表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/49

0日目 ジャパニーズブレード

 幽霊とか、妖怪だとか、そういったものにはあまり良い印象はない。

 なぜなら、それらは善きものでも、悪しきものでも、儂たちにとって敵にしかならない。

 善意も悪意もすべて、身体を貫くナイフのような。

 筋肉を通り神経に響かせるハンマーのような。


 それらは、たとえどういった意味であれ儂らをいためつけようとする、明確な敵意に他ならない。

 そして、そんな奴らの巣窟。

 そう、お化け屋敷。


 おそらく、そこで、儂の大切なものが奪われてしまった。


「迷子である。 困った」


 イレブンの姿が見当たらない。

 どちらが迷子なのか、それすら見当がつかない。

 お化け屋敷に入るまでは一緒だった記憶がある。

 そして、そこから出た時にはもういなかった。


 念のため、お化け屋敷も何周もする。

 何度も同じ仕掛けを見るともう怖くない。

 嘘である。

 怖い。


 だが、イレブンはいない。

 そのことはなによりも怖い。

 足場がなくなったように感じる。

 意識していないとその場に崩れ落ちそうだ。


「まだだ。 まだ絶望するには早い」


 ウルフは初めて手に入れた繋がりが。

 正邪には、二度と失うことが。

 それらが望みを絶つこととなる。


 喉がからい。

 視線が泳ぐ。

 どこにも、いない。


 ふと、背中に感触が現れる。

 イレブンであることを願いながら振り向く。

 しかし、そこにいたのは期待していた人物ではなかった。


「……お前は誰だ」


 抜き身の日本刀。

 それもなかなかの業物。


 一目でそれだけの狂気を感じさせる。

 齢は30前後に見えるが、凛としたその態度はそれ以上の圧を放つ。


 それが出す質問にどう答えたものか、少し悩む。

 そもそも質問が不躾であり、今を急ぐウルフには答える必要がない。

 放っておきたいが、そうもいかない理由があった。


「冗談のつもりならこのまま回れ右してサムライの国に帰れ」


 その男が放つのは殺気。

 そして、差し出された右手にはイレブンの羽織る上着があった。


「悪いが我は冗談なぞ知らん。 だが、サムライはわかったぞ。 ふふふ、わかるかこのファッションが」


 ガチャリ。


 銃を抜いて、突きつける。

 その瞬間、その銃が二つに割れた。

 気がつけば、奴の右手が腰の刀に添えられている。


「居合か。 見事だが」


 黒球が、奴の背後から詰め寄る。


 ーーとった。


 そう思った瞬間、男の身体を黒球がすり抜けウルフに向かった。

 瞳の前、すんでのところでとまった。

 黒球の、トゲ。

 シーアーチン、いや、シーアターだったか。

 とにかく、ウニを彷彿とさせるその攻撃は触れたものなら万物問わず破壊する。


 だが、まっすぐ最短距離をはしるそれがウルフに向かってきた。

 おそらく、すり抜けだろうか。

 あるいは幻覚。


 なんにせよ、放つ圧は伊達ではなさそうだ。


「これはこれは、危険なことをする。 危ないですね。 ウルフ……さん」


「……名前をたずねておいてもう知ってますとは、舐めてるとしか思えない。 まぁいい。 知ってることを話せば二択で選ばせてやる」


「おう。 二択? なんの」


「天国か……地獄かだ」


 大量のウニボールを召喚し周囲を包囲する。

 とりあえずは、こいつの力の正体を見極めなければならない。

 あいも変わらずその攻撃はすり抜ける。


 だが、殺気はそこからしか感じない。

 確実にそこに居る。


「その二択……どっちみち死ぬですよね? 意味ありますか?」


「阿呆め。 地獄なら鬼に会えるだろうが」


 向こうからの攻撃は来ない。

 だが、このままでは魔力は尽きる。

 気がかりは、イレブンの上着さえすり抜けることだった。

 ホログラムか、あるいは……。


「鬼……!! いいですね。 ジャパニーズオーガ。 あってみたいです」


 だが、とりあえずここであっては一つしかない。


「日本が好きなんだな。 なら、三十六計……その後は何か知ってるか?」


「あー。 それは、逃げるに如かず……もう逃げましたか。 早いですね」


 一時撤退だった。

 向こうはこっちのことを知っていて、こちらは向こうのことを知らない。

 孫子も言っている。

 敵を知り、己を知れば百戦不敗の態勢に入ると。


 だから、これは勇気の撤退だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ