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戦いの行方

激化する戦いは、目まぐるしく形を変えて展開していた。

「今回は手加減なしだ。死ね……ゼル」


「へ……へへへ……」


 シェキーナから対戦相手を切り替わったカナンは、その切っ先をゼルへと向けてそう凄んだ。

 軽口が信条のゼルだが、流石に本気となったカナンを前にしては乾いた笑いを浮かべるより他に無かったのだった。


「シェキーナ……貴様―――……っ!」


「お前とはこうして剣を交えたかったんだ……アルナ」


 一方アルナは、シェキーナに肉薄されて接近戦を余儀なくされていた。

 本来の職業(クラス)が僧侶であるアルナにとって、シェキーナの相手は荷が重いと言うのが事実だった。

 それでも彼女は、シェキーナの動きに良く付いて行っていた。

 ……体中を斬られながらも……だが。


「やっぱり……食えん男やな―――……ベベル」


「あんたほどじゃあないけどな―――……メルル」


 そしてメルルは、動きの読めないベベルに四苦八苦と言った処だった。

 メルルの魔法をよく理解しているベベルは、微妙に動きを逸らしながら彼女に魔法の照準を付けさせない。

 漸く放った魔法も、ベベルの持つ双槍を駆使した槍術で防がれてしまっていたのだった。


 メルルがもしも本気で攻撃に専念すれば、さしものベベルもこうも防ぐ事は出来なかっただろう。

 だがメルルは、今は“本気”で攻撃する事が出来ずにいたのだった。

 彼女の十八番“第三の眼(テルツォマティ)”。

 自身の意識と精神、魔力を3等分し、3種同時に魔法攻撃を行う彼女だけのスキル。

 しかしメルルは今、ベベルに対して1つの意識でのみ攻撃を繰り出していたのだった。


 そして残りの2つは……。


 シェラに苦戦しているエルスの防御に回していたのだった。


「そら―――っ!」


「ぐ……っ! くそっ!」


 今のエルスは、常時のアスタル達よりも強い程度でしかない。

 当然、“秘薬”を服用したアスタル達には及ばず、そんな彼等を返り討ちにして来たシェラ達に敵う筈も無かった。

 それでも未だにこの場で剣を振るう事が出来ているのは。

 メルルの防御魔法が、シェラの凶刃から彼を護っていたからに他ならなかった。

 

 明らかに反応の遅れるエルスの身体を、シェラの愛刀が捉える。

 その直後、耳障りな異音が響きシェラの攻撃が弾かれる。

 そんなやり取りが頻繁に行われていたのだった。


 戦場では、1対1と言う状況自体が珍しい事だ。

 余程の事でもない限り、その様なシチュエーションとなる事は無い。

 倒せる時に、倒せる者を、確実に倒せる人数で倒す。

 これが戦場の本質だ。

 そしてそれは、パーティともなれば顕著となる。

 パーティとは何も、個々の技が違う者を集った「寄せ集め」では無い。


 勇者、剣士、戦士、狩人、槍使い、暗殺者、僧侶、魔法使い……。

 

 確かに個性的ではあっても、それだけでは単に「変わった一団」である。

 強さは兎も角として、バランスを考えれば必ずしも適切では無いかもしれない。

 それでは、パーティとは何を指すのか。


「ぐはっ!」


 カナンの蹴りを喰らって、ゼルがもんどりうって倒れる。

 カナンはその反動を利用する形で方向転換を図り、影のような動きでベベルとの間合いを詰めた。


「おお―――っと!」


 低い位置から切り上げる様なカナンの斬撃を、ベベルはそれでも上手く往なした。


「……ふん」


 そんなベベルに、カナンは固執する事無くすぐに間合いを取った。

 その直後。

 ベベルの意識がカナンへと向いた一瞬の間隙をぬって、メルルの魔法が炸裂する。


「ぐはっ!」


 至近距離で起こった爆発に、ベベルは緊急回避するだけで精一杯だった。

 それでも爆裂の余波を受け、その身体にダメージを負ったのだった。

 カナンはそのまま、アルナへとその剣を向ける。


「今度は……カナンかっ!」


 アルナは防御魔法を全開にして、貝の様にその内側へと閉じこもるより他は無かった。


「アルナッ!」


 エルスと切り結んでいたシェラがアルナの劣勢を察して声を上げるも、その場に駆け付けるまでにはいかなかった。

 何故なら、アルナを攻めていたシェキーナが、今度はシェラを相手取って剣を振るい出したのだ。


「シェ……シェキーナッ!」


「ふふ……シェラ。こうして剣を交えるのは、何年ぶりかしらね?」


 カナン程の剣技を持たないシェキーナだが、その流れる様な剣技は舞いを思わせる程。

 さしものシェラも、彼女を即座に黙らせる事など出来なかった。

 そしてエルスは、そのままゼルと対峙していた。


「エルスゥ―――。俺の為に死んでくれよ―――」


「……ゼルッ!」


 相変わらず欲望丸出しのゼルを前にしても、エルスには怒りや憎しみでは無く哀しみが浮かんでいた。

 先程の決意に偽りはなく、ゼルを……いや、彼だけでなく、以前の仲間達に剣を向ける事に躊躇いは無い。

 それでも、如何にも変容してしまったゼルを見ると、以前の関係を思い出して虚しくなるのだった。

 そんなゼルの攻撃に、一切の躊躇は無い。

 素早く動き出した闇がスルスルとエルスへと近づき、その急所に刃を突き立てようとする。


「くっ!」


 それでもその攻撃は、メルルの魔法により防がれた。

 またしても防御障壁特有の異音が発せられる。

 しかし今度は、弾かれて終わり……とはならなかった。

 彼の持つ2本の短剣は、魔法防御を易々と斬り裂く事が出来るのだ。

 そして今回も、彼の双剣はエルスの身体を防いでいた魔法防御を引き裂こうとするも。


「うおっとっ!」


 それが達成される前に、エルスが持っていた剣を薙いだのだった。

 即座に大きく退いたゼルに傷は無い。

 以前のエルスならば、その一撃でゼルの身体は2つに分割出来ていただろう。


「おいおい……本当に弱くなっちまったのかよぉ……エルスゥ」


 そのセリフだけ聞けば、まるでエルスを慮っているかのように聞こえなくもない。

 だがその表情には、何とも厭らしい、下卑た笑みが浮かんでいたのだった。


 この様に、パーティとは互いを補い協力する事で、その力を底上げし効率を上げる効果があるのだ。

 そして本当ならば、その様に機能しているパーティを喜ぶべき処だろう。

 実際、アルナ達のパーティはエルス達に翻弄されて後手に回っている。

 しかしエルスは、そんな中に在って苦々しい思いに駆られていたのだった。


 理由は明白である。

 自分の現在の実力が、シェキーナ達に負担を掛けている事が身に染みていたからだ。

 今、この場に立っている事でさえ、彼女達の助力が無ければ不可能な事だった。

 パーティとしては機能している。

 だがそれは、敵を倒す為の物では無い。

 自分を……エルスを護るための動きなのだ。

 それは、彼にしてみれば苦痛と言い換えても良い事だった。





其の囚わるるは(クリミナル・)茨の(ロサ・)牢獄(カルケル)荊棘の(ホーザ・)園にて(サート・)洗礼を与えるは(オーラティオー・)幾億の(メギストス)……薔薇(ワルド)っ!」


 シェキーナが、シェラと激しい打ち合いを繰り広げながらも魔法を詠唱した。


「ちいっ!」


 それに気付いたシェラであったが、どれ程攻撃を加えようとも彼女が魔法を唱える事を止めるまでには至らず。


 シェキーナの魔法が発動した。


 突如として足元より発現する巨大な……植物。

 長い茎を一気に天へと成長させながら、周囲一帯に密生したのだった。

 その胴部には大きな棘をびっしりと纏い、触れる者を傷つけ斬り裂く。

 そしてそれは、シェキーナは勿論、エルス、カナン、メルルの周囲を除いて、大地を埋め尽くすかのように湧き続ける。


「くっ!」


 足元の地面から、まるで突き刺す様に生えて来る茨の植物に、シェラも防御を余儀なくされる。

 当然それは彼女だけでなく、アルナ、ベベル、ゼルも同様である。

 魔法防御で防ぐ者、剣技や槍術で只管切って捨てる者、回避に専念する者。

 その様子はそれぞれであっても、防御に集中し攻撃できないのに違いは無かった。

 

 そしてシェキーナの魔法に連動して、再びエルス達はその立ち位置を変えていたのだった。

 

 そしてエルスは……この戦いに加わる事(・・・・)を決意する。


 それは……終焉へと向かう為の決心でもあった。


最期の決意を固めるエルス。

戦いに加わるためには、他に手段は……ない。

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