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タイムリミット7200  作者: 古川ムウ
13/23

<13>

 養陸は、雑誌を読むことにすっかり飽き始めていた。

 「俺は見張りをするために計画に加わったんじゃないぞ」

 愚痴がこぼれる。

 彼はシカゴの組織での経験を買われて、この仕事に引き入れられた。

 しかし、いざ加わってみると、少し話が違っていた。

 得意分野も担当するものの、それ以外に人質の拉致と見張りも要求された。


 拉致に関しては、やりがいのある仕事だと養陸は感じた。

 基本的に彼は、体を動かす仕事の方が好きなのだ。

 何もせずに同じ場所に留まっていると、イライラが募ってくる。

 同じ見張り役でも、まだ人質が逃亡する恐れがあるのなら、それなりに緊張感を持って仕事がやれたかもしれない。 

 だが、詠美はまだ気を失った状態だ。

 そんな状況では、気持ちが散漫になるのも仕方が無い。

 そして退屈が、再び養陸の判断力を低下させていく。


 彼は詠美に目をやった。

 長い黒髪、艶めかしい唇。

 胸の滑らかなライン、スカートから覗く足首。

 それら全てが、自分を誘っているように思えた。

 先程は美奈に邪魔されて注意を受けたため、しばらくは意識して見ないようにしていた。

 だが、それから少し時間を置いたことで、また性的欲望が高まりを示してきた。


 「バレなきゃいいんだよな」

 養陸は自分に言い聞かせるようにつぶやき、彼女に擦り寄った。

 標的は気を失っているため、抵抗される心配は無い。

 養陸は詠美の体を抱えて、そっと床に寝かせる。

 それから、両足を縛り付けているロープをほどく。

 彼女のスカートに手を伸ばし、膝上まで上げる。

 肉付きのいい詠美の太股が露になる。

 養陸はニヤニヤと笑い、スカートの中に手を入れてパンティーをずり降ろす。

 パンティーを広げて目の前に掲げ、匂いをかぐ。


 「変態だな、俺は」

 養陸は笑いながら、自虐的な言葉を吐く。

 腰のベルトを緩め、ズボンを脱ぐ。

 「待ってろよ、今ぶち込んでやるからな」


 その時。

 ガチャガチャ。

 ドアの方で、鍵が開く音がした。

 慌てて養陸は、下ろしたばかりのズボンを上げた。


 「勲、リーダーからの指示で・・・・・・」

 そう言いながら入ってきたのは、美奈だった。

 彼女の言葉は、途中で止まった。

 室内の様子が目に入ったからだ。

 彼女は詠美の状態と養陸の態度を見て、すぐに何が行われようとしていたかを察知した。


 「ちょっと、何やってんのよ」

 美奈が激怒する。

 「いや、俺は別に何も」

 アタフタしながら、養陸はベルトを締める。

 「何もってことは無いでしょ、レイプしようとしてたくせに」

 「そんなことは。ただ、どうも変な様子だったから、まだ生きているのかどうか確かめようとしただけさ」

 「下手な言い訳をしても無駄よ。だからリーダーにも言ったのよ、見張り役がアンタじゃ心配だって」

 美奈は携帯電話を取り出した。

 「おい、どこに掛けるんだよ」

 「決まってるでしょ」

 美奈の相手が電話に出た。

 「私だ」

 男の低い声。

 井手に指示を与えている男だ。


 「あっ、リーダー、こちらは美奈です。今、監禁場所にいます」

 「どうした、何かトラブルか」

 「勲が、人質をレイプしようとしていたんです」

 「告げ口なんて最低だぜ」

 養陸は小さな声で言い、美奈を睨み付けた。

 だが、美奈は軽蔑の眼差しで彼を見据え、リーダーとの会話を続ける。

 「だから最初から、私が見張り役の方がいいと言ったんですよ」


 「美奈、勲に代わってくれ」

 男は、重い口調で言った。

 「分かりました」

 美奈は無言で携帯電話を差し出し、養陸に代わるよう求めた。

 養陸は中指を突き立てて美奈への怒りを示しながら、携帯電話を受け取った。

 「何でしょう、リーダー」

 「殺されたいのか」

 いきなり養陸に浴びせられた男の言葉が、それだった。

 激しさは無かったが、静かな物言いは恐怖を感じさせるに充分だった。


 「私は、そこで人質を見張るよう、お前に命じた。そして人質に手を出すなとも、言っておいたはずだな」

 「え、ええ、それは確かに」

 養陸の顔が強張る。

 「つまり、お前は命令に背くつもりだったということになる」

 「そんなつもりは。ただ、ちょっとムラムラしてしまって。すみません」

 電話の向こう側には見えないにも関わらず、養陸は深々と頭を下げた。

 「この計画に加わった以上、命じた仕事はこなしてもらえねば困る」

 「それはもちろん理解しています」

 「そうでなくても厄介なことになりつつあるんだ。余計な面倒を起こすな」


 「あの、厄介なことって?」

 「城南署の刑事が動いている」

 「刑事が?」

 養陸の大きな驚きに、その声を聞いた美奈もビクッと顔を引きつらせて反応する。

 「井手の部屋に刑事がいる。須藤博士の暗殺計画にも、人質がいることにも気付いているようだ」

 「それはマズいですよ」

 養陸は、こめかみをポリポリとかく。

 「いっそ、今ここで人質を始末しましょうか」

 「慌てるな。まだ、その段階ではない。計画は少し変更を余儀無くされたが、破綻したわけではない」

 「だったら、その刑事を殺しますか」

 「いや、そちらは、しばらく様子見だ」

 「しかし、そいつがいなければ計画も上手く行くのでは」

 「そういう問題ではない」

 男は養陸の考え方を否定する。

 「何しろ相手は刑事だ、簡単に殺して構わないという人物ではない。余計に事を厄介にする可能性も考えられる。殺すという選択肢は、ギリギリまで取っておくべきだ」

 「分かりました」

 完全に同意したわけではなかったが、養陸は自分の意見を引っ込めた。


 「それから勲、今後の行動を指示しておこう」

 「俺は何をすればいいんですか」

 「お前は、もう見張り役は終わりだ。美奈と交代しろ」

 男は、冷淡に言い放った。

 「そんな」

 養陸は、困惑の顔になる。

 「ここまで来て、それは無いでしょう」

 「お前、見張りは退屈だと言っていたらしいじゃないか」

 「い、いえ、それは・・・・・・」

 養陸は、それも美奈が告げ口したのだと察知し、彼女に怒りの視線を向けた。

 しかし美奈は養陸の方を見ておらず、詠美の衣服の乱れを直している。

 「だけど、ここまで来て俺を外すんですか」

 「早とちりするな。今回の計画から外すわけではない。そろそろ次の任務に移ってもらうだけだ」

 「ああ、なるほど」

 養陸は、すぐに納得した。

 「というと、そろそろ例の仕事の時間ですか」

 「そうだ、クリーニングに行ってもらう」



 時刻は10時04分。



 タイムリミットまで、残り54分。


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