第2章 アンドロイドは英国の夢を見るか 7編 スコルピオ
ジョーの家のベッドにイプシロンを寝かせる。
応急処置を行う。
患部を冷やしながら、体温を下げないように暖炉の火を焚く。
「うぅぅ……くぅ……」
彼女の意識は朦朧としていて、道中何度か声をかけるが返答はなかった。
薄着で、汗をかきながら頬を赤らめ喘ぐ。
その彼女の汗をタオルで拭いていると、ドタドタと騒がしい足音が近づいてきた。
「にいちゃん……これ」
ジョーが顔を青ざめながら一枚の紙を手渡してくる。
それを受け取り、書いてある文字を読む。
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拝啓、春節の候。
桜の開花に春を感じる季節となりました。
愚民の皆様もますますのご健闘をお祈りを申し上げます。
女の身柄は預かった。
こいつは我らサソリ団が有意義に扱ってやる。
光栄に思え。
もし、このことを騎士団に言ってみろ?
女の命はないと思え。
PS この文書は読んだら燃やせ。
以上
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「なんだこのヘンテコな文章は」
ウルフは、読み終えた後文書を燃やしながらジョーに尋ねる。
「サソリ団、最近この街を荒らし始めた奴らのことだよ……さっき攻撃を仕掛けてきた奴らのことさ」
あぁ、あれらのことか。
ん、まずくないか?
「ジョー、何も言わずそいつらのアジトの位置を教えてくれ」
「わかんないよ……そんなの。 姉ちゃん……」
ジョーはその目が潤む。
「泣くなよ……わかった。 ちょっと行ってくる。 こいつを頼んでもいいか?」
ジョーが頷くのを確認しながら、ウルフは立ち上がり玄関に向かおうとする。
が、腕を掴まれ止められた。
振り返ると、イプシロンが目を覚ましている。
「某も……連れて行け。 奴らは、女を性的な玩具ぐらいにしか思っていない……許せない」
その手を振り払おうとするがなかなか離れない。
弱った女の体でなんて握力だ。
「はぁ〜。 わかったよ。 ちょっと目をつむってくれ」
「……? わかった。 これでいいか?」
イプシロンは目をぎゅっと閉じる。
ウルフは、そこに手をかざす。
「お前みたいに信心深い奴、嫌いじゃねえよ」
その手で顎をかすらせる。
意識街の攻撃に、脳が揺れしばらくは目を覚まさないだろう。
「ジョー、やっぱり着いてくるか? いまな、お前の姉ちゃん少しやばい状況なんだ。 あの時イプシロンと一緒にいるところを見つかっただろう? 多分それで奴らに誤解を生んでしまった」
「でも……おいら、足手まといになるだろうし。 おいらがいても何も……」
ジョーが下を向きながら答えた。
当然だ、怖くて当たり前だろう。
「いや、いいんだ。 確かに行かない方が利口だろう。 だが……お前はそれでいいんだな?」
ジョーは答えない。
「わかった。 イプシロンを頼んだ。 儂は……行く」
玄関を出て、家を後にする。
まずは、情報収集からだな。
すっかり夜も更けて辺りは暗くなっていた。
ーー儂が奴らならどうするか。
騎士団と接触した可能性があるならば、監視の1人や2人はつけるだろう。
視線はいくつも感じる。
敵にも少しは頭の回る奴はいそうだな。
ゆっくりと無警戒に歩く。
人気の少ないところへと。
人の全くいないところへと。
街の中にちょうどいいところは見つからないため、外に出ることになったが、ちょうど瓦礫で袋小路になっているところを見つけることができた。
影がゆらりと何体も現れる。
そして、月明かりが、その姿をはっきりと見せた。
周囲は10人ほどに囲まれて、各々が銃を向けてくる。
「お前さんは一体何者なんだい? 見たところ、騎士団じゃあなさそうだが」
深く帽子をかぶった男が口を開く。
「まぁ、騎士団に追われる立場ってところだな……お前たちは?」
「俺たちはサソリ団って名乗ってるんだが。 どうだい? お前さんも入らないかい?」
「いきなり勧誘か? なかなか面白い奴だな」
「なら……」
「冗談はチーム名だけにするんだな」
突きつけられた銃が爆発をする。
黒球(非破壊) でなぎ払い敵の意識を奪う。
あとは帽子の男、こいつを倒せば。
黒球をぶつけ意識を刈り取ろうとする……が、
突如として飛んでいた火球に勢いを殺された。
ーー魔法の発動が見えなかった。
一体どういう手品だろうか。
見極めてやる。
「俺の名前はドロウ。 早打ちのドロウって言えば聞いたことあるかい?」
「ないな。 まだまだ名前売れてないんじゃないのか?」
「これでも懸賞首なんだけど……なっ!!」
男は、右拳をこちらに向けて魔法を発動する。
普通魔法って発動に時間がかかったり、クールタイムがあるものなのだが、この男からはそれが見られない。
黒球を円状にして受ける。
1.2.3……12発か。
一度に放つことができるのは12発が限界。
連射は出来ない。
クールタイムは1秒以内……か。
12点バーストのLMGのイメージか。
拳を向けた方向にのみ攻撃ができるようで見てから避けるのも距離を詰めるのも簡単そうだった。
ーー敢えて距離を詰める意味とないか。
黒球を周囲に展開して相手に向けて発する。
その瞬間、男の周囲に鏡のような光が生まれた。
「リフレクターシステム展開。 さて、その球利用させてもらおうか」
リフレクター……名前から察するに魔法を反射するのだろうか。
方向、威力を見たい。
避けるのは容易いが敢えてぶつけてみるか。
「さて、それがどれだけのものか見せてもらおうか」
ーーリフレクターと黒球が触れ合う。




