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1日目 開始 唐突な別れ

 部屋は冷たくて、いつもより少し広かった。

 床は鮮血で赤く染まり、特に自体の周りは血溜まりとなっている。

 少し離れたところに、からの薬莢と、一人の白髪の少女。


「ウルフ……イレブンは、どうしたの?」


「イレブンは……名前が変わってさ。 ハルって呼んでやってくれ」


「ふうん。 そっか……良かった」


「良かった……か。 何がよかったんだ? エドが……死んだんだぞ」


 そう。 そこに横たわっている自体の正体は、エドであった。

 いつものおちゃらけた表情は見せない。

 もう見せることはない。


「うん。 だって私が殺したんだもん」


 ウルフはサテンの首を掴み壁に押し付ける。

 ダンッ!!

 かなり大きな音がなるが、サテンはなんでこそなさそうに言葉を続けた。


「押し方が優しいよ? それに、首も絞まってない。 いいの? そんなんで」


 サテンが言う通り、首を絞めようとしてもこれ以上腕に力が入らない。

 拳を握りしめてもそれを振るうことは出来ないし、黒球に至っては出現すらしない。


「ちくしょう。 何でだよ」


「ロボット三原則って知ってるかな? ホムンクルスやゴーレムを作るときも、それに準拠した縛りを設けるんだよ」


「それが……どうした? 儂が、ホムンクルスであることに関係があるのか?」


「あれ。 そこまで知ってるんだ。 なら、話が早いね。 ウルフがホムンクルスである以上、ご主人様である私に手出しすることは出来ないんだよ」


 ウルフが顔を歪めた。


「ご主人様……だと? お前が? 師匠を殺したお前がだと!!」


「ねぇ。 悲しむ振りはやめなよ。 怒った演技も、苦痛の表情も」


「なんだと!! 貴様っ!!」


「君は、そういう風には造ってないのに、どうしてそこまでできるんだろう。 不思議だなぁ」


「……どうやら、お前を殺してやりたくても、殺さないみたいだな」


「だから、その気持ちがそもそも嘘なんだって。 最初出会った時はちゃんと、感情が希薄だったのに」


「ふぅ。 やめたやめ。 出来ないことをやろうとするほどバカじゃない……で? どうしてエドを殺したんだ? 理由があるんだろう?」


 ウルフは手を離し、サテンを解放する。

 その姿に、サテンは顔を緩める。


「うんうん。 それでこそホムンクルスだ。 でね。 何で殺したかだね……理由は話す必要はないかな?」


「なんだと……ふざけるなよ」


「うーん。 じゃあ取り引きしようよ。 とりあえずこの場をなんとかして見せてよ。 君に利用価値があってその気があるなら、手下ぐらいにはしてあげてもいいよ?」


 サテンが、ピストルをウルフに差し出す。

 ウルフはそれを受け取って、サテンに向けた。


「その思い上がった態度も気に入らないが……それ以上に引き金の弾けない自分に腹がたつよ」


「そう言う風に作られたんだから、恥じることはないよ」


 サテンの後ろにあるドアが開かれる。


「初めまして、アサギと申し……こっ、これはぁあ」


 ウルフは、息をゆっくりと吸って、止める。

 その瞬間、引き金が軽くなる。

 それを引き、1発の銃弾が発射される。

 今度は、サプレッサーの外されたそれは小気味いい銃声を響かせた。


「眉間に1発。 相変わらずいい腕だね。 ウルフは」


 サテンに褒められるが別段嬉しくはない。

 先ほどの銃声を聞いたのだろう。 人が集まってくる。

 そして、二つの死体を確認され、ざわめきが起こる。


「みんな、聞け……エドが、この男に殺された。 この男は、王国の者だ。 おそらく、奴らが攻めてくる。 エドの復讐のため、力を貸してくれ」


「まさか、そんな」 「おい、エドが……嘘だろ?」 「信じられない。 信じたくない」


 周囲の者が、好き放題に言い合ったのち、ある一人の男が、それを言い放った。


「復讐をするなら。 仇討ちをするなら、まず、新たなリーダーを見つけねば。 俺は……ウルフがいいと思う」


 突然そんな発言があっても、周囲からは否定が多く出るだろうとウルフは思ったが、想像以上に同意の声が上がった。


「……わかった。 お前たちが望むなら、お前たちを率いてやる。 そのかわり……しばらく一人にしてくれないか。 誰か……エドの墓を、頼む」


 その指示を聞いて、周囲の人々は、散々に散り、ある者たちは、エドの遺体を引き取っていった。


「これで……いいんだろう?」


「契約成立だね」


「まず、エドを殺した理由を話せよ。 そのあと、吐瀉してくる」


「吐瀉て……理由は簡単だよ。 この状況を作ること。 ここを支配するためだよ」


「お前は……王国の人間なのか?」


「え? 私が? いやいや、ないよ。 そんなこと」


「そうか……とりあえず」


 ウルフはパチンとサテンの頬を軽く叩く。


「え? どうやって!!」


 ウルフの身体には、黒槍が複数刺さっていた。

 それは、もうすでに治癒を始めている。


「じゃあな。 ちょっと泣いてくるぜ」


 ウルフは、エドの机からタバコを一本拝借して、消えていく。


「それだけの覚悟があれば……大丈夫だね。 頑張ってよ。 ウルフ」


 サテンが一筋流した涙の意味は、何か、今はまだ分からない。


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