0日目 ジロちゃん
コンコンコン。
コンコンコン。
コッコッコッコッコッコッコンっ!!
三三七拍子。
前世の世界にあった、日本のノックのマナーだ。
当然、嘘だが。
仮にマナーだとしても、別段守る気もない。
「入るぞ?」
返事はないため、確認をとって中に入る。
もっともつぶやくような声のため、中に聞こえてはいないだろうが。
中に入ると、二つの視線がこちらに集まる。
片方は説教をまだされていたのだろう正座で。
もう片方は……よほど熱狂したのだろうまるで星座のようだった。
「なに? ウルフ。 まだこっちは終わってないんだけど」
黄金聖闘士のようなポーズを崩すことなく、声にドスが効かせてくる。
「イレブンを借りたいんだが」
とりあえず、ストレートに要求を伝える。
それに、サテンがどう答えるか。
今はそれが重要だ。
「いま、そういう状況に見える?」
なんか、怒り方おかしくないだろうか。
え、なんか動揺してに言葉がおかしくなってるかん。
……落ち着こう。 とりあえずこの状況、とてもじゃないが話を聞いてくれそうもないな。
だったら、取る行動はひとつか。
「イレブン。 舌噛まないように黙ってろっ!!」
「え、ふわぁ。 はっはぃぃいいいっ」
しょかつ、お姫様抱っこ。
イレブンを抱え、窓へと足をかける。
「ちょっとウルフ。 まだ説教は終わってないのよ?」
「そもそも始めたことが間違いなんだよ」
そして、勇気を持ってその一歩を踏み込んだ。
重力に任せ、身体が落下していく。
高速で落下するとたとえ柔らかい海面でも、壁のように固く抵抗を受けるという。
それが、地面で、土である。
つまり地球に体当たりを食らう。
おぉ、こわいこわい。
ひとたまりもないだろう。
なら、どうするか。
黒球を起動。 空を蹴って進んでいく。
音の壁をも超えることができるが……必要はないだろう。
「はぁー、空も飛べるようになるなんてね。 お母さん嬉しいやら、悲しいやら」
サテンはやれやれと言わんばかりに、肩を落とした。
「あの……ワケを説明してもらってもいいですか?」
サテンの捜索範囲外に逃れたあたりで、彼女は口を開いた。
ワケはどこまで説明してもいいんだろうか。
顔をしかめる。
「お前のことが好きだったんだよ」
「ええっ!! えっと、説明になっていないと思うんですけど」
ダメか……いや、いいワケないが。
言い訳もない。
「お前とデートがしたくなった。 ダメか?」
真剣な眼差し。
見つめられた女は、目をそらさずにはいられない。
イレブンとて、例外ではなかった。
「ええと、いいですけど……どこに向かってるんですか?」
「6番街。 なんと遊園地があるんだぞ」
「へぇ。 それはすごいですね。 楽しみです」
ふふふ。
と、笑いながら答えた。
本心か、社交辞令か。
本心なら、嬉しいが。
「遊園地は好きか?」
「えーと。 行ったことがないので……」
「そっか。 そうだよな。 これから、嫌というほど遊べるからな」
「そうですね。 あの、ジェットコースターでしたっけ。 あれが楽しみですね」
「…………」
「どうしました?」
「いや、あそこの絶叫マシンは、ちょっとハイレベルだから楽しみにしておくといいよ」
「……? はいっ!!」
遠くに、観覧車や空でアーチを描くレール。
そして、近づくにつれ、他の施設も見えてくる。
楽しげなBGM。 スポットライトから出る光。
それらは、2人の心を高揚させた。
「あー、えっと。 あっちかな」
ゆっくりと降り立って、入り口を探す。
柵に合わせて外周を回ると、ほどなくしてからゲートを見つけた。
そこには、できれば会いたくなかった人間がいたように見える。
「まいどありー。 ほらほら、置いといてな」
ジャンジロ。
通称ジローちゃん。
緑の髪、緑の服。 そして、黄色の瞳。
グリーンモンスター。
「やぁ、ジロちゃん。 今日も可愛いね。 結婚してくれ」
「10年遅い」
何を隠そう。
彼女はショタコンだった。
ただ、彼女いわく。
むけてなければウェルカムだぜ? ん。 ソーセージの話。
らしいので、みんなも挑戦してみるといい。
さて、どうして彼女に会いたくないのかというと。
「ほーら。 早くはらうものだーしーてー」
右手の人差し指と親指をつける。 輪っかとなる。
左手は差し出す。
金をよこせ。
という意味だ。
「金の亡者め」
「わるぐち言いながらでも、出すものだす人は好きだよ?」
208ダラー。
日本円に直すと約332.8円。
2人にしても約700円と、適正値段ではある。
「じゃあ2人分払っただろ。 行こうか、イレブン」
「確かにもらったからね。 楽しんでいって」
ここの遊園地は、フリーパスのみの方式になっていて、チケットを買えば乗り物には好きなだけ乗れる。
……乗り物には。
じゃあ行くか。
と、とを差し出す。
右手に左手を重ね、2人で遊園地の中へ侵入した。




