第1章 絶望のウォーキングデッド 一編 初依頼受注
連れられてきたのはこの街にはそぐわない立派な建物だった。
記憶によればこの建物を外から見かける機会は多かったようだが、中に入るのは始めてだった。
内装は洋式の外装からは想像できない作りをしていた。
一言で表すならば忍者屋敷だろうか。
壁は回り、畳を剥がして誘導されたそこに儂はたどり着いた。
「座ってくれたまえ」
大佐がそういうと全員が席に着いた。
といっても下っ端2人は途中離れていったので4人しかこの場にはいないが……4人?
自然とその場に溶け込んでいた少女に目が移る。
透き通るような白い長髪を後ろで束ね、蒼い大きな瞳は怯えるように震わせながらこちらを伺っていた。
さて、大佐の用件から済ませるか、この少女についてからか……いや、まずは。
「まずは食事がしたい。 用意してくれるか?」
「育ち盛りだな。 待っていてくれたまえ」
ふとした瞬間机上には皿が現れ、スライムが盛り付けられていった。
手を合わせ、挨拶を済ませてからそれを口に運ぶ。
主食とするには甘すぎるが、おやつにはちょうどいいといった感じだ。
うん?
「お前も、腹が減っているのか?」
食事中少女と何度か目があった。
物欲しそうな目といった感想を得たため、そう言葉を放つ。
「えっと、私もお腹が空いちゃって」
「しゃーねーな。 ほら大佐、もいっこ皿出してくれ」
「こら、クソガキ。 大佐をアゴで使うな!!」
「はっはっは、構わんよ。 さて、そろそろ自己紹介と行かないか?」
「大佐が良いというのなら」
少女の前には皿とスライムが盛り付けられた。 スライムだけでなく何輪かの造形の花が添えられる。
まぁ食えないなら興味はないな。
で、自己紹介だって? そういえば儂は……まぁいいか。
「では、私から行くぞ!! 私はロムスカ。 大佐と呼んでくれれば齟齬は出ないぞ」
金髪、サングラス、スーツ。 長身であるが見た目から得られる情報は少なそうだ。
「わしの名前は、エド。 8番街の長だ。 ちなみに大佐はスラム全体の1番偉い人だ。 敬意を払えよガキども」
2人の自己紹介が終わり、自分の番を察した。
困ったな、さて、どうなのったものか。
と、口を開こうとすると大佐がそれを遮る。
「彼の名前は一匹オオカミだからな。 ウルフだ!! 覚えておいてくれたまえ」
どうやら、わしの名前はウルフらしいな。
「まぁいい名前なんじゃないか。 ウルフですよろしくだ」
ちょうどスライムを食べ終わった少女が口を開く。
「えぇ〜、そんな適当でいいの? 本名とか教えてよ」
「本名はねぇよ」
「あっ」
地雷を踏んでしまった。 みたいな顔をしながら申し訳なさそうなこちらを見ている。
構わないから素性を明かして欲しいのだが。
「えっと、ごめんなさい」
「いや、かまわない。 それより、名前を教えてくれないか?」
「最近のガキどもはませてるな」
「暖かく見守ろうじゃないか」
ええい、外野が鬱陶しい。
「えと、その、私の名前はサテンです。 ご飯ありがとうございます」
各々が自己紹介を終えると、大佐が口を開いた。
「さて、本日君たちに集まっていただいたのは他でもない。 我々スラム族の戦力を補強することが目的なのさ」
「儂たちにそのスラム族に所属しろという話か?」
「そうだ。 話が早いじゃないか」
どうなんだろうか。 所属することで得られるメリットが上か縛られるデメリットが上か……という話だろう。
ちらりとサテンに目をやると、訳がわからないとこちらに助けを求めるように目線を送っていた。
「そのスラム族ってのは何をする組織なんだ?」
「スラム間で助け合いをすることが目的さ。 技術を教えあったり、食料を分け合ったりとな」
良いところだけを紹介する。 詐欺師の手口だな。
「所属するデメリットを教えてくれ」
「ない。 と私は思っている。 命令や依頼はあるがそぐわなければ無視をすればいい。 そうじゃないか?」
確かにそうだ……どのみち最後には裏切ればいいか。
「わかった。 それで、儂たちに何をやらせたいんだ?」
「本当に話が早いな……サテン君。 君もそれでかまわないかね?」
「え!? えっと、ウルフ君が入るなら構わない? です」
緊張でもしているのだろうか。 サテンはもともと白い肌を赤く染めながら答えた。
「さて、今回の依頼なのだが」
ーー内容を要約するとこうだった。
最近スラムで、死体が動いているのが目撃されている。
死体は人を襲い、被害は少しずつだか増えてきている。
8番街周辺でのみ被害が出ていることから今回の依頼となった。
原因を探し出し、早急に食い止めて欲しい。
「今回は君たちに加え、エドも付いてくれる。 さて、やってくれるかね?」
「は、はい。 やります」
サテンが意気揚々と答える。
「君はどうかね」
「断る選択肢はないんだろ? 報酬はどうなんだ」
ふっふっふ。 と大佐が笑みを浮かべた。
「エドも付くからな。 簡単な依頼となるだろうが。 パーティの準備をしておくから、うまいものも出るぞ?」
「なるほどな。 十分だ。 やろう」
「良い返事だ。そうそう、目撃者は皆ラッパの音色が聞こえたと言っている。 参考にしてくれたまえ」
ラッパの音色? 全員というなら、おそらく何か関係があるのだろう。 捜査は五感を使うというが……音にも気をつけたほうがよさそうだ。
「さて、怪しい場所には目星がついてる……行くぞ。 付いて来い」
「まて、エド。 こういうのは目撃者に話を聞くのが先じゃないのか?」
「大佐が熱心に聞いてくれてな。 先ほど以上の情報は期待ができないぞ」
そういうものか? とも思うが。
「サテン、お前はどう思う?」
「ふぇ? わ、私は。 場所に目星がついてるならそこを先にしても良いと思うな」
選択肢は2つだが……初任務、こちらは子供が2人か。
「わかった。 行くとするか」
そういうと、エドが先導し先ほどの道を戻って行く。
何度通っても覚えられそうもないな。 はぐれないようにしなければと、儂は思った。
前方から見覚えのある顔が近づいてくる。
銃を突きつけてきた2人……か。
「おう、仲間になったんだって? さっきは悪かったな」
ほう、どうやら気さくな奴らしい。
「いや、こちらこそ手加減が効かなくてな。 苦しかっただろう?」
「いやいや、あれ演技だから!! おい、なぎさ。 お前何笑ってる」
「いや、お前のだらしなく落ちてた顔が……くふっ」
「くそ、笑ってられるのも今のうちだぞ。 今に見てやがれ……おいウルフ!! 言っておくが俺が先輩だからな? 敬意を払いやがれよ」
「こんな子供に先輩風……くふふっ」
賑やかだな。 後ろではもう1人笑っている少女もいるし……さて、エドに怒られる前に追いかけるか。
「それじゃあ、また宜しく頼むぞ。 先輩方……行こうサテン!」
「う、うん」
儂はサテンの手を引いてエドを追いかけっていった。
サテンの手は少し暖かかった。