第2章 アンドロイドは英国の夢をみるか 三編 せんぱいぱい 2
ランクシステム。
世界中央議会に登録したものが対象となる。
最低位であるFから最高位であるSまでの評価を階級として個人に与える。
原則として上位の者の命令を下位の者が断ることができない。
緊急時の対応力を上げることが目的である。
そのほか、ランクに応じた依頼を受けることができる。
能力の適性にあった依頼を受注する事で効率化を図ることが目的である。
「なのに……だ。 おいじじい。 なんてことをするんだ」
「だってのう」
「だってもクソもない。 儂は行くからな。 サテンにもそう伝えておけ」
ランクに対し推定難易度の低い依頼、つまり、SランクにFランク級の依頼を任せるのは過剰戦力となり無駄が起こる。
対し、ランクに対し推定難易度の高い依頼、FランクにSランク級の依頼を任せること。
それは、達成できないばかりか死の危険がある。
これは、依頼を受け生計を立てるもの、コントラクターたちを守るためにできた制度であった。
ーーさて、事の発端を説明しよう。
儂が、Fランク級ですらない薪集めの依頼をやらされてる間に、あろうことかイレブンがAランク級の依頼をエドより受けた。
依頼の内容はこうだ。
突如スライムイーターが2体発生した。
被害が出る前に討伐してほしい。
スライムイーターとは、その名の通りスライムのような不定形の生物の捕食者だ。
一体ならばBランク級であろうが、と言ったモンスターではあるが、それでも恐ろしい。
そもそも、Bランクの時点で村を1つ消すくらいわけないみたいなやつも混じってる。
スライムイーターもその1つだ。
「見つけた……イレブンは。 まだ生きてるな」
二体のドラゴンと相対する少女がそこにいた。
左腕はもげている。
血は流れてない。
もう、ボロボロじゃないか。
ドラゴン……もとい、スライムイーターは2体同時にブレスを吐く。
大昔のドラゴンの伝承にある、龍の息吹。
これ1つで山がなくなるとも言われている。
危ない。
と、思った時には体は動いていて。
思い終わった時には間に立っていた。
「どうして。 こんな危険なことを?」
できる限り優しい声でイレブンに問う。
「皆さんのお役に立ちたくて……でも、逆に迷惑をおかけしてしまいましたね」
話をする間もスライムイーターは待ってはくれない。
一匹がこちらに急接近しながら、もう一匹は空へ飛びブレスを構える。
「ちょっと黙れ。 いや、もう消えてくれ」
儂はイレブンの体を抱きしめながら、その魔法を放った。
その魔法には名はまだない。
そもそも魔法なのかも定かではない。
黒い球が無風に現れて、それに触れたスライムイーターが細胞レベルで破壊される。
なぜそんなことができて、どうやってそれを行なったのかはもうわからない。
そう、そこで儂は意識を失った。
「サイトカイン!! …………ここは?」
「一体どういううわごとなの? おはようウルフ」
そこには、サテンがいた。
昔と変わらない、ロリロリした身体。
低身長、童顔、阿呆、三拍子揃って大人気の2番手アイドルである。
って考えてただけなのに、殴られた。
踏み込みは浅いが腕だけでなく下肢、広背筋を綺麗に使用した右ストレートはかなりの威力だった。
危うく気絶しかけるほどに。
「失礼なこと考えたでしょ」
「疑いだけで殴るのは悪い癖だぞ」
「確信あるもん」
「まぁそうだけどさ」
「やっぱり!!」
「じゃなくて……イレブンの様子は?」
腕をもがれて尚ボロボロにされ続けたんだ。
無事ではあるまい。
それに、あの傷で出血がないことも気になる。
「一応、治療はしたけど、意識もある。 ただね。 活動時間に限界があるんだって」
「は? なんだその活動時間とは」
「あの子、アンドロイドなんだ。 自家発電できたけど、壊れちゃって。 もうダメかもって」
「そうか……とりあえず会いたい。 どこにいる? 案内しろ」
サテンは小さく頷くとこっちだよと言わんばかりに先導して行く。
「やれやれ、こっちはまだ頭が痛むというのに」
儂はゆっくりとサテンについて行った。
たどり着いたのは普通のベッドだった。
なんかコンセントでも刺さってるんだろうとか考えていたがそんなことはなかった。
「元気そうか?」
儂はイレブンに問いかける。
「えぇ、でもお別れも近いですね。 せっかく仲良くなりはじめていたのに」
イレブンはこちらとは反対を見ながら答えた。
「何をいう、儂たちはもう親友じゃないか。 ただ、あんな無茶はもうやめてくれよ」
イレブンはこちらを振り返ることなく答えた。
「親友……嬉しいです。 私、あなたに出会えてよかった」
「なぁ1つ聞いてもいいか?」
「何です?」
「顔に傷があるのか? 」
「いえ、そんなことはないですけど」
「なら、なぜこちらを向かない」
「いま、顔を見たくも見せたくもありません」
どうやら嫌われたらしい。
「そうか、エドの元に行く。 すまんな」
「え? いや、そんなことないですよ。 えぇ」
こちらを一瞬見たその顔はとても赤くて熟したリンゴを思わせた。
そして、部屋を後にした。




