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第2章 アンドロイドは英国の夢をみるか 四編 キングダム

 カチャリ、カチャリと食器が置かれる。

 イタ飯をまた食べることができる日がくるなんてな。

 ここはあの女の子の行きつけらしい。

 名前はシンプウと名乗っていた。


「めっちゃうまいやんけ。 手が止まらんわ。 おねーさん、3人前追加で」


 食事の手を止めることなく男は注文を続ける。

 時にレマンを絞り、時にタバスコをかけながら。

 手を変え味を変えながら男は咀嚼を続けていた。


「いい店を知っているな」


 パスタを口に運びながら賞賛の言葉をかける。

 こんなものはほんのリップサービスに過ぎないのだが、シンプウは過剰な喜びを見せた。


「こんなものはほんの序の口です。 うちに来てくださればもっとよろしいものを用意いたします」


 こうまっすぐに来られるとな。

 まぁ適当にあしらうのだが。

 ふと、遠くである言葉が耳に入る。


 ーー俺、あの王国騎士団の入隊試験受けるんだぜ。


 もう、このまま入隊試験を受けることは決まってしまったので、ちょうどあれが欲しかったところだ。

 ちょうどいい。

 儂は、その言葉を発する男の元にピザを1枚持って近づいた。

 タバスコをよくかけたピザを。


「やぁ、入隊試験受けるんだって? すごいな。 祝わせてくれないか?」


 といって、ピザを渡す。

 なんのためらいもなく、男はピザを口に持って行く。

 時に、火をふくほど辛いという表現を聞いたことがあるだろうか?

 儂は、たった今目撃した。


「辛えええええ!! てめええええ」


 男は火をふくように熱い息を振りまきながらこちらに怒号する。


「すまない。 儂の趣味に合わせてしまって。 まさか、王国騎士団に入ろうという方が辛いものがダメだとは知らなかった」


「なんだよ。 辛いの無理なのの何が悪いんだよ」


「辛さってのは味覚じゃなくて痛覚なんだ。 だから……打たれ弱いんだろうなって」


「上等だよ。 オラ食ってやるよ。 辛ええええええ」


 バカだろこいつ。

 男はあまりの辛さに暴れ出していた。

 それをなだめながら欲しいものだけもらって行く。

 財布ごと……は騒ぎになるだろうから。

 中のものだけもらうぜ。


 ライセンスカード。

 いわゆる、中央議会の登録証だな。

 身分の証明にもなる。

 これを偽造して……顔写真だけ入れ替えよっと。


「さて、ただいま……何この皿の山」


「ん? 戻ったか。 トイレか?」


「まぁそんなとこ。 シンプウ、君はもう食べないの?」


「流石にお腹いっぱいですぅ」


「そか、デザート頼むけどいる?」


「いただきます」


「あ、わいも頼むで」


 まだ食うのか。

 会計……大丈夫なのか?

 という心配をしていたが、それを察した男が財布を見せつける。

 分厚い。

 安心しろってことだろうな。


「でだ。 名乗ってなかったな。 わいはリオンや。 お前さんも名前聞かせてや」


「なんだ。 妙なタイミングで名乗るじゃないか」


「いやな、正味、お前なんかすぐ落ちるやろうし聞かんでええと思ったったんや。 でも、聴きたくなった」


「そうか。 儂はウル……失礼、儂はアサギだ」


「アサギやな。 勘が正しければ末長い付き合いになるやろな」


「さて、どうかな。 そうだ、ここおごれ」


「そのつもりやけど!! 初対面でそれってふてぶてしいやっちゃなぁ」


「なぁ、奢ってほしいよな。 シンプウ」


「はい。 リオンが奢るべきです」


「なんや嬢ちゃん。 金持ちそうなのにお前もあい」


「ウルセェ、アサギさんが奢ってほしいって言ってるんだ。 奢るんだよ」


「ひぇぇ。 怖い怖い」


 儂たちは店を後にした。

 遠くで、

 ーーアレェ無い……無い!!

 なんて聞こえた気がするが幻聴ということにしておこう。

 それがみんな幸せになるコツだろうから。

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