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タイムリミット7200  作者: 古川ムウ
22/23

<22>

 プレハブ小屋のドアが、激しくノックされた。

 「開けろ、警察だ」

 清水が叫ぶ。

 だが、中には気絶状態の詠美しかいない。

 美奈はリーダーの指示を受け、既に退去していた。


 「おい、開けろ」

 清水がドアノブをガチャガチャと回すが、詠美は目を覚まさない。


 直後、窓が大きな音を立てる。

 ガラスの割れる音だ。

 割れた窓から、井手が室内へ飛び込んできた。

 井手は詠美を見つけ、素早く接近する。


 「おい、詠美」

 微動だにしない詠美を見た井手は、慌てて彼女の脈を取り、生きていることを確認する。

 詠美の首に目を向けると、MG=フィンのタイマーは残り4分を切っている。

 「待ってろ、すぐに助けてやるからな」

 井手は首輪の後方にあるダイヤルに手を伸ばす。

 ほぼ同時に、ドアから銃声、そして鈍い金属音がする。

 清水がドアノブを壊し、乗り込んでくる。

 ニューナンブM60を構えた清水は、すぐに井手へと駆け寄る。


 「それがMG=フィンか」

 「しばらく黙っていてくれ」

 井手は厳しい口調で告げる。

 そして1つ目のダイヤルをゆっくり回し、解除ナンバーを探る。


 ヒッチ時代にも、彼はMG=フィンを外す作業をやった経験がある。

 設定された解除ナンバーにダイヤルをセットすると、他の数字とは違う感触、わずかに引っ掛かる感触があるのだ。

 それは素人では判別不可能な違いだが、井手には分かる。

 いや、詠美を助けるためには、絶対に分からねばならない。

 その時の感触を思い出しながら、井手は慎重に、かつ急いで事を進める。


 1つ目、井手は“1”で違う感触を覚え、ダイヤルをセットする。

 タイマーは残り3分を切っている。

 すぐに井手は2つ目のダイヤルに移る。

 ゆっくりと回し、感触を確かめ、“2”でダイヤルをセットする。

 続いて3つ目。

 “1”でセット。

 タイマーの残り時間が2分を切る。


 最後の4つ目。

 “1”に引っ掛かる感触。

 全てセットし、ダイヤル部分で首輪を横に引っ張ろうとする。

 しかし、井手は嫌な予感に見舞われ、手を止める。

 「本当に、これで合っているのか・・・・・・?」


 間違っていれば、詠美の命は無い。

 井手が焦る。

 「急げ、時間が無い」

 清水が叫ぶ。

 タイムリミットまで残り1分を切る。


 試しに井手は、4つ目のダイヤルを“2”に合わせる。

 すると、“1”の時と同じ引っ掛かりがあった。

 「まさか」

 すぐに井手はダイヤルを“3”に合わせる。

 またも同じ感触だ。


 「くそっ、どうなってるんだ」

 井手は他の数字も確認してみたが、どれも同じように引っ掛かる感触があった。

 「むうっ・・・・・・改良してあるのか・・・・・・」


 タイムリミットまで残り30秒。

 井手の額に冷や汗がにじむ。

 「おい、何をしてるんだ」

 清水の声が上ずる。

 残り20秒。

 そこで井手の脳裏に、ある推測が浮かぶ。

 「待てよ、121と来て、ひょっとすると・・・・・・」


 井手は、4つ目のダイヤルを“4”まで回す。

 残り10秒。

 「頼むっ」

 井手は目を閉じ、思い切って首輪を横に引っ張る。

 するとMG=フィンは、詠美の首から外れた。

 「おおっ」

 見守っていた清水が、思わず大きな声を出す。

 タイマーは残り5秒で停止していた。

 井手は首輪を部屋の隅に放り投げる。


 「1214か。ふざけた解除ナンバーを設定しやがる」

 そう言って、井手は深く息を吐いた。

 「その1214という数字に、何か意味でもあるのか」

 清水が尋ねる。

 「俺の誕生日が12月14日だ。くそったれめ」

 井手が吐き捨てた。


 その時、詠美の目がボンヤリと開いた。

 ようやく、目を覚ましたのだ。

 「えっ・・・・・不二雄さん・・・・・・?」

 うつろな目で、彼女は目の前の男を確認しようとする。

 「ああ、俺だよ。詠美」

 井手は心を抑制し、安心させるために穏やかな態度で話し掛ける。

 「もう大丈夫だ、何も心配しなくていい」

 「そう・・・・・・」

 詠美の口元が、わずかに緩む。


 「あなたが来たのなら、もう安心ね」

 その言葉に、井手の胸は締め付けられる。

 彼は痛切な表情で、詠美をギュッと抱き締めた。

 「ごめんな、こんなことに巻き込んで」

 「いいのよ・・・・・・」

 詠美は、逆に井手を励ますかのように言った。

 「いいシーンだな、この野郎」

 清水は、照れ隠しのようにそう言った。


 「刑事さん、詠美を病院に運びたいんだが」

 井手は詠美を抱き締めたまま、そう清水に告げる。

 「彼女は衰弱しているだろうし、このまま家へ返すわけにはいかないだろう」

 「そうだな。そうしよう」

 清水は携帯を取り出し、電話を掛ける。

 「俺だ、清水だ。急いで救急車をよこしてくれ。詳しいことは後で説明する」

 簡潔に住所だけを告げ、清水は電話を切った。

 「すぐに救急車が来る」

 清水は、井手に告げる。

 「そうか、良かった」

 井手は詠美の髪を優しく撫でながら、深くうなずいた。


 「後は、最後のカタを付けるだけだな・・・・・・」

 「カタを付ける?」

 「ああ」

 井手は、遠くを見据えて言った。


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