決着
「ジロちゃん。 知ってるのか? レビルスを」
「知っているも何も……ここ6番街のナンバー2の男だ」
「ナンバー2だって? なんだって身内がこんなことを」
「分からん。 だけど、あの男は自分の損になることは絶対にしない。 何か考えがあるのだろうが」
正邪はピエールを睨みつける。
「おいおい。 我はこれしか話せないと言ったはずだろう?」
「それを聞いて生死を定めるのはこちらだってもう話したよな?」
両者が睨み合う。
まだ、奥の手を残す2人が放つ重圧は景色さえも歪めてしまう。
グニャリ。
世界が反転しまた、一周して戻ってくる。
その頃には観念したのだろうか、ピエールがため息をついて口を開いた。
「依頼の内容は、護衛と陽動だ。 ジャンジロの目をこちらに引いて欲しいだそうだ。 ウルフ君を襲ったのは別件だが……」
「だが?」
「そちらはトップシークレットだ。 ここは引けない一線だよ」
大臣に関わることだろうが。
まぁいいだろう。
「イレブンはどこにいる? それを話せばその秘密を暴くことはしないでやろう」
眠っているウルフの手前聞かないわけにはいかない。
そろそろ起きるはずなのだが。
「それは……我としては言っても構わないのだが……」
歯切れが悪いな……契約内容に背くってことだろうか。
ジャンジロが立ち上がり、服の砂を払ってピエールの袖をつかんだ。
「なぁ一つ聞かせてくれ。 なぁに簡単なことで、お互いに利益のあることだ」
ジャンジロはニヤリと笑う。
言葉を続ける。
その質問はその場にいる全員が笑うに十分な内容だった。
「契約金はいくらだ?」
ジャンジロは虚空からたくさんのダラーを取り出す。
「ははっ。 ははは。 そうだね。 一万ほどもらっているが……君も同額で構わないよ」
傭兵家業だけあって、とても話のわかるやつだ。
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「へへへ。 本当にいい女だぜ。 これがアンドロイドだって? あればいくらになるかなぁ。 元が取れるかなぁ」
寒く、暗いその狭き部屋に下卑た笑いが響く。
遠くでピチャリ、ピチャリと雫の落ちる音がする。
冷気に包まれたそこにイレブンは捕らえられていた。
「あなたの目的はなんですか? 私を捉えてどうするつもりなんです?」
イレブンは純粋に疑問をぶつける。
そして、その肌でその男の力を感じる。
「目的? ただ、儲かる方に着く。 それがジャンジロから、タッチに変わっただけだ。 って、何を話してるんだろうな俺は」
「……タッチ? なんでもいいのですが。 さっさとこれを解いて放してくれませんか?」
「馬鹿め!! おっと、顔はまずいよな。 危ない、危ない」
手に持ったムチを振り回し、周囲で炸裂音を響かせる。
イレブンの視線が揺れ、一点で止まった後、またレビルスの方に戻る。
「私はあなたには屈しません。 ただ、一つ聞かせてください。 裏切りなど行って、心は痛まないのですか?」
「心が痛むぅー? あるかそんなこと。 いいか? 俺は金が好きなんだ。 あの女の下にいればがっぽがっぽとはいると思ったのに……くそ。 あの女。 ええい、顔は勘弁してやるよー!!」
ムチが振られ、それがイレブンに向けられる。
バシリ、ムチがギリギリのところで止まった。
何が起きたのか、イレブンは一度閉じた目を開き様子を伺う。
「そんな理由で、イレブンをさらったのか……許せないし、許さない」
ウルフが、レビルスの腕を掴む。
そのことに、レビルスは顔を歪め、振り払おうとする。
が、振り払えない。
「こいつ、なんて握力だよ。 いや、そんなことより、おい、イプシロン!! テメェ何裏切ったんだよ」
「レビルス君。 残念だが我はさらに高い額を貰ってしまってね。 君だって文句はいえまい?」
「くそっ。 もういい。 テメェなんかに頼らねえ」
カツカツカツ。
ジャンジロがこちらに歩み寄る。
「レビルス、私が何を言いたいかわかるな?」
「はっ、ジローちゃん様様じゃねえか? この俺に言いたいこと? わかりませんねぇ」
ジャンジロがレビルスを殴った。
レビルスの身体は浮き、飛んでいく。
「貴様は、破門だ。 このまま殴られつづけ消えてしまえ」
「ひひひ。 ひひひひひっ!! 貴様は何をしたかことの重要性に気がついているのか? これを見やがれ」
レビルスの手には証明書が握られている。
それは王国の騎士団員の証明証。
そして、一個師団を率いることの王からの許可証であった。
「どういうことだ? このゲスがそんな地位にいるはずが……」
ウルフがそういうと、ジャンジロが言葉を返す。
「おそらく、鉄砲玉というやつだろう。 こいつを揉め事の火種にして、スラムを襲うきっかけにでもするんだろうな」
「おら、許して欲しかったら金を払えよ。 1発500ダラーだ。 だしなー? だしなぁぁあああっ!!」
こいつ、王国を後ろ盾に……なんて卑怯なやつ。
儂たちが手を出さないのをいいことに好き勝手言いやがって。
ジャンジロが拳を握りながら、歩いていく。
カツカツカツ。
「ジロちゃん。 やめろ、もうこいつを殺しても、この事は王国に伝わっているだろう」
そして、ジャンジロがレビルスの目の前に立った時、その拳が開かれた。
一万ダラー。 それがばらまかれる。
「え? なに……なに? これは」
「これで……計20発。 残り19回流れるわけだな?」
再び拳が握られる頃には、レビルスはその意味に気がつく。
「たった20発で……一万。 いいぜ。 やらせてやるよ!! やってみろよ!!」
「いい度胸だ。 人様に迷惑かけやがって。 大事な大事なお客様だぞ!!」
拳は振り抜かれる。
ゆっくりと意識が飛び。
即座に意識が戻されたレビルスは顔を大きく腫らしながら言った。
「ん? なんだ……よ。 もう終わったのか? じゃあ……俺は帰る……から」
ガシリ、ジャンジロがレビルスの肩を掴む。
「何言ってんだ? 1発で気絶しやがって。 後18発だよ」
レビルスの顔が青ざめていく。
殴られるたび身体が大きく後方に飛んでいく。
殴られるたび、顔が大きく変形していく。
その目には、涙が流れていた。
もうやめてください。
そう呟くがそれが終わる事はなかった。
そして、20発に到達する。
レビルスは意識を朦朧と保ちながら、地に散らばった金を拾い集める。
「はぁはぁ。 もう、いいんだよな? 案外……ちょろかったぜ。 儲けた……ぜ」
「そうだな。 私と同じで、金儲けが好きだっけな。 ほら、これを受け取れよ」
その手にさらに一万ダラーが受け渡される。
レビルスの顔は血の気が引いていき、真っ青になる。
「ひぃ。 ひぃーーー。 やだよー」
レビルスはその金を握り締めながら、走って逃げていった。
そして、拘束の解除を済ませたウルフとイレブンのもとにジャンジロが向かう。
「身内が、申し訳ありませんでした」
深々と下げられた頭は信念を感じた。
あれだけ、金の好きなジャンジロが、それだけの損をしながらとったけじめり
その意味はとても重い。
「いや、イレブンが無事でよかった。 それより、儂が、不甲斐ないばかりにだいぶ施設が壊れてしまったな」
「いや、それについても私の責任だ。 今日はもう遅い、ホテルはサービスするから泊まっていってくれ」
「……悪いな」
「それはこちらのセリフだ」
お化け屋敷から出るともうすっかりと暗くなっていった。
ピエールは連絡先を残すと歩いて帰っていく。
ジャンジロは、指揮をとりながら、施設の修復を行なっていった。
「じゃあ、いこうか」
「ええ。 あの、ご心配をおかけしました」
「いや、こちらこそすまなかった」
2人は、ホテルへと入っていった




