第2章 アンドロイドは英国の夢を見るか 六編 ロイヤルナイツへの憧れ
ーーさて、このガキ……どうしてくれようか。
侵入に使った穴は警戒されているだろう。
かといって、ほかの脱出路を知らない。
「おい、小僧。 この国から外に出る方法を知っているか?」
「え? どうしてそんなことを聞くんだ? まあいいけど。 壁に小さな穴があるんだ。 こっちだぜ」
「いやまて。 壁以外がいい」
おそらく、城壁外周はどこも警戒されているだろう。
場内のロッカーの数……無駄に多いところを見ると戦力は足りてると推測できる。
「えぇー。 だとしたら……そうだ!! スラムに続くゴミ穴があるんだ。 そこでもいいか?」
ゴミ穴……ダストシュートの様なものだろうか。
かなり都合がいいが……よし、それでいいか。
「それを知っているなんて、やるな小僧」
「小僧じゃないよ。 おいら、ジョーって言うんだ。 それよりさ。 教えるから、おいらもロイヤルナイツに入れておくれよ。 なぁなぁ!!」
ジョーはピョンピョンと跳ねながら騒ぐ。
おそらくこいつは、儂がロイヤルナイツに入隊できたとでも考えているんだろうが……残念だな。
かわいそうに。
「あぁいいぜ? そのかわり……「そこまでだ」
声が割り込まれる。
金属の擦れる音。
カチャカチャと甲冑を鳴らしながら1人の男が迫ってきた。
「すげえええ。 イプシロンだ。 にいちゃんの上司なのか? いいなぁ」
「いや……とりあえず逃げるぞ」
ジョーを抱えて空へ逃げる。
黒球を円盤状にし空へ固定することで、それを蹴りながら三次元に逃げる。
ーーなるほど、わかってきたぞ。
加工が自由で、破壊とは破壊が選択できる。
暴走の危険、魔力不足による不発もあるだろうが、なかなかどうして便利だな。
全身に纏えば空も飛べるだろうが……MPが足りないってところか。
「おいにいちゃんなんで逃げるんだ? おいら、イプシロンのサイン欲しかったのに」
「ほら、儂……入隊の時失礼かましてよ。 怒られるの嫌だからさ……逃げるのよさ」
我ながら適当ないいわけだな。
「ふーん。 なんでもいいけどさ。 イプシロンからは……」
言わせながら着地をする。
さて、ゴミ穴とやらに案内をしてもらおうか。
と、聞こうとしたやさき。
聞き覚えのある声が後ろからやってくる。
「そう、某からは……」
「逃げられない(ぜ)」
「なんでいる? 追いつけるはずがない」
ジョーが袖を握りながら教えてくれた。
「イプシロンは、ロイヤルナイツ最速なんだ。 にいちゃんじゃ逃げられっこないよ」
「速いといっても音速の手前だろ? それぐらいなら儂だって」
ーーさぁ、その子を解放しろ。
イプシロンの放つその言葉を無視しながら……否、無視せざるを得ない言葉をジョーが放つ。
「イプシロンの速さはマッハ4だよ。 この世で1番速いんだ」
ニコニコ。
ニコニコだった。
ジョーがとても笑顔で答えた。
10年の修行でわかったことがある。
マッハの手前まで加速することはある程度訓練を重ねればできる。
儂ができたからである。
だが、音速を超える。
それをするとなると話が違う。
空気の壁。
それにぶち当たることで全身がズタズタになる。
あるいは潰れて終わりだろう。
実際、ウルフにもマッハ2までの加速はできる。
だが、イプシロンは甲冑を着たまま、周りにも自分にも被害を出さずにそれ以上の加速をして見せていた。
「いい加減話を聞く気になったか? その子を解放しろ」
「やだね。 この子がどうなってもいいのか?」
首元を掴みぷらぷらする。
まるで、子猫を運ぶ様に。
イプシロンの目線は一瞬ジョーに向いた。
その瞬間をウルフは見逃さなかった。
「おい、にいちゃん。 やんないよね?」
「残念。 ほら、ちゃんと受け取れよイプシロン」
ゆっくりと、放物線を描く様にジョーを投げ渡す。
無論、放っておいてもちょっと擦り傷を負うくらいだろう。
だが、ナイトなんて他を傷つけられない悲しいサガよ。
ーーどうせ、ジョーをキャッチするに決まってる。
その一瞬で、儂は外まで逃げぬいてみせる。
きびつを返し、空へと逃げる。
逃げたいと意思を見せる。
だが、イプシロンはウルフの予想を裏切った。
「まて、不法侵入者よ。 逃すわけにはいかん」
イプシロンは追うことを選択した。
空中に放り出されたジョーを見捨てた。
ーー迷いが生まれる。
このまま、ジョーを放り出していいのか。
無論、このままでもちょっとした怪我を負うだけ。
むしろ、助けに戻れば捕まるだろう。
ーーなぜ迷っている。
まぁいい。
迷ったのなら行動だ。
まったく。
「しょうがねぇなぁ!!」
きびつをさらに返し、ジョーを拾う。
そして、体勢を立て直しそこへ座らせた。
「にいちゃん……ありがとう」
「バカ、そもそも投げたのは儂だぞ」
「でも……」
「もう行く。 元気でな」
なぜ、助けたのだろうか。
疑念が残る。
振り返ると、イプシロンとジョーが何か揉めているのが見えた。
ーーなんで助けてくれなかったんだよ。 イプシロン。
ジョーがイプシロンに掴みかかっているところを見たが、もう振り返りはしなかった。
結構、動いたが……見覚えのある場所だ。
なら、進入路に使った穴は近いな。
どこだろう。
キョロキョロ。
あたりを見回すと、そこに子どもが近づいてくる。
ジョーだった。
なぜか、今にも泣きそうである。
「にいちゃん、スラムから来た悪者なんだって? 嘘だよね。 だって、姉ちゃんの彼氏なんだよね?」
人を騙すのは快感だったのだが。
何故。
苦しいのだろうか。
「イプシロンに何を吹き込まれたか知らないけど……」
ジョーが何かを期待したかの様に顔を上げる。
あぁ、言葉にしづらいが、適当であるのは。
そう。
ーー切ない。
「てことは……にいちゃん?」
「残念だが、本当だ。 イプシロンの言っていることは」
「嘘だ。 だってにいちゃん。 投げられたおいらを守ってくれたじゃないか」
「そもそも……投げたのは儂だ」
「おいらのこと、連れて逃げてくれたもん」
「人質にちょうど良かったからな。 ゴミ穴の場所も教えてくれるだろ? だからだ」
「姉ちゃんの彼氏が悪人なわけない」
「それに関しては……そもそも身に覚えがないのだが」
ジョーがゆっくり近づいてくる。
そして、すれ違い……壁の穴を背にする。
「わかった。 にいちゃんが悪人ならおいらを殺してからいけ。 悪人なら……本当にそうなら、できるだろ!!」
今にも泣きそうになりながら、震えながらもこちらを睨む。
ーー今取るべき行動はなんだ?
何を迷う必要がある。
ーーーーコロセ。
あぁ。
ゆっくりと近づく。
距離は詰められて行く。
手を伸ばせば届く距離。
ゆっくりと手を近づける。
そして、それは頭の上に置かれる。
ーーーーナゼデキナカッタ。
「わかった。 儂の負けだ。 お前は殺さない。 で、どうすればいいんだ? 大人しく捕まるか?」
できる限り優しくその手でジョーの頭を撫でる。
ジョーの目からは大粒の涙がこぼれた。
ジョーは抱きついてくる。
「良かった。 よかったよ、 やっぱり悪いやつじゃなかったんだね」
「悪いやつではあるが……て、おい。 鼻水をズボンでふくな。 一張羅だぞ」
「えへへ。 にいちゃんはおいらのこと許してくれるもん〜」
感動の時が流れながらも、その裏に……文字通り儂の裏にはイプシロンが近づいていることに気がついていた。
ガチャリ、ガチャリ。
甲冑が金属の不協和音を奏でながら、射程距離内に入ってくる。
敵は、ロイヤルナイツ最速。
勝負は一瞬でつく。
ジョーは鬼の目をするイプシロンを見て、表情を曇らせた。
ブックマークが2となりました。
とても嬉しいです。
一時モチベーションが下がりました。
でも、いざ書き始めると楽しいですね。
毎日更新まだまだ続けていけそうです。
読んでくれるだけで嬉しいな。
ちなみに、縦読みとかじゃないです。
自信はないけど根拠ない自信で溢れてます。
お疲れ様です。




