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第2章 アンドロイドは英国の夢を見るか 六編 ロイヤルナイツへの憧れ

「言っている意味がわからんな。 それとはなんのことだ?」


 頬に冷たさ滴る。

 汗か……とも思った。

 が、それに気がついた瞬間鋭い痛みが頬に感じる。


「勘違いしてないか? 俺はお前に質問しているわけじゃないんだ。 わかるだろ?」


 男がこちらを睨む。

 強烈な寒気に背筋が凍る。

 この男……大佐並みの重圧を放っている。

 きっと、強い。

 それに、攻撃を悟らせないこれ。

 この頬はどう傷つけられた。


 ……さて、どうしてもっと拷問にかけない?


「まずは名乗ってもらおうか。 名も知らない奴に話すことなどない」


 強気を見せる。

 どんな状況でも弱気を見せてはいけない。

 せめて対等に話し合えれば、こちらも情報が得られる。

 そういう意思をこめて、睨み返す。


「はぁ〜。 …………やっぱり勘違いしてたな」


 ーー刹那、両太ももから下が切断された。

 血が吹き出す。

 当然だ。

 大腿動脈、人体でもより太い血管が切られたのだ。

 数分も待たずに血だまりが生まれた。


「なにを……しやがる」


 パキン、軽く金属が弾ける!! そんな音がするっっっ!!

 手錠は弾け、男に向かって黒の槍を突き刺す。

 黒球で義足を型取り、二足で立ち上がりながら放ったそれは、男に届く前に停止した。


 ーーこれじゃまるで。


「まるで……さっきのリオンの時のような、か?」


「お前の仕業だったのか。 いや、そんなことはどうでもいい。 もう死んでくれ」


 1発、2発じゃ通じないのなら、数を増やせばいい。

 槍を次々に型取りそれを放つ。

 その間足を取り太ももの断面に当てる。


「くくくく。 数の問題じゃないんだよ。 ほらさっさと治せよ。 じゃねえと殺しちまうだろ?」


 こいつ、異常な治癒能力についても知っているのか。


「思った通り、儂を殺さない理由があるらしいな。 なら、交渉はこっちが有利だぜ」


「バカめ、殺さないんじゃない。 殺さない理由があるんだ。 最も、お前を殺せば奴の計画は5年は遅れる。 俺はそっちでもいいんだがな」


 ーー殺さない理由? 奴の計画?


 治癒が完了し、背伸びをしながら黒球を制裁する。


「まだやるのか? いや、お前はそんなにバカじゃない……だろ?」


 見抜かれている?

 いや、関係ない。


「今回はお預けだ。 最後に行っておきたいことはあるか?」


「……まぁいい。 1つ、お前の組織……意外とスパイが多くて笑えるぜ? あと、俺の手下になれ。 そうしたら他の奴らも見逃してやってもいい」


「ごめんだね」


 音もなく、壁が崩れる。

 人が通るには十分すぎる穴。

 儂はそこから脱出をする。


「バカな。 ここは4階だぞ。 それに……良かったのですか?」


 ウルフを連行した男が動揺しながら言う。


「あぁ、どのみち奴には逃げ場はないんだ。 あのままだと、せっかくの特異点を殺しちまうからな。 これでいい」


「また、夜も寝ない様な……あそこに戻って命を削るんですか?」


「なんだ? 止めるつもりか?」


「いえ、お体には気をつけて……大臣」


「あぁ、お前たちもな」


 大臣と呼ばれたその男は、ネクタイを締め直しながらその部屋を後にした。


「いてて……さて、どうするかだな」


 案の定着地に失敗していたウルフは街の中に入っていた。

 まだ、指名手配は出回っていないにしろ、早めに脱出することが好ましいだろう。


 ーードスン!!


 足元に何かがぶつかる。

 先ほどの傷口がズキリと痛む。


「なんだお前」


 お前……というのは、ぶつかったそれが小さな男の子であったためである。

 小さなタブレットを操作しながら歩いていたのだろう。

 その子どもがぶつかってきた。


 その子どもと目が合う。

 そして、ウルフはその男の子が落としたタブレットに目がいく。

 そこに移されたのはウルフの顔。


 そして、もう一度目があった。


「「あ!!」」


 ーー誘拐。

 児童誘拐。

 その男の子をさらい、路地裏に入って行くまでその間10秒足らず。


 さて、顔がもう出回っているなら……人質か?

 男の子がこちらを見てくる。

 しまった。

 泣き出すか?


 そして、その男の子は予想外に。


 ーー笑顔で話しかけてきた。


「お兄ちゃん!! 姉ちゃんの彼氏だろ? まさか会えるなんてなー」


 は? カレシ?

 彼氏ってことはつまり……KARESHIってこと?


「いや、多分お前なんか見当違いなこと言ってるぞ?」


「いやー、そんなはずないぜ? ほら!!」


 そう言って、液晶を見せつけてくる。

 たしかにこれは儂の写真だ。

 最終試合。

 道を歩く様。

 そして、食事中。


 紛うことなき儂だ。

 だが……いやまて、食事中?


 もしかして。


「もしかしてだが……小僧。 お前の姉貴って……シンプウ?」


「そだぜ。 あの口うるさい女がおいらの姉ちゃんだ」


 世界は、そう。

 世界はとても狭いんだな。

 ウルフは、その事実を知った。

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