サンダース軍曹
行政の仕事には三種の神器がある。法律、予算、組織の三種である。正攻法で事を成すにはこの三つがすべて必須になる。不法投棄対策に関して言えば、法律は緩く、予算は少なく、組織はなきに等しかった。筆者が初めて不法投棄現場を見たころは、ミニ処分場(許可規模未満最終処分場)や自社処分場(中間処理業者、解体業者、金属シュレッダー業者などが設置した自社用の最終処分場)という法の抜け道があった。予算は乏しくパトロール車両は一台、監視担当者は本庁に四人、現場事務所はなかった。常識的に考えて、これで何百台もやって来る不法投棄ダンプを追い返すのは無理である。1997年の廃棄物処理法改正で、ようやく法律はいくらか厳しくなった。マニフェストが義務化され、ミニ処分場は廃止され、罰金が一千万円(法人一億円併科)となった。1999年には全国でも珍しい夜間パトロールチーム「グリーンキャップ」が千葉県に発足し、自治体が予算と組織を挙げて取り組むようになった。2000年改正法では排出事業者の責任を厳しすぎるくらい厳しく咎める規定が盛り込まれた。2003年には大規模不法投棄現場の撤去費用を国が補助する特定廃棄物支障除去特措法ができ、青森岩手県境不法投棄と香川県豊島不法投棄が初の適用例となり、いずれにも数百億円の予算がついた。こうして法律、予算、組織による不法投棄防衛網が整った。だが夜間パトロールを初めて試した時は、激戦地区に援軍もなく取り残された歩兵が孤軍奮闘するコンバット(アメリカABC1962~1967)のサンダース軍曹のような心境だった。