プロローグ そして、死んだ
グーテンモルゲン、お前たち。
お前たちとの出会いに感謝しよう。
お前たちのことは……そうだな。
仮に、マイフレンドと呼ぼうか。
フレンド……わかるだろ?
なってくれるといいんだけど……え、いやだって?
なんだってそんな断るんだ。
俺はお前たちとフレンドになりたい。
あっ、あれか。 英語なのがいやなのか?
わかったわかった。
なら、こうしよう。
友達。
なぁ、頼むよ。
辛いことも、苦しいことも、そういったことが共有できる友達が欲しいんだ。
じゃないと、俺……お前たちのこと。
えっ? なってくれるのかい?
やったーありがとう。
じゃあ……早速。
「バイバイ。 トモダチ」
軽い金属音が響く。
3発。 ベレッタ特有のスライドと、薬莢の落ちる音。
銃声は、先に付けられた消音器によって限りなく透明な音となっている。
「あーあ。 この距離でも返り血が飛ぶのか」
もともと赤いワイシャツに血が付着して、それを嘆く。
ワイシャツには一部白いところが残されているが、血とほぼ同じ色である。
返り血はあまり目立たない。
「誰かね」
男は物陰に向かって言葉をかける。
ガサリ。
物音がしたようなしないような、何かがいる気配を察する。
チャキ。
銃を構える。
だが、今度は気配が漏れる様子はない。
「よく、訓練をされている」
両手で銃を構える。
それでも、まだ気配は漏れない。
引き金をゆっくりと……しぼる。
まだ、気配は漏れない。
手ブレを修正しながら、すぅっと息を吸う。
そして、止めた。
いまだに気配が漏れることはない。
よし、撃つぞ。
そうして、引き金を引こうとした。
その瞬間、周りが照明で照らされた。
眩しい。
見つかったという焦りはなかった。
純粋に眩さだけを感じていた。
「お前、運がいいな。 俺と、友達にならずに死ねるぜ」
次の瞬間、制圧射撃が行われる。
物陰は……あの者がいるところしかないか。
ちょうどいい。
人質に使うか。
弾丸が到達する前に、物陰に飛び込む。
とりあえずは発砲が終わるまで飛び出すことはできない。
物陰の中に、頭を見つける。
白い髪……ロシア系の人間か。
女の子……のようだ。 人質にするのは、子ども。
特に、女の子は効果が高い。
女の子は唇を噛んで震えながら必死に気配を殺していた。
ちょうどいい。
やがて銃声が鳴り止む。
ベレー帽子を身につけた男がこちらへ一歩踏み出した。
「セイジャ・サガナ。 大人しく出てくれれば、今すぐは殺さない。 このまま反応がなければ今度は、ここで骸になるだろう」
結局殺すんじゃねえか。
無茶言いやがって。
男は、少女を掴みながら、銃を突きつけ立ち上がる。
「人質だ。 大人しくしないとこの娘の命はないぜ」
ベレー帽が、やれやれとジェスチャーを行う。
「今更、そんな少女のために貴様を逃すような状況ではない。 その子には世界平和の礎になってもらう」
…………予想の範囲内だ。
まぁ、このシチュエーションは何度も経験している。
今回も逃げられる。
「悪く思うなよ? お前たちの選択した結果だ」
逃げるのに効果のなさない人質は邪魔なだけ。
始末して逃げるに限る。
引き金に手をかける。
絞り……引く…………だけ。
ーー弾けない。
突如、吐瀉物が食道を駆け上がる。
なんとかそれを押し込めるが、口の中が猛烈に辛くなる。
気分が悪い。 気持ちが悪い。
「くそっ」
俺は、そう呟くと、少女の足を折ろうとする。
手当てに人員を割かせることで投げやすくしようと考えた。
だが、それすらできない。
やっぱりダメなのか。
腕を振り回しながら、ベレー帽めがけて発砲する。
それは、綺麗に命中をして、地の一面に綺麗なザクロを実らせた。
振りながらの自動拳銃の射撃は薬莢の排出を妨げたようで、次の射撃が円滑に行われない。
「隊長がやられた。 行くぞっ!!」
よく訓練されているようで、目の前で隊長がやられたにもかかわらず、統率がよくとられている。
弾づまりをおこし、使い物にならなくなったそれを奴らに投げ捨ててから、振り返る。
スタングレネード。
安全ピンを抜き、レバーを引く。
あとは投げつけて逃げるだけ。
だが、男は見てしまった。
明後日の方向を向く、敵の銃口を。
その先に座り込む少女を。
「あーあ。 あと7億……だったのに」
銃声が聞こえた時には、もう動き終えていた。
少女をかばい空いた風穴。
そこから暖かい、いわば生気を垂れ流しながら。
俺の意識は薄れていった。
「やったー。 9割殺しをついに仕留めたぞ」
「しかしバカなやつだ……こんな人形なんかのため……に?」
群衆たちが喜んでいる中、泣きながら俺の手を握っている。
その少女の姿こそが……薄れゆく意識の中……最後に…………みたこうけいだった