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第2章 アンドロイドは英国の夢を見るか ゴヘン 覚醒

 例えるならウニが適切だろう。

 ウニのように伸びた棘が伸び多方向からリオンを襲った。

 リオンの前には大楯が出現し前方からのトゲは弾かれる。

 そのまま足をかけて大きく飛び上がることでトゲの合間を抜けて脱出することができた。


 ただし、空中に投げ出された体は自由がきかない。

 なおも狙い続けるトゲは数本、リオンの体を捉えた。

 負傷箇所からは流血が見られる。


(なんや、急に雰囲気変わって……これは、血が止まらへんし、やけに痺れる)


 リオンは突如として変化したウルフにこの日、初めて重圧を感じた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 黒、あるいは闇。

 暗黒、あるいは深淵。

 真っ暗で、ただ冷たい。

 だが、そこは、どこか懐かしく感じる。


「よう。 見てられないんで出てきたぜ」


 振り返ると、自分によく似た男が座っていた。

 顔のパーツは同じものだろうが、自分がもう1人と呼ぶには、その男が少々荒みすぎていた。


「お前は? そういえば名前を知らなかった。 教えろ」


「教えろとはまた……まぁいい。 正邪。 善悪無(さがな)正邪だ。 よろしく」


 そう言われた瞬間、その男の名前が昔から知っていたように感じる。

 ただ、名前を聞く前は、たしかに名前を知らなかった。

 思い出せないではなく。 そもそも知らないように感じていた。


「これは、情報規制のような……お前を知っているが、わからない。 お前は……何なんだ?」


 正邪が大きくため息をついた。


「おいおい。 オリジナルがそれじゃあ困るぜ。 その気になればお前の方が、なんでも知ることができる立場だったのに」


「儂の方が……だと。 どういう意味だ?」


 正邪は両手を挙げ、やれやれと首を振った。

 突如、正邪の姿が消える。

 そして、それは後ろから聞こえた。


「それは……ね。 お前が俺を受け入れていないってことだよ。 悲しいぜ?」


 背中に体重を感じる。

 反射的に振り返ると、そこに正邪が立っていた。

 不敵に笑いながら。


 ーーよくわからないが、こいつの言葉に要領を得ない。 殺すか?


 そう考えていると、頭の中を見透かされたように正邪より言葉が思考に割り込まれる。


「それはお前の本心じゃないぜ? お前が人を殺すことなんてできるわけないだろ?」


 足に激痛を感じて、立っていられなくなる。

 転んだのか? 攻撃を受けたのか?

 それを確かめるまでもなく腹を踏まれる。

 足の感覚がない。

 黒い球が浮いて見える。

 どうやら、黒い球に足を壊されたようだ。


「何……を…………する」


「殺すつもりなら、考える前にやれよ。 こんな感じでさ」


 ぐちゃりと、生暖かいのが身体中に広がって、そして、消えた。

 いつのまにか、意識が戻っている。

 返り血を浴びた正邪がこちらに視線を向ける。


「おかえり。 これに見覚えあるだろ? お前も出せよ」


「………………誰がっ」


 グジャリ。

 視界が傾いた。

 瞬きのように闇に包まれて。

 気がついたらまた正邪と対面している。


「あと何回死んだら素直になれる?」


「嫌だ!!」


 また消えて、また明かりがつく。

 何度も何度も死んで、死んだ。

 20を超えてから、死んだ回数は数えていない。

 何度も殺され、無意識で死を否定する。

 その瞬間がやってくる。


 円形の刃となったそれをこちらに飛ばしてきた。

 それを嫌がり、防ごうとする。

 しかし、間に挟んだ腕ごと、さっぱりと切断される。

 血は暖かい。


 暖かいそれは生の実感を与え、冷たくなるにつれ、死の受容を強制してくる。

 あぁ。

 死にたくない

 ーーーーーー死にたくない

 なら、

 ーーどうすればいい?

 あぁ、

 いやだ。

 だから………殺す。


 2つの首が飛んでいく。

 それが地につき、転がりながら、新しい体を手に入れる。

 もう何度目だろうか。

 だが、今回は。


「お前も死んだな。 正邪」


「おいおい、普通は攻撃を防ごうとするもんだぜ。 まぁここじゃあどっちも死なねえけどよ」


 2つの笑い声が響く。

 笑っていた。

 儂も、俺も。

 儂は目の前の自分の中の狂気を一部受け入れたのだ。


「儂はお前を認めない。 だが……」


「だが?」


「こいつは悪くないな」


「だろぉ!!!!!! そうなんだよ!! ははっ。 くくくくく。 もう迷わねえな? もうあるけるな? お前が俺を受け入れれば受け入れるほど心地よい快感をやるよ。 だから……わかるだろ?」


「あぁ、お前なんかいらないけど。 これを儂は好きだ。 だから、もらっていってやる」


 過去の記憶を思い出す。

 前世の記憶を。

 何か、何かが足りない。

 それを求めて殺す。

 何故ーーなんだろうか。

 心底どうでもいい。


「またこいよ。 一応お前が主人格様だ」


「もう2度とかねえよ。 じゃあな」


 闇の中に光が差し込める。

 道、それにつたって歩いていく。

 意識が戻ると。

 儂は、どうなっているんだろうか。

 不安と期待が入り乱れる。

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