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第2章 アンドロイドは英国の夢を見るか 7編 スコルピオ

 この世界では生身で音速を超える人間は限られている。

 音の壁を超える身体を人は持たないからだ。

 だか、もし……もしも、それが超えることができたなら。


 ーーひとりの狼は、音の壁を乗り越えて、ひとりの少女を助けようと進んでいく。


 ウルフは、完全に頭に血が上っていた。

 高速で移り行く周囲の景色など目にも入っていなかった。


 普通は頭に血がのぼるといえばマイナスにとられがちだろう。

 事実、ウルフには周りが見えていない。

 見ようとさえ思っていない。

 罠でもあればイチコロだ。


 だが、それは怒りによって冷静さをかくという副次的なものに過ぎない。

 もし、そのまま冷静になれば……利点だけを得られれば……


 高速で動く中は、摩擦により熱が集まる。

 だが、今はその摩擦がない。

 熱は逆に奪われる。

 頭が冷える。

 その結果。


 ーーなんだこれ。


 周りがゆっくりになっていく。


 気持ちいい。


 詳しくはアインシュタインの光重力理論に習うことだ。

 物質は光の速度に近づかほど、通常の時間軸とずれ周囲が遅くなる。


 ウルフは、それを体験していた。

 勿論、光に近づくほどエネルギーは必要となる。

 勿論、上記を再現しながら思考するだけの知能が必要となる。


 だが、それらを持ったウルフには遅延する時間軸に住むことが許された。


 もはや、マッハ1で動く装甲車などウルフの機動力の前には止まっているに等しい。

 簡単に追いつき装甲を破壊して手を伸ばす。


「こいよ。 シンプウ」


 少女はその伸ばされた手を掴み微笑んだ。


「謹んでお受けいたします」


 中を確認すると、他にも捕らえられた人たちがいるのが見える。

 その中に、敵はいないようだ。


 いくつかある荷台から切り離して黒球で囲う。

 さしずめ黒棺だ。

 それをゆっくりと地に下ろして施錠を、手枷を破壊する。

 その間に車は街の方向にと逃げていく。


 ありがとうございます。


 そう答えながら少女たちが群がってくる。


「いや、礼はいらないぜ。 それより待っててくれな。 ちょっと懲らしめてくる」


「いくの?」


 シンプウが心配そうにこちらを伺う。


「ああ。 許せねえから、許さない。 待っててくれ」


 すぐさまそこから飛び出して、車の影を追う。


 すーぐに追いつくことができ、車は川の付近で装甲を止めた。


「観念したのか? だったら死ね」


 ウルフがそういうと車から数十人が降りてくる。

 雰囲気だけなら、強そうな奴らだ。


「なぁ、悪かったと思ってるよ。 許してくれ」


 サソリがそう言って地に手を、頭をつける。


「そう謝るな、頭を下げら必要はない」


「な、なら」


「初めから許すつもりなど毛頭ないからな」


 そう言った瞬間。

 サソリは舌打ちを上げながら右手を街へと振った。

 車からバイクに乗ったパールが勢いよく飛び出し街へと向かう。


 それを許さんとウルフは動くが周囲の男たちに妨害を受ける。


 ひとり、またひとりと拳でなぎ払いながらバイクへと目を向けるが、それは、かなりの距離を進んでいた。


「お前ら、もういいから逃げろ。 こいつの目的は俺様だろう。 なら、何の問題もねぇ」


 で、でもお頭ぁ。


 うるせぇ。 行かねえ奴らは俺が殺すぜ?


 と、サソリがいうと男たちは涙を流しながら車に乗り込み逃げていく。


「そのカリスマはさすがと言わざるをえんな」


 ウルフは感心したかのように言う。


「意外だな。 本当に行かせてくれるのか」


「よく考えれば、頭を殺せばいいかと思ってな。 あいつらは、儂が手を出すまでもない」


「ふっふふふ。 殺せるかぁー? この俺様をっ!!」


 男たちはかまえる。

 死闘が始まる音がした。


 まずは、相手を観察する。

 武器は何も持っていないようだ……が、なぜかもうすでに左腕から出血が見られた。


「来ないのかぁ? なら行かせてもらうぞっ!!」


 サソリは先手必勝と言わんばかりに距離を詰める。

 そして、叫び声をあげ攻撃を仕掛ける。


「なぁにが、言わんばかり……だ!! 先手必勝と叫ばせてもらおぉぉおう!!」


「何の話……だっ」


 サソリは手刀を振ることで攻撃してくる。

 今のところ魔力は感じない。

 ウルフはそれを裁くことで、攻撃に転じる。


「やるなぁ!! 犬っこぉお」


「うるさいなぁ。 黙れよ」


 距離を取り技を選択する。

 黒槍。

 それを展開して撃つ。

 単純かつ至高の攻撃。


 だが、それを触れる前に消えた。


「おいおいおおおおい。 なさけをかけるのかぁ?」


 サソリのその言葉をあえて無視する。

 しまった。

 魔力が尽きかけてやがるな。


 ーーどうする。 正邪に分けてもらうか?


 ーーーー良イヨ。 分ケテアゲルヨ。


 ーーやっぱやだ。


 ーーーーエェ。


 こいつは自分の手で倒す。

 決意してからは早かった。

 おそらく中距離以遠には黒球は飛ばせない。


 一度は嫌った接近戦だが、仕方ない。


 ーーーー絶対罠アルヨォ。


「ほんっとに。 うるせえな」


 懐に潜り込むと、両手が左右から包まれる。

 問題ない。

 今のウルフの速度を捉えられるものなどそうはいない。

 黒槍……もとい、このサイズだと、黒トゲか。


 小さな槍を手のひらに乗せサソリの腕に当てる。

 それだけで腕は弾け飛んだ。


 だが、サソリは笑った。


「くひひ。 なぁ、どうして俺がサソリと呼ばれるか知ってるか?」


 なぜ笑っていられるのか。

 ウルフには理解できない。


「興味ない。 だから、死ね」


 黒トゲは肩口より振り下ろされ、身体を切り裂いた。


 だが、サソリは倒れなかった。


 立ち続ける。


 ゆっくりと身体を拾い。

 くっつける。


「あひゃ。 わけわかんねえって顔だな。 これだから良いねぇ。 戦闘はぁ!!」


 どう言う理屈かは知らないが。


「死なないらしいな。 お前」


 サソリが腕を拾いくっつける。


「俺は、この体にありったけの毒を入れられた。 だが死ななかった。 かつて戦場では死に嫌われた者として有名だったんだぜ? それを人体実験に使うかね? ふつー」


「お前の過去なんて興味ない」


 ウルフはちらりと川を見て、サソリに視線を戻す。


「さて、不死の俺をどう殺す? どうやって倒す?」


 魔力にそこを見せるウルフでは長期戦は不利。

 そう判断し、また距離を詰めた。

 サソリを掴みいっしょに川に飛び込む。


「ははは。 やったなこいつめぇ」


「恋人じゃねえんだからよ。 やめろや」


 川の底に向かって残る魔力で黒球をぶつける。

 そこだけ凹みができる。

 サソリを投げる。


「おい、まさか」


「水中で喋られても聞こえないな」


 凹みにサソリが打ち込まれる。

 周りが崩れサソリが埋められる。

 そして、ウルフは水中から脱出した。


「サソリは大昔から生きてるらしいな。 お前も化石ぐらいにはなれると良いな」


 濡れた体を乾かしながら、ゆっくりと少女たちがまつ回収地点を目指して歩いて行った。

最低でも2日に一度の更新を目指します。

リアルが忙しいのでおゆるしください。


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