第2章 アンドロイドは英国の夢を見るか ゴヘン 覚……セ…イ
最終試験。
ーーーーである。
今目の前に立つ男。
それが放つ重圧は、かつての自分を思い出させる。
立っているのがしんどい。
呼吸がつっかえる。
リオンは、それだけの力を持つ男。
強い男である証明であった。
「武器、魔法の使用は制限なし。 危険と判断した時点でとめる。 勝ち負けではなく、評価点で合否は決まる。 精一杯自分をアピールしてくれ」
もう1人、近くに立つ若い男が試験について説明をする。
甲冑の男。
審判に不足はないだろう。
「アサギー頑張ってくださーい。 リオン、お前怪我させたら承知しないからな」
見物人、ガヤも多く、声援が大きくなっていった。
「なんや、嬢ちゃん荒れとるのー。 こわいからなー。 怪我せんようについてきてや?」
言いながら、重圧が強くなっていく。
儂は、軽く深呼吸をする。
少しは、楽になったか。
一言、返すことができた。
「お前じゃ無理だ。 儂はともかく、あいつを傷つけることは」
「どういう意味や? ……まぁええ。 ほないっちょやろうかい」
審判から始めの合図が与えられる。
もう、2人を制止するものはない。
そう、戦いの火蓋は切って落とされた。
先に仕掛けるのはどちらか。
と、観客は固唾を飲んで見守るだろう。
が、仕掛けない。
リング中央でプレッシャーをかける男。
そして、その周りを歩く儂。
お互いに手の内を知らないのだ。
先に手札を切った方が不利となるだろう。
ウエスタン風に言えば先に動いたら負けるというやつか。
とはいえ、儂がそう考えるから相手もというわけではないだろう。
むしろ、リオンの性格のことだ。
こっちがなにをしてくるのか興味がしんしんという感じの表情。
出方を待つというより、先に打ち込んでこいという余裕だろうな。
ピタリと、足を止める。
このままではらちがあかん。
儂が罠を仕掛けて待つタイプであれば、好都合なのだが、あいにくそんな器用な真似はできない。
なら、だから、仕方がない。
こちらから仕掛ける。
相手の間合いがわからない。 相手の武器がわからない。
まずは……情報収集からだな。
地面を強く蹴り、儂の中で最速で間合いを詰める。
その間もリオンはこちらの目をまっすぐと見つめている。
見られている……スピードで差をつけるのは無理か。
左手に小さな氷の塊を作り出す。
狙いは目、左の目。
リオンの顔面に向けてそれを射出する。
リオンの頬近く飛ばされたその氷は、顔をそらされ天へと消えていく。
右手にはガバメントを煌めかせ、腹部を狙う。
この距離なら外さない。
引き金を引く、そう頭で判断した瞬間だった。
儂の射撃、攻撃のタイミングに……もう程なくして戦いが終わるはずなのに。
リオンの左手に割り込まれる。
リオンは晒した反動をそのままに左手で狙うガバメントを持つ右手を叩く。
力が強い、というよりも予想外の出来事にガバメントを手放してしまう。
しまった。
その一言を言う間も無くリオンが攻撃を仕掛けてくる。
右手を上にあげ振り降ろそうとする。
リーチは腕の距離とイコール。
バックステップで避けられる。
一旦離脱。
そうして安全圏から仕切り直す。
……………………………………つもりだった。
体はまっすぐ後ろではなく、やや斜めに飛んでいる。
突如として伸びるそれに反応し、半身をそらして避けようとしていた。
ロングソード。
特に珍しくもない、古きヨーロッパで使われた標準的な剣。
それが突然現れ、肩から腹部に向けて斜めに振り下ろされた。
意識では割り込まないその時間軸。
ギリギリ反応することができた。
……ギリギリ、反射で避けることができた。
だが、次は避けられるだろうか。
その思考が、恐怖を与える。
幸い、恐怖の経験は多かったため、動くことはできるが。
消極的にならざるを得なくなった。
「ほほー、あれを避けるんやったらもっとやってもええなぁ。 やっぱり只者やないなぁ」
ただの挑発。
ただの言葉。
だが、今この状況ではそれが何よりの重圧となる。
出し惜しみしている場合じゃないか?
持っている武器を奪われ、動きを見切られダメージも受けた。
だが、だからこそ。
「だからこそだ」
もう一度地面を蹴り出し接近する。
そして、左手で顔面に向けて氷を撃つ。
さっきと同じシチュエーション。
リオンがそう思ってくれるか、それは賭けだった。
案の定避けられる。
そこまでは……まだ同じ。
つまり、ここからだった。
右手にガバメントがない。
そのため、ここからが変化していく。
攻め手の欠けたウルフの攻撃はここで終わらざるを得なかった。
つまり、リオンの右手にあるロングソード。
それが振り下ろされる。
先程はまぐれで避けたその攻撃。
今回も避けられるはずもない。
まっすぐ振り下ろされ、後ろに下がるも間に合わないウルフに、その刃が触れる。
ーーはずだった。
拳が目の前を素通りする。
そこには剣の影はない。
ならばどこに行ったのか。
「答えはその身で味わうといい」
ウルフの右手にはロングソードが握られる。
それを両手で持ち、まっすぐとリオンの喉元に向けて突きとおす。
しかし、それはリオンに届く前に跡形もなく消えて無くなった。
「やるなぁアサやん。 わいは、あんたのこと、本気を出してやってもええ奴と思っとった。 やけど違ったわ」
「どう……違うんだ?」
「お互いにわかっとるやろ? 本気を出さなあかん奴やって。 だから……や。 アサやんも本気でこな、死ぬで?」
「ヒュー。 こわいこわい」
転機だった。
それを機にリオンの方から接近をしてくる。
別次元から武器を取り出して振るう。
実にシンプルなそれは、大佐と同じ戦法であった。
だから、対応できる。
「よう避けるやんけ。 ほならこれならどうや!!」
リオンが両手で大きな獲物を振るう。
斬馬刀……いや、エクスキューショナー? 普通にクレイモア……いや、避けないと死ぬ。
跳躍。
横に振られたそれを避けるにはそれしかなかった。
空中に投げ出されたら、捉えられる。
だから、ウルフがとった行動はただの跳躍ではない。
「悪いが……こっちの番だ!!」
最低限の跳躍。
少しでも低ければ避けきれない。
だが、なぜその選択をしたか。
そうするしか、攻勢に回れないから。
そうすれば、こういうシチュエーションが来るから。
「お前、大剣の上に乗ったやと」
橋がわりにその上を走って接近するが、瞬時にそれは消えて無くなる。
武器の出し入れが自由、すごい便利な力だ。
急に足場がなくなり、着地がふらつくが、すぐに体制を整えられる。
だが、不用意に近づいた分、間合いは五分……ふらつきの分不利だった。
「避けるっ!!」
ウルフのその言葉に、共鳴するようにリオンが叫ぶ。
「避けれるかい!!」
リオンは右手を縦に、左手を横に振るう。
それぞれ、ブロードソード、ロングソードと長さの異なった獲物が握られる。
左手に握られたブロードソードを奪い、頭の上で横にして縦振りを受け止める。
当然、受けきれない。
その分は斜めにして流す。
リオンはロングソードを投げ捨てる。
消すのではなく。
捨てる。
ウルフはそれを奪い、二刀流で構えた。
上空に影が立ち込める。
ある一部分だけ暗くなるため、帰って周りがまぶしく思える。
影をたどり、見上げると凶悪なものが目に入った。
狼牙棒。
ただし、規格外に大きい。
それが振り下ろされる。 ただそれだけが一撃必殺の攻撃となった。
ウルフは、それに怯えを見せず、むしろ接近する。
狼牙棒はすでにリオンの手を離れており、右手に握られたブーメランをこちらに投げる。
左手にも何か握られているが気をとられるひまはない。
間一髪で避ける。
「よし……いやそれブーメランか。 危ない!!」
頭を下げると、その位置をちょうどブーメランが帰ってきた。
それがリオンの右手に戻っていく。
それを見送ったのち、何かに体を拘束された。
ボーラ。
中型の獣を拘束する古代よりの拘束具。
左手に握られていたそれはブーメランに気を取られている間に放たれていた。
「大局は決まったみたいやな」
「欧州武器以外も使いやがって。 もう手加減できないからな」
「ほーう。 ここからどないするんや? 悪いが、加減がきかんのはこっちの方やで。 久々の本気で……すっかり興奮状態や」
地に横たわるウルフにが見たのは。
エクスキューショナー。
処刑用の大剣を振りかぶって笑うリオンの姿だった。
「おいおい、冗談だよな?」
「あは。 地獄とかでその答えを噛みしめるとええで」
振り下ろされる。
2度目の死があたえられる。
2度目……そう。
「俺が二回も死ぬわけないだろ? あ、そっか。 初対面か。 すまんすまん……まぁなんだ。 お詫びというか……代わりに死ね」
突如、エクスキューショナーが弾ける。
ボーラーが消滅する。
そこには黒い球。
それが配置されていた。
「お前……誰や?」
「名乗る必要もないだろう。 これから死ぬ男に対して」
黒い球は鋭く針状になり、リオンに突き刺さった。




