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タイムリミット7200  作者: 古川ムウ
19/23

<19>

 井手はボディーガードへの事情説明を須藤に任せ、肘井と養陸の服を手早く探る。

 何か手掛かりが無いかと期待したのだ。

 だが、養陸のポケットからバイクの鍵が見つかった程度で、詠美の監禁場所に繋がるような手掛かりは無かった。

 井手はバイクの鍵を自分のポケットに突っ込み、須藤に携帯電話を借りて裏口から出た。

 須藤邸の近くに、ここまでの移動手段として養陸が使ったバイクがあるはずだと井手は推理していた。


 塀を飛び越えて外へ出た彼は、すぐ近くに放置してあるバイクを発見する。

 井手は持って来た鍵が合うこと、ちゃんとエンジンが掛かることを確認してから、携帯電話のボタンを押す。

 「もしもし?」

 相手が言葉を発した。

 井手が電話を掛けた相手は、森だ。


 「俺だ、井手だ」

 「やはりそうか。番号は違ったが、お前じゃないかと思ったよ」

 「事情があって、須藤博士の携帯を借りている」

 「電話が掛かってくるということは、少しは状況が好転したのか?」

 「むしろ最悪かもしれん。そっちに清水刑事は行ったか?」

 「来た。彼は那輪ビルで捜査を続けているはずだ」

 「ということは、お前は違う場所にいるのか」

 「笹島の家に向かっている」

 「そうか、なるほどな」

 井手は、すぐに森の行動意図を理解した。


 「お前の方は、どうなっているんだ?博士は無事なんだろうな」

 森が尋ねる。

 「ああ、須藤博士はもう心配いらない」

 「詠美さんの居場所は?」

 「残念だが、何の手掛かりも無い」

 井手は感情を込めずに告げる。

 「尾西にも協力を求めた。何か分かれば、俺の所に連絡が来るはずだ」

 森が言う。

 「そうか、分かった。こっちは詠美を探す。何かあったら報告してくれ。それじゃあな」

 井手は電話を切った。


 続けて彼は、別の所へ電話を掛ける。

 今の状況を尋ねるため、清水刑事に連絡を取りたかった。

 だが、井手は彼の電話番号を知らない。

 自分の部屋に固定式電話があれば、そこに掛ければ済むことだが、置いていない。

 しかし、今さらそれを後悔しても遅い。

 そこで井手は、清水の勤務する城南署に電話を掛けた。


 「はい、こちら城南署」

 女性の声がする。

 「捜査一課の東武課長に繋いでくれ。俺は井手不二雄という者だ」

 「はいっ?あの・・・・・・」

 井手は、女性が戸惑っている様子を感じ取った。

 「頼む、時間が無いんだ。早く東武さんに繋いでくれ」

 「わ、分かりました」

 井手の迫力に気圧されたのか、女性は了解した。

 すぐに、東武が電話に出た。

 「井手さんか、久しぶりだな」

 東武が言う。



 実は、井手と東武は面識があった。

 10年前、井手が重傷を負ったジャズバーに乗り込んできた男が、ヒラの刑事時代の東武だったのだ。

 東武は圧力にも近い上司からの捜査中止命令に背き、武闘派の暴力団を追い続けていた。

 そのために恨みを買い、命を狙われたのだ。


 その頃の東武は無鉄砲で、ジャズバーに乗り込んだ時は怒りから完全に我を忘れていた。

 暴力団員を撃滅した井手が血まみれで倒れているのを見た時、ようやく冷静さを取り戻したのだった。

 翌日、笹島から呼び出された東武は、ヒッチについて知ることになった。

 笹島は東武を観察し、言葉を交わした結果、信頼できる男だと確信した。

 そこで、絶対に口外しないよう約束させただけで、東武を帰らせた。

 実際、それから現在まで、東武はヒッチについて誰にも話していない。


 東武は井手が入院している間、何度も見舞いに訪れた。

 彼は自分の軽率な行動を詫びたが、井手は怒りも恨みも全く抱いていなかった。

 しかし東武の中では、それから何年も経った今でも、井手に対する後ろめたさがあった。

 それは自分のせいで井手が深手を負ったから、というだけではない。

 ジャズバーでの事件は内輪揉めとして処理されたにも関わらず、いつしか「東武が武闘派組織を壊滅させた」という噂が広まるようになったからだ。

 もちろん東武は否定したが、噂が消えることは無かった。

 命を助けられた上、手柄を横取りしたような形になったことで、東武は負い目を感じていたのだ。



 「悪いが東武さん、落ち着いて喋っている時間は無いんだ」

 懐古に浸ろうとする東武に、井手が鋭く言った。

 「人命が懸かっている。協力してくれ」

 「どういうことだ?」 

 「清水刑事から、何か連絡はあったか」

 「ああ、清水なら、電話が掛かってきたが」

 「どういう内容だった?」

 「ある事件の捜査で電波の届かない場所に行くから、しばらく電話は出来ないということだったが」

 「電波の届かない場所に?」

 「ああ、向こうから連絡するので、それまで電話は掛けてくるなということらしい」

 「そんな風に清水刑事が言ったのか?」

 「そうらしい」


 (どういうことだ?あまりに不可解な指示だな)

 井手は困惑した。

 だが、それによって当初の目的に変化が生じることは無い。

 「東武さん、清水刑事の携帯番号を教えてくれ」

 井手が告げる。

 「分かった」

 東武は疑問をぶつけることなく、すぐに番号を教えた。



 時刻は10時40分。



 タイムリミットまで、残り20分。


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