第2章 アンドロイドは英国の夢をみるか 四編 キングダム
さて入隊試験会場に到着したようだが。
何やら、騒ぎになっている。
なんだろう。
「だから、無くしてしまったんですよ。 もうどうしたらいいか」
「ですので、身分を証明できない方は試験を受ける権利がございませんので」
なるほど。
身分証明ができなくて揉めてるわけか。
まったく見苦しいな。
「ははは。 しゃーないやっちゃなぁ。 ほらどいたどいた。 わいらが先に受付させてもらうで」
と、リオンが男をどかし受付を開始する。
ふと、気になることがあった。
いつまでなのだろうか。
いつまで、シンプウは付いてくるのだろう。
ちらりと目線を送ると、ニコリと笑顔が帰ってくる。
まぁ、いいか。
さて、儂の番じゃな。
「名前だな。 えっと、アサギだ。 それで身分証明証だが……」
「えっ、アサギ?」
「ん? どうした?」
男と目があった。
どこかで見たような。
と、男が掴みかかってくる。
そして、すごい剣幕で怒ってくる。
「お前、お前があの時盗んだんだな。 それを……ほら、これは俺のライセンスだ」
あぁ、こいつ、本物のアサギか。
そういえばこんな顔だった。
うんうん、怒るのも無理はない。 だけどな。
「言いがかりはよせ。 なんだよまったく。 証拠はあるのか?」
「証拠だと……ぬけぬけと、この盗っ人が」
「無いんだな? 受付さん、戯言だ気にしないでくれ」
「あの、盗難の可能性があるのなら受付は出来かねますが」
面倒だなあ。
この男のせいで。
こんなもの盗まれる方が悪かろう。
貴重品なら大事にしまっておけと。
「おい、何ほうけた顔してやがる。 返せよ。 今謝れば許さんこともない」
アサギ(真) は儂の肩を持ってブンブンしながら言ってくる。
必死だなぁ。
「やめてくださいよ。 いい加減にしてください。 あなたに構ってる暇はないんですよ」
「お前がいうなぁああああ」
らちがあかないな。
そう考えていると、城から1人の男が出てくる。
甲冑を着こなした男。
その男が受付嬢と話し始めた。
「一体なんの騒ぎだい?」
「それがーー」
「なるほど」
アサギ(真) と言い争いをしていたため断片的にしか聞こえなかったが、どうやら事情を説明していたようだ。
「そうか。 大臣の言う通りだな……分かった。 2人で戦って勝った方が試験を受けるといい。 どのみち弱い奴はいらないからな」
とてもわかりやすいルールだ。
アサギのランクはD、ランクSの儂の足元なも及ばん。
Dなんて、一年もせずに取れたわ。
のはずなのだが。
「ふっふっふ。 偽物め。 ご愁傷様だな。 この偉大なる俺様にひれ伏すがいい」
なんでこんなにもこいつは自信があるんだ?
もしや強いのか?
シティーボーイはランクに比例しないのか?
ちょっと自信がなくなってきた。
もうなんか……服とか脱ぎたい。
「頑張ってください!! アサギ様」
「わいが認めたんや。 負けるわけないやろ」
いつのまにか外野が集まっている。
もうなんか、やらなきゃいけない流れだ。
「さて、準備はいいかな?」
甲冑の男が審判を務めるようだ。
お相手さんも準備満タンといった感じだ。
よかろう。 シティーのDランク。 その実力を見せてもらおうか。
「いつでもいいぞ」
「俺だって。 負けてピーピーなく様が今から楽しみだ」
どうしてこの男は人を煽るんだろうか。
挑発目的に見えないし、お互いに気分が悪いだけだろう。
なんて考えることはなく、始めの合図で火蓋が切って落とされた。
ーーさて、まずは様子見だな。
「先手必勝。 畏れおののけよ!!」
アサギは、まっすぐこちらによって拳を振るってきた。
なかなかのスピードだが、直線的すぎる。
そもそも、物理攻撃なのか。
適当にさばいてやるか。
ーー !?
視線だった。
強烈な視線、殺気が込められている。
それに一瞬気を取られた。
まずい、やられるか?
「と、おもったんだ……が!!」
アサギの攻撃は予想よりも遅くまだ儂の体に到達していなかった。
というか……なんか良く見える。
動きからどういう形になるか予測ができる。
そのため、少しの力を加え方向を変えてやることで、簡単にアサギはすっ飛んでいった。
「大丈夫か?」
俺が問うとアサギは叫び出す。
「ざっけんな。 もう許さねえ。 お前の命なんてもう知るか」
魔力を感じる。
魔法を使うのだろう。
まずいな。 防御手段もこちらは持ち合わせていない。
かなり大きめの魔力、周りにも被害が出るだろう。
「さて……」
どうしたものか。
「はっはっは。 怯えて、焼かれやがれ」
炎の塊、いびつな楕円を描いたそれはそこそこなスピードでこちらへ向かってきた。
あたればひとたまりもないだろう。
だけど。
「運がいいな。 もちろん儂のほうが」
熱の魔法はこちらの得意分野、低温で相殺してやれば消滅するだろう。
あの塊を消すイメージで。
ーービリビリーー
と、頭痛が走る。
走り抜ける。
一瞬のことだった。
氷魔法に黒い線が走ったように感じた。
あの時の黒い球のような。
それが実際に混じっていたのかはわからない。
だが、熱の塊は相殺したにしては不自然に消滅したことだけは確かだった。
「くそ、なんだよ。 お前……化け物か。 この、俺様が、なんで」
「ん? あぁ、まだいたのか。 えと、まだやるんだっけ?」
軽く視線をアサギに移すと必要以上にビビりやがり、アサギはそのまま逃げ出していった。
「勝者、アサギだな。 まぁあれだこのことができれば落ちることはあるまい。 頑張りたまえよ」
いつのまにか外野のざわめきが聞こえてくる。
すごい、だとか。
ありえない、だとか。
まぁ、好きに言わせるさ。
リオンとシンプウが近寄ってくる。
「さすがです。 お見事、以上の言葉が見つかりませんわ」
と、シンプウがこちらの手を握りながら言ってきた。
手を握る意味はなんだ?
そして、睨みつけてくるやつが1人。
「恐ろしいまでの使い手やな。 予想を超えてたで」
「あれくらいお前にもできるだろう。 他はともかくお前が驚くのはおかしい」
「はっはっは!! どちらが強いんか。 楽しみにしとくわ」
「それで、最後には友達になれるといいな」
「違いない」
その後は先ほどの受付嬢に促され、別室にて移動となった。
10数人が集められ机に座らされる。
どうやらここからが試験の始まりらしかった。




