0日目 条件
結局あの後、サテンからの許しをこうのに時間が経過した。
はじめは、怒りが嫉妬心からくるものだと思い、サテンにもキスを行う事で許してもらおうと思ったが、それでは怒りが収まらなかった。
「あんたまだ未成年なのになんてことを。 あんなことしちゃダメ」
とか。
「そういうのは人前でやったりしないの。 相手のことも考えなさい」
とか、まるで母親から怒られているようだった。
怖かったけど、安心した。
そうあるのが当たり前のように、そうあり続けて欲しいと思った。
一時期バブみという言葉が流行っていたらしい。
ウルフは、あろうかとか、目の前の幼女に母性を感じていた。
その後、ウルフよりも長く怒られるイレブンも、同じ気持ちを味わったのだろうか。
そんなことを考えながら、たどり着く。
迎え入れられる。
「やぁ。 久しぶりじゃのう。 ウルフよ」
乱雑に茶菓子を放り、適当な二番茶を入れてくれる。
こういうところに、性格って出るんだろうな。
ウルフは、ある女性を頭に浮かべがら、目の前のおっさんと比較していた。
「たった1日だろう。 で、エド。 イレブンの件はどうなった?」
茶をすすりながら、菓子の袋を片手で器用に開ける。
その間に、エドから白いラインが現れ、ウルフに接続された。
刺されたからといって、別段何もない。
それが、頭の中を覗くだけのものだと知っていたから。
「ほほう。 ほうほう。 まぁ合格点じゃな」
「あれだけ頑張ってそれかよ」
「とりあえず悪いニュースといいニュースがあるんだが……どっちからがいい?」
悪い方を後に残したくはないな。
「悪い方からで」
「お前さんがイレブンを救うことができる確率は1%にも満たないだろう」
「……とりあえず、良い方もどうぞ」
「もう1人の方の協力があれば、五分五分まで引き上がる」
もう1人の方……か。
その言葉を聞いた時、ウルフの顔が歪む。
「頼りたくない」
切実だった。
正邪を受け入れれば、受け入れるほど自分が歪んでいくように感じる。
「なら、どうする? あの子は諦めるか?」
「諦める……わけにもいかないが。 そもそも、正邪が大人しく協力してくれるとは思えない」
「お前さん、勘違いしてるようだな。 そいつは、お前さんに協力しようとしてくれてるぞ」
「どういう意味だ?」
「最近、急に性欲が強くなったりしなかったか?」
ウルフはふと視線を逸らした。
「ノーコメントで頼む」
「恥ずかしがることはない。 それは、そいつがやってることだ。 そして、お前さんたちはある力を共有している」
「……これか」
黒い球をいくつか召喚し、くるくると回転させる。
「それもだが……もう一つの力についてだ」
ウルフは怪訝な表情を浮かべた。
「もう一つ? なんの話だ」
「もう1人に聞いてくれ。 その球は、間違いなく、お前さんの力だよ。 だが、もう一つの力の持ち主は、そいつだから」
ーーだとよ。 なんの話か教えてくれよ。
ーーーー鍵ハモウ刺シタ。 後ハ、ウルフ次第ダ。
ーーあっそ。
「カギはもう刺さってるだってよ。 後はひねるだけらしい」
ティーカップを口元へと運ぶ。
視線をエドにやると、形容しがたい表情でこちらを見ていた。
「お前さん……やるねぇ」
「……儂が何をやったって?」
「いやね。 ワシはお前さんの王国出発までしか覗いてないんだ。 だから、驚いてることは、その後の話ってことになるだろう?」
「つまり?」
「まさかその短時間にイレブンに手を出すとは思っても見なかった」
茶を、ジャスミンティを噴き出す。
エドにクリーンヒットして、びしょびしょのおっさんの出来上がり。
「……なんでバレたんだよ」
「カギってそういうことだろ? 鍵穴に……男の印を指してっていう」
「この変態くそおやじが。 ……まぁいい。 それで、準備はこれでいいってことか?」
「まぁ、準備は……な。 まだ、条件は揃ってないから動けないが」
「条件?」
「とりあえず、カギを開けないとならんな。 幸い、作戦は明日決行じゃろう。 ほら、イレブンとデート行ってこい」
エドが金を投げ渡す。
それを受け取りながら聞き返す。
「デート? なんの? ……なんで?」
手が差しのばされる。
「一体なんのつもりだ?」
「聞きたいんじゃろ? ほら、金」
「もう聞かん」
どすどすと足音を立てながら退席をした。
目一杯ドアを閉め、その音はアジト中に響いた。
デートに誘うね。
それはいいが……まだ、サテンの説教中だろうか。
まぁ、向かってみるか。
イレブンの元に。




