで治療をしよう。 安心しろ、もう何も聞かない」
イレブンは、少し考えるようにしてから、天を仰ぐ。
「許可がおりました。 お願いしてもいいですか?」
「許可……? いや、構わん。 ほらっ」
儂は背を向けて差し出す。
「……? それは?」
「おんぶだ。 乗るんだよ」
イレブンは勝手がわからないといった感じで最初背中をさするが、すぐにおんぶの体勢をとることができた。
ふむ。
ーーいかんな。 サテンに殺される。
いや、しかし。
それは、不可抗力だった。
背中に当たる双丘。
柔らかく弾力があり、形を移動に合わせて変える。
ウルフの小狼は大変なことになり、歩きづらい。
「大丈夫ですか? やはり、重かったですか?」
「いや、もはやご褒美に近いな。 なんというか。 ありがとう」
「……はい。 どういたしました?」
何が何だかわからないといった顔をして、それでもお礼を返すあたりは普通の美少女だな。
これを、今から騙すのは心が痛むな。
これからのことを考えると憂鬱であったが、背中の幸せが相殺をしてくれたのでまぁ良しとしようか。