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0日目 黒金

 目前の血を拭うと、続く血が溢れることはなかった。

 アドレナリンの止血作用……だけではない。

 カマイタチは切り口が特殊で、出血は不思議と少ないらしい。


「見た目より……ダメージは薄いかな」


「ふーむ。 やるねぇ。 いや、本当に」


 姿を晒し、余裕そうに呟く。

 その姿がウルフの神経を逆なでする。


「お前、倒してやる。 絶対許してやらないからな」


 両手に、太刀と脇差を持つ。

 黒球で作られた長さの違うそれぞれは、人を殺すことを念頭に作られている。

 刀そのものから、殺意があふれていた。


「怖いなぁ。 怒らないでくれよ。 もっとも、本当に怒っているのなら既に君の体は横たわっているんだろうがね」


 否、ウルフは本当に怒っていた。

 ただし、身を流れる血液を沸騰させながら、頭は冷静に保つ。


 どれだけ時を緩めても、攻撃が飛んで見える。

 奴の能力は一体なんなんだ。

 頬を伝う汗が、雫となり滴り落ちる。

 ぽちゃん。

 それが地につき音色を響かせた。


 その瞬間、周囲をカマイタチに囲まれた。


「くそっ。 こっちからだろ」


 自身に届く順番を見極め、撃ち落としていく。

 一つ、また一つとそれを撃ち落として、全てが落ちた。


 パチパチ、男は拍手をする。


「おめでとう。 満足しただろう……さようなら」


 今までとは比にならないほどの大きなカマイタチ。

 まるで死神のそれを思わせる鎌は、首へと突き立てられる。


 そしてぬるりと、それは動きだす。

 背中に圧を感じる。

 衝撃とともに、体が前に出される。

 そこへ、目標を失ったカマイタチが空を切った。


「これは貸しか? それとも……サービスしてくれるのか?」


 緑一色の全身コーデ。

 麻雀なら役満だな。

 大逆転の予感が見える。

 それだけ、その姿は希望的だった。


「アホ。 サービスにだって金が必要な世の中なのよさ」


「ふふむ。 時間をかけすぎたかな。 まぁ、あまり状況は変わらないけどね」


 ウルフは立ち上がりながらたちを払う。

 その表情には心なしか余裕が生まれていた。


「ジロちゃん。 あいつ……」


 言いかけたが、ジロちゃんがしーっ、と指を口に当てる。


「さーて、うちの園でよくも暴れてくれたじゃない。 諸々含めて全部吐かせて身ぐるみ剥いでやるから」


 ジロちゃんの開かれた右手から大きなコインが溢れる。

 左手からもガンガン溢れる。

 それをまるで翼のように展開して、一気に振る。


「オー。 これは……いけませんね」


 男は、やや焦ったような顔をする。

 周囲にはジロちゃん親衛隊の方々が集まっていた。

 各々が叫び声をあげる。

 その叫び声に合わせて、コインの翼は男を囲んだ。

 コインが弾け、散らばる。


「これを避けられたならー、そいつは化けもんですわ」


「ははっ、さすがは町長……だな」


「あったりまえでしょ」


 お互いの顔を合わせ、掛け合った後、周囲を見渡す。

 すると、妙なことがあった。

 帽子を肩にかける男性、ライターだけ用意して、タバコを失った女性。

 そして、何より、まるでコインの衝撃を受けたかのように倒れている男性の姿を。


「ブラボーだ。 我もここまで追い詰められるとは思っても見なかった」


 背後から男の声がする。

 その声はややドスが効いていて、今までの余裕は失われている。


「まだまだ余裕そうじゃない。 でも、お前はまだ私の攻撃範囲にいるっ!!」


 回転するコインが空間に生まれる。

 そのコインをぶつけ合い、不規則な乱反射が男を襲った。


「もうサービスは終わりだ。 それが我に触れることはかなわないよ」


 瞬間移動を繰り返しながらそれを避け周囲をかけ続ける。

 乱反射は未だ続き、男を狙い続けるがそれは一向に当たる気配を見せない。


「ちょっとあんたも見てないで、手伝いなさいよ」


 尻を軽く蹴られてハッとする。

 正直見とれていた。

 黒球を展開して……いやまてよ。


「謝罪ついでに面白いこと考えた。 付き合ってくれるか?」


「ふふん。 それでいいのよ。 それで」


 黒球が薄く円状になる。

 そう、まるでコインのように。

 非破壊のそのコインは同じように回転を始めお互いをぶつけあった。


「数ばかり増えても……変わらないだろう」


 男はそう呟きながら攻撃を避け続ける。

 この攻撃は見てから避けられる。

 だが……見えていなければ。


 乱反射は、ある程度の規則を見つける。

 必ず通るその軌跡に必ず同じ体勢で男は避ける。

 そこに、特殊な球を合わせてやる。

 反射をずらし死角からコインを放つ。


 金と、黒のコインは背後からその首にめがけて飛んで行った


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