第2章 アンドロイドは英国の夢をみるか 三編 せんぱいぱい
イレブンを部下にする件については恐ろしいほど簡単に解決した。
まぁ、死人が出たというわけでもないし、という事で監視下であればイレブンにある程度の自由が与えられる。
よく考えたら忙しいわけでもなく、部下を持っても持て余すな。
とりあえずは、簡単な依頼をさせてみる。
ーー逃げ出した愛玩用獣型モンスター ヘルキャットのタマの捜索。
「センサー起動……はい。 見つけました」
ーー新施設、銭湯エリアの建築。 材料集めより建築管理まで。
「ガラクタを集めて使っていいんですよね? こんなものチョチョイのチョイです」
ーースライム大量発生。 みんなの食料をかき集めろ。
「……」
イレブンはこちらをちらりと見る。
どういう意図だ?
「どうした?」
「いえ、銭湯は苦手で。 ウルフさんなら簡単にやってしまうんでしょうけど」
そうか。
銭湯は作れても、戦闘は苦手か。
ふむ。
そうか、そうか。
「仕方ないな。 儂がやってやる。 下がっていろ」
「いいんですか? 頼りになります。 さすがは先輩!!」
「ん? 先輩だと?」
「え……はい。 先輩」
「ちょっとそこで待ってろ」
儂はスライムに向かいゆっくりと歩く。
熱を操ることが出来る魔法。
冷と熱。
それを同時に、渦にして相手に飛ばす。
その渦は周りの環境を巻き込みながらスライムたちを薙ぎ払った。
冷やされ、熱され、それらを繰り返した細胞は崩壊する。
「名付けて、ブリザードフレイム」
振り返りイレブンの様子を伺う。
イレブンは一瞬驚いた表情を見せていた。
一瞬というのは、目が合った瞬間笑顔を見せ口を開いたからだ。
「さすがです。 やりますね先輩」
「まぁな。 これくらい出来るようにならないとな。 お前、今日一番風呂許すぞ。 風呂上がり牛乳とコーヒー牛乳どっちがいい?」
「え? いいんですか?」
「当然だ。 儂は先輩だからな」
「ちょ、ちょっとウルフ先輩。 私は?」
サテンが白い紙をひょこひょこ揺らしながら言ってきた。
「お前もいいだろう。 2人で楽しみなさい」
「やったー!! 私はイチゴのやつがいい!! イレブンちゃんは?」
「あの……その、コーヒーと普通のを1つずつ」
「いっぱい飲むんだな。 栄養満点だ。 いいぞ」
「本当にいっぱいだね。 どこにその栄養が……」
サテンと儂の視線が落ち、胸元へ移る。
サテンと目が合い、同時に頷く。
と、同時にサテンに殴られ、イレブンと一緒に奥へと向かっていった。
「もう、失礼しちゃう。 いこ、イレブンちゃん」
「え? あ、はい」
どうしてだ。
ただ、両者の胸を見て判断しただけなのに。
さて、エドのところに向かうとするか。
と、道中に有象無象どもが群がっていた。
「お、ウルフか。 あの子いい子だよなぁ。 よく働くし可愛いし」
有象無象Aが何かほざいている。
「俺はやっぱりサテンちゃん派かな。 あのロリロリした感じかタマラねぇ」
Bはロリコンか。
一緒に報告しておこう。
「それでお前たちは向こうに何の用だ? あっちは銭湯エリアしかないが」
「決まってるやろ!! 覗きに行くんだよ。 わからひんのか?」
「は?」
Cが喋った。
10年間の付き合いだが喋ってるところを見るのは初めてだ。
他にもd、e、f、計6人が犯罪に手を染めようとしていた。
「お前たち……儂も混ぜろ」
そう。 儂は万引きの現場を見かけたら一緒になってやるタイプの男。
「ウルフ……いや、ウルフさん」
「皆まで言うな。 儂はSランクとして、お前たちの依頼を手伝う義務がある」
「そうかそうか。 それで? どうするんじゃ?」
「まっすぐいってぶっ飛ばす。 右ストレートでぶっ飛ばす……なんでここにいる?」
今の声の主はエドで、今の話を聞かれていた。
これはまずいか。
「お前たち、エドは儂が食い止める。 行け!!」
「「「「いやです!!」」」」
「なに?」
「俺たちが止めます。 ウルフさんがいってください。 それが俺たちの望みだ!!」
「骨は拾ってやる」
儂はこの場を後にして駆け出す。
間に合え、間に合え!! 間に合えぇぇえええ!!!!
「な……なんで、そんなところにいるんだよ!! お前が、どうしてだ。 ここにいちゃだめだろ!!」
そこには、廊下に立ちふさがるようにしてサテンが立っていた。
サテンの顔はとても怒っている。
とても怖い。
「覗きが出るってリークされてたの。 誰かなって思ったら、まさかウルフとはね」
「内通者がいたようだな。 ふっ、儂も焼きが回ったか」
「ウルフ!!」
「はいっ」
「部屋で謹慎ね。 あとで説教。 いい?」
「言い訳をさせてくれないか?」
「だめ。 言わないで」
「はい。 すみませんでした」
儂は敗北したようだ。
以来失敗。
非公式とはいえ儂に失敗の記録がつくのは初めてのことだった。
儂はその足で部屋まで戻る。
エドの部屋だが。
道中で戦死した戦士たちのことはちゃんと埋葬した。
「報告を聞こう」
「覗きの件か? もう1つの?」
「前者の方を成功してたら貴様の処分を考える必要があるのう」
「冗談だ。 イレブンだが……」
「だが?」
「信用するにも疑うにも情報が少なすぎる……だな」
エドが顎に手を当て考えるようにする。
「で?」
「幸い、皆の評判は良い。 正式に部下として取ってやっても良いと判断する」
エドは、さらに深く考え込むようにする。
正直、エドの力を使えば判断は簡単なところだろう。
それ悩むと言うことは。
「イレブンについてだが、情報はなにも持っていなかった。 白紙だ」
と言うことだろう。
なら、それはそれで。
「それなら、裏で操っている奴がいるんじゃないか?」
「いや、それもいなくなった。 あの子は捨て子だな。 だからこそ、親の元に帰ろうとするのかも知らないが」
「それで判断がつかないのか。 そうか。 まだ泳がせるか?」
それで情報を得ても良いし、イレブンは使える。
出来れば欲しいところだし、信用したいが。
「信用したいが、疑わしい。 だが、あの子の実情を考えると、疑うのも酷だろう」
ウルフーーーー。
と、廊下から叫び声がこだまする。
「悪いが、説教が待ってるのでな。 行くぞ?」
「あの子は正式に入隊させる。 だから、貴様に任せるぞ。 ウルフ!!」
「任せてくれ。 部下を傷つけるような真似はしないさ」
さぁ今夜は長くなりそうだ。
説教は眠くなるから嫌いなんだよな。




