一ノ噺『快晴』
「まーゆーちゃーんっ」
その猫なで声で、待雪の身体が強張る。
城の一角にある図書館にて読んでいた魔導書を閉じて振り向くと、案の定そこにいたのは、取り巻きの女子を従えてニヤニヤ笑っている京谷莉華奈。
「リカねー、武器買いたいんだけどお金なくてさぁ…、五千ゴールドでいいから貸してくれない?」
ニヤニヤ顔をずいっと近づけて言う莉華奈に、待雪は小さい声で反論する。
「う、嘘…。武器なんて買わないくせに…っ」
消え入りそうな声だったが、鼻の先が付きそうなほど顔を近付けられているので聞こえているだろう。
「こ、のまえ、貸した、お金も…まだ返してもらって」
ない、と言おうとした瞬間、腹部に痛みが走る。
「うぐっ…!!」
「るせーんだよ陰キャ」
鉄拳を放った張本人の莉華奈は、蹲った待雪を真顔で見下し、吐き捨てる。
「いいから黙って金出せよ。スキル無し」
莉華奈の後ろで、取り巻き達がクスクス笑う声が聞こえる。
莉華奈は、待雪の落とした魔導書を拾い上げる。
「こんなん読んでも、才能の無いお前に習得出来るわけねーだろ?まあ、リカちゃんはお前と違って天才だからぁ~?ここに書いてる魔法は全部使えるけど~?」
言って、莉華奈は待雪に手をかざす。
「っ!」
瞬間、窓から射し込む光からリボンが生まれ、待雪の手足を拘束した。
「じゃ、リカに逆らった罰として、お前に支給された今月分のお小遣い、全部もらっておくからねっ!」
言って、、莉華奈は待雪の懐に手を突っ込み、手持ちの金を全て奪っていく。
「アハハッ!!リカマジやべー!」
「ちょっとー、ゴキブリいじめるなんてかわいそうだよ~」
取り巻きのうち、特に莉華奈と親しい祭原と伊東がケラケラと笑う。
待雪は、もう言い返す気力もなかった。
と、急に光のリボンがピンと張り、待雪の身体は爪先が床に触れるか触れないかの位置まで持ち上げられる。
「きゃっ…!?」
「じゃあ、リカたち帰るから。無能と違ってこっちはお仕事があるから大変なんだよ~?そのリボンなら、太陽が沈んだら消えるんじゃない?曇りでも消えるだろうけど、今日は快晴だからねー」
莉華奈は、ひらりと手を振って笑う。
「あと10時間、頑張ってね~」
去り行く集団を、待雪は諦めにも似た感情で見送った。
誰かが通りかかるのを待とう。その人が助けてくれるかは知らないけど。
そう思いながら、待雪はぼーっと足元を眺める作業に入った。