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「これは・・・・・・何だ?」
清水は、動画の一部分に神経を集中させた。
動画の終わり近く、カーテンの隙間からわずかに見える外の景色に、彼は気になるものを見つけた。
どうやら通りを挟んだ向かい側の建物、その一部が映っているようだ。
その建物の柱らしき部分に、何やら黒いものがある。
最初は点にしか見えなかったが、やがて、それが何かの形を示していると分かった。
だが、周りが暗いこともあり、何の形なのかが判別できない。
そんな清水の様子をチラチラと見ながら、米近は家宅捜索を続けている。
「ああ、目がボンヤリしてきた」
ずっとパソコンの画面を見続けていたせいで、清水の目は充血してきた。
彼は強く目を閉じて上から手で押さえ、再び目を開いて動画を見る。
「これは、文字・・・・・・あるいは数字か・・・・・・?」
少しずつ動画をスライドさせ、必死で分析を試みる。
「待てよ・・・・・・どこかで見たような・・・・・・」
清水は腕組みをしながら、窓際へ行く。
ビルに面した道路を見下ろしながら、思考する。
「そうか!」
清水がポンと拳を机に叩き付ける。
それから、サッと携帯電話を取り出した。
城南署に連絡しようとした清水は、電源が切れていることに気付いた。
「んっ?」
すぐに彼は、米近が携帯を掴んだ時のことを思い出す。
「そうか、あの時、ボタンに手が触れたんだな」
清水は小さく言って、電源を入れる。
「清水刑事、署に電話ですか。でしたら自分が」
米近が近寄って来る。
「いや、いい。俺がやる」
清水が言い終わるのと同時に、携帯電話の発信音が鳴った。
「誰だ?」
首をかしげながら、清水は通話ボタンを押す。
「なぜ電源を切っているんだ」
いきなり、相手の怒声が飛び込んできた。
「そんな電話があるか。まず名を名乗れ」
清水が言い返す。
「俺は井手だ。そっちは清水刑事だな」
「井手だと?」
清水が発した言葉を聞き、米近の頬がピクッと吊り上がる。
「お前、どうしてこの番号を?」
「そんなことより、アンタ、どこにいるんだ?」
「お前の部屋だよ」
「俺の部屋なら、電波が通じるはずだ。どうして東武さんに嘘を言う?」
「何のことだ?俺は嘘など言っていない。そんなことより井手、人質の監禁場所が分かったぞ」
「本当か?」
「ああ。監禁場所は・・・・・・」
続けて清水が話そうとした時、横から伸びてきた手が携帯電話を奪い取った。
「米近、何を・・・・・・」
抗議しようとした清水の動きが止まる。
米近は、スミス&ウェッソンM37を清水に突き付けていた。
「そこまでです、清水刑事」
言いながら、米近は清水の携帯電話を部屋の隅へと投げ捨てた。
「何のつもりだ?」
清水は緊張した面持ちで尋ねる。
「貴方を始末するのは、どうしようもない状況になるまで待つようにと言われていたんですがね。その状況になってしまったようです」
「まさか、お前は犯人の一味なのか?」
目を大きく見開き、清水が問う。
「その通りですよ。あなたを見張るために、ここへ来たんですがね。まさか殺すことになるとは」
「そうか、お前しか来なかったのは、そういうことか」
清水は察知した。
「俺の指示は、課長には伝わっていないんだな」
「当然ですよ」
米近は唇の端を吊り上げる。
「余計なことに関わらなければ、良い関係が続けられたんですけどね。残念ですよ、清水刑事」
彼は冷たい表情で、照準を清水の心臓に合わせる。
「携帯の電源が切れていたのも、偶然じゃないな。故意に切ったわけだ」
「ええ、そうです」
「何が目的だ?何のために、こんなことをする?須藤博士を殺して、お前にメリットがあるのか」
清水は背中の冷や汗を感じつつも、平静を装って尋ねる。
「僕にメリットなどありませんよ。僕はただ、与えられた仕事を遂行するだけです」
その時。
「お前の目的は金だろう」
別の方向から声がした。
「何っ?」
清水と米近が、共に声の方へと視線を向ける。
2人がドアの近くに立つ井手の姿を確認する。
ほぼ同時に、短い銃声が走る。
「ぐわっ」
米近の顔面が激しく揺れ、天を仰ぐ。
清水の傍らで、米近の体が崩れ落ちる。
井手がワルサーPPKを構えたまま、米近に近付いて絶命を確かめる。
「お前・・・・・・」
何か言おうとした清水を、井手が制する。
「もし殺人罪で逮捕するつもりなら、後回しにしてもらおう。それより、早く詠美の監禁場所を教えてくれ」
「お、おう、分かった」
冷徹な迫力に飲まれ、清水は同意する。
「きっと監禁場所は、このビルの向かいにあるプレハブ小屋だ」
「向かいだと?」
「動画の最後に、建物の柱と文字が見えた。文字は“那輪”と読めた。このビルの正面に書かれていたのと同じ文字だ」
時刻は10時54分。
タイムリミットまで、残り6分。




