姉妹達
冷たく切り裂くようだった。
濡れた身体である。 傷ついた身体である。
その身体に、高速で動く移動は楽ではなかった。
空気抵抗ではない。
ウルフの力は、そんなものを退けながら進むことができる。
つまりは、人間としての限界が近いことの証明なのだ。
「なぁ、イレブン。 身体、平気か? 持ちそうか?」
「え、ええ。 私はまだ大丈夫です。 ウルフ先輩こそ、大丈夫なんですか?」
大丈夫な訳はない。
一言にチートと呼べる体力と精神力を持つウルフが、限界の近さを悟るレヴェルの疲労だ。
いっそのこと、全部諦めてしまいたいと、心の何処かで思っている部分もある。
「大丈夫……な訳ないだろ」
このまま、想いをぶちまけて、眠ってしまいたい。
「やっぱり……」
「お前みたいな可愛い子と半裸で密着なんて、理性はもう限界だぜ」
だが、男とは、女の前では格好つけてしまうものである。
それは、どれだけ折れようとも、腐ろうとも、変わることのない事実であった。
暗い道を引き裂くように進むと、そこに堂々と家が建っていた。
ガラクタを寄せ集めて作ったのだろう。
鉄のつぎはぎだらけで妙に滑稽だった。
「ここだよな?」
「え、えぇ。 ここなんですかね?」
「どうしてそんなに自信がないんだよ」
「いや、だって……こんな……ねぇ?」
「ねぇ。 って言われても……いやまて。 ここであっているみたいだ」
周囲に気配を感じる。
あかりに包まれたウルフたちとは対照に、暗闇に潜むソレたちは、怪しげな眼光でこちらを伺っていた。
「……私の姉妹達です。 普段は姉妹仲は良い方なんですが」
「へぇ。 それは良い。 話し合いで解決できそうってことだよな?」
ウルフはほんわかする。
もちろん、安心すると言う意味ではない。
なぜなら、もうすでに雷の槍がこちらへ飛来をしていたから。
黒球を作り出し、丁寧に受ける。
雷は、綺麗に消滅をした。
「非常時には、非情になります」
「上手いこと言ったつもりか? とんだ姉妹仲だなっ」
黒球を周囲に旋回させながら、闇より出でる者たちを警戒した。
その姿はイレブンに類似しており、幼女から年頃の女の子までよりどりみどりだった。
そのうちの1人がこちらへ訴えかけてくる。
「直ちにイレブンを置いて帰るのなら、危害は加えません。 どうしますか?」
「どうしますかって……ねぇ。 儂たちは話し合いに来ただけなんだ。 見逃してくれないかな?」
姉妹たちはそれぞれが顔を見回す。
これは好感触か。
そして、しばらくしたのちこちらに笑顔を見せた。
わかってくれたようで嬉しいよ。
「ダメですっ」
雷槍が飛んでくる。
「当然、防御成功っ!!」
黒球を盾にして全てを受け止める。
ウルフは、この姉妹達に攻撃をしたくない。
そして、姉妹達はウルフを逃すわけにはいかない。
イレブンを抱えた状態で、ウルフはどうするのか。
この時、引くという選択肢はない。
「あの……どうするつもりですか?」
イレブンが、黒盾を回転ノコギリに変化させるのを見て不安そうに言った。
姉妹達に攻撃しないで欲しいとかそういうことだろう。
「こうするのさ」
回転ノコギリで、ガラクタハウスを攻撃。
効果は抜群だ。
丈夫そうな壁に出入り口が現れる。
ただし、内装はウルフの想像していたものとは違ったが。
「ええと、これは……どういうことだ?」
敵に背を向けながら、背後からの攻撃を弾きながらウルフはイレブンにたずねた。
「マスターは、よく地下に潜伏をしています。 おそらくこれは、ハリボテかと」
「あぁーなる」
「下ネタですか?」
「なして!?」
姉妹達の攻撃を意に返さず、中に入り地下室への入り口を探す。
中は暗かったが、後ろから飛んでくるバチバチうるさいもののおかげで、明かりに困ることはなかった。
「うーん。 ありませんねぇ」
最初は姉妹達を無視する様子を、呆れ顔で見ていたイレブンだが、なれるとは怖いものである。
今では、一緒に入り口探しに勤しんでいる。
「まぁ、見つからなくても良いけどさ」
「えっと。 あぁ……それは名案ですね」
新たな黒球を作り出し、それをドリルにして床を掘る。
掘っても掘っても土ばかり。
全然全然見つからない。
「あれ。 地下じゃないんですかね?」
「いやぁ。 あってるみたいだぞ?」
やがて、鉄板が見えてきた。
やったーと言わんばかりに、ドリルの威力をあげ、鉄板を人が通れる大きさに破壊した。
その時、後ろから、人影が近づいてくる。
「マスターからの命です。 あなたがたを案内するようにと」
「……へぇ。 観念したのかな。 よろしく頼む」
「はい」
鉄板の穴から着地をして、案内に任せて進んでいく。
罠の可能性もあったが、ウルフはそれならそれで問題なしと判断した。
姉妹達の実力をみて、なんとかなるだろうと楽観的になっていた。
「この若い奴から順に後ろへ年老いていくの、背の順みたいで小学校を思い出すな」
「はい? おっしゃっている意味が」
「いや、もしかして深い意味がお有りなのかも」
「いやぁ。 ないでしょ」
意外と統率が取れていないなぁとウルフは思った。




