バトル オブ アドミニストレータ
空気中のチリを線路にして、雷は車のように走り続ける。
バチバチ。 バチバチと音を上げながら恐怖を与えるそれは威嚇であった。
試練とは、自分よりも大きな壁を与えられてこそ、成り立つ。
ウルフがこれまで出会った何者よりも大きな圧を放つ彼女は、大きな壁となり立ちはだかった。
「ちなみに、君の覚悟がそれほどでもないと思ったら、イレブンは処分させてもらうよ。 だから、本気でおいでよ」
アドミのその言葉に、ウルフは目つきを鋭くする。 そして、声を荒げていった。
「自分の家族だろ? 嘘でもそんなこと言うんじゃねえよ」
黒球を手裏剣にして、足元に投げる。
簡単に避けられるが、それは撒菱のように足場を奪う。
「家族……ねぇ。 まぁ家族だろうけど……それは娘や姉妹に与えられる感情とは違うかもね」
アドミは放たれる黒手裏剣を避け続け、それを拾いあげる。
「お前の家庭の事情なんて知らねえよ……でも、イレブンも、その姉妹も大事だから手は抜けないぜ」
「うん……それでいいんだよ。 それより、これ……東洋の投擲武器だよね……良いものだ」
アドミから殺意が送られる。 攻撃が飛んでくる。
手裏剣を投げるのか? 手に持つそれの性質を破壊に変える……いや、イレブンを治してもらわなければならない。
ウルフはそう考え、手裏剣を迎え撃つ。
アドミの纏う雷が、手裏剣に送られる。
そして周囲の雷がウルフの元に集まる。
ピリピリとした痛みがあるが、まだ攻撃はない。
刹那、雷が一線に走り、ウルフの体が痺れる。
その後、その雷の速度には劣るもののかなりの高速度で飛んでくる黒手裏剣がゆっくりと近づいて見える。
黒手裏剣を消す……間に合わない。
黒盾を出す……間に合わない。
せめて、亜音速で避ける……否、痺れにより間に合わなかった。
身体を少しでもそらすことには成功し、手裏剣は右肩口から侵入して、後方に貫通していった。
右腕が切り落とされ、かなりの量の赤いものが流れ出ようとする。
「はぁ……はぁっ。 危なかった」
「君も、人間じゃあないようだね。 普通は、血液っていうのは蛇口をひねった水のように、ひねり出てくるものだけど」
「今のは……レールガンか。 理論は聞いたことあるが」
「あれ? 絶望しちゃったかな? ダメだよ……明確な目的があるなら、達成のために歩みを止める時間は作ったらダメ」
「安心してくれよ。 儂の頭の中にあるのは、どうやったらお前を殺さないようにぶちのめすかってだけだ。 絶望の入る余地なんてない」
「ふふふっ。 それを聞いて安心をしたよ……で、まさか……腕を治すまで待ってくれなんていわないよね?」
アドミの腕には、別の手裏剣が握られている。
電磁レールはもうすでに引かれている。
後は、それを放つだけだろう。
「腕? あぁ、落ちていたのか……気がつかなかった。 まさか、そんな豆鉄砲でダメージを負うとはな」
ウルフは、腕をちらりと見た後、すぐにアドミに視線を戻す。
そして、頭の中で計算する。
腕を拾うのにかかる時間は……そして、くっつけるのにどれだけかかるのかを。
「きっと弾丸が良いんだろうね」
奴の放つ黒手裏剣は、見てから避けることが可能だ。
だが、その前に飛ぶ電撃。
光と遜色ない速度で飛ぶソレは、ウルフにも避けられない。
そして、一度ソレに当たれば身体の自由を奪い、今度は黒手裏剣が避けられるかは分からない。
「そりゃどうも」
ならどうするか、動き続けることで的を散らす……この場合、見てから電撃を食らう。
あらかじめ、黒盾を貼っておく……相手は固定砲台ではない、盾のないところから撃たれるだけだ。
ならば、全方位に盾を貼るか。 だめだ、そもそもあの黒手裏剣を耐えられるか分からないし、それだけ分厚くすれば、時間が勝手にウルフを敗北に誘うだろう。
「じゃあ、いくよ……あれ?」
だから、ウルフは受けることを諦めた。
相手が自分よりも格上で、生かしたまま倒すことが不可能と受け入れた。
彼女の持つ黒手裏剣を破壊の性質に変え、手のひらを消滅させる。
それに対しアドミは、まるで気がつかなかったように、何も感じていないように驚いてみせた。
「なんだ……これだけじゃ余裕かよ……なら、これなら驚いてくれるか?」
黒手裏剣と、黒短槍を空中にいくつも出現させる。
破壊を持つソレらを、アドミに向けて放った。
アドミは身体を反らしながらソレを避け続けるが、いくつもソレらをかすらせ身体を削る。
「おいおい。 とんだ隠し球だね。 そして、明確な殺意を感じるよ……殺す気かい?」
「殺す気でかかってやっと、生け捕りができるくらいの実力差だろ……死んだらお前のせいだ」
「はははっ。 言ってくれる。 ちょっと、本気を出してあげようか」
アドミはそういうと、観念したように身体の動きを止めた。
黒手裏剣、黒短槍を止めようとするが、いくつかはアドミに触れ、その姿は散滅し消えて無くなった。
その空間には、非破壊となりさらに浮きつづける黒いものと、壁や床、天井に至るまで刺さるトゲが多々あるだけで、立ち尽くす者はウルフのみとなった。
「くそ……勢い余って殺しちまったか」
その声は、よく響く。
自分の声がよく聞こえた。
そして、後ろから現れるその者に、声をかけられるまで気がつかない。
「誰を……誰が?」
ウルフは、振り返る。
振り返ると、電磁誘導によりさらに浮く黒手裏剣。
そして、電磁レールにより、標的となった自分がどれだけ儚いかを悟った。
「それは、悪手だぜ……やめておいた方がいいと思うが」
「へぇ。 こんな状況でもハッタリが言えるんだ……いいね。 君の覚悟は本物だ。 だけど、こんな状況でおあずけはないよね?」
「儂は、忠告したからな」
電磁レールを通って、電撃が飛来する。
それは、ウルフへまっすぐと飛んでいき、その身体を痺れされる。
はずだった。
電撃は周囲に分散して、空中の黒短槍、周囲に刺さる黒トゲに、吸収されていった。
その後、電磁レールは崩壊し、電磁誘導によって浮いていた黒手裏剣は地に落ちた。
「なっ……何をしたんだい? ウルフ」
「避雷針……電気を誘導することで、それらを崩壊させた。 そして、無防備になったお前は、これで終わりになる」
黒短槍を一つ取り出して、アドミに放つ。
彼女は、雷を集めて、壁を作るが、破壊され真っ直ぐにアドミを捉えた。
目の少し前、直前でそれは止められる。
「さて、アドミ……儂の勝ちでいいんだな?」
「そうだね……まさか、電子の壁を超えられるなんて、君は想像以上だ」
2人から、笑い声がこぼれる。
ウルフは、腕を拾い、断面にくっつける。
「おいおい。 それで、腕がつくのかい?」
「あぁ、いつもこうしてるが……」
「いつも、負傷してるとは、娘の嫁にするにはちょっと危ないねぇ」
「そういうのじゃねえよっ!!」
「はっはっは。 照れるな若造よ。 さぁ、イレブンを起こしに行かなくちゃ」
2人は、戦闘の後を身体に残さず、イレブンの元に向かった。




