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養陸は、雑誌を読むことにすっかり飽き始めていた。
「俺は見張りをするために計画に加わったんじゃないぞ」
愚痴がこぼれる。
彼はシカゴの組織での経験を買われて、この仕事に引き入れられた。
しかし、いざ加わってみると、少し話が違っていた。
得意分野も担当するものの、それ以外に人質の拉致と見張りも要求された。
拉致に関しては、やりがいのある仕事だと養陸は感じた。
基本的に彼は、体を動かす仕事の方が好きなのだ。
何もせずに同じ場所に留まっていると、イライラが募ってくる。
同じ見張り役でも、まだ人質が逃亡する恐れがあるのなら、それなりに緊張感を持って仕事がやれたかもしれない。
だが、詠美はまだ気を失った状態だ。
そんな状況では、気持ちが散漫になるのも仕方が無い。
そして退屈が、再び養陸の判断力を低下させていく。
彼は詠美に目をやった。
長い黒髪、艶めかしい唇。
胸の滑らかなライン、スカートから覗く足首。
それら全てが、自分を誘っているように思えた。
先程は美奈に邪魔されて注意を受けたため、しばらくは意識して見ないようにしていた。
だが、それから少し時間を置いたことで、また性的欲望が高まりを示してきた。
「バレなきゃいいんだよな」
養陸は自分に言い聞かせるようにつぶやき、彼女に擦り寄った。
標的は気を失っているため、抵抗される心配は無い。
養陸は詠美の体を抱えて、そっと床に寝かせる。
それから、両足を縛り付けているロープをほどく。
彼女のスカートに手を伸ばし、膝上まで上げる。
肉付きのいい詠美の太股が露になる。
養陸はニヤニヤと笑い、スカートの中に手を入れてパンティーをずり降ろす。
パンティーを広げて目の前に掲げ、匂いをかぐ。
「変態だな、俺は」
養陸は笑いながら、自虐的な言葉を吐く。
腰のベルトを緩め、ズボンを脱ぐ。
「待ってろよ、今ぶち込んでやるからな」
その時。
ガチャガチャ。
ドアの方で、鍵が開く音がした。
慌てて養陸は、下ろしたばかりのズボンを上げた。
「勲、リーダーからの指示で・・・・・・」
そう言いながら入ってきたのは、美奈だった。
彼女の言葉は、途中で止まった。
室内の様子が目に入ったからだ。
彼女は詠美の状態と養陸の態度を見て、すぐに何が行われようとしていたかを察知した。
「ちょっと、何やってんのよ」
美奈が激怒する。
「いや、俺は別に何も」
アタフタしながら、養陸はベルトを締める。
「何もってことは無いでしょ、レイプしようとしてたくせに」
「そんなことは。ただ、どうも変な様子だったから、まだ生きているのかどうか確かめようとしただけさ」
「下手な言い訳をしても無駄よ。だからリーダーにも言ったのよ、見張り役がアンタじゃ心配だって」
美奈は携帯電話を取り出した。
「おい、どこに掛けるんだよ」
「決まってるでしょ」
美奈の相手が電話に出た。
「私だ」
男の低い声。
井手に指示を与えている男だ。
「あっ、リーダー、こちらは美奈です。今、監禁場所にいます」
「どうした、何かトラブルか」
「勲が、人質をレイプしようとしていたんです」
「告げ口なんて最低だぜ」
養陸は小さな声で言い、美奈を睨み付けた。
だが、美奈は軽蔑の眼差しで彼を見据え、リーダーとの会話を続ける。
「だから最初から、私が見張り役の方がいいと言ったんですよ」
「美奈、勲に代わってくれ」
男は、重い口調で言った。
「分かりました」
美奈は無言で携帯電話を差し出し、養陸に代わるよう求めた。
養陸は中指を突き立てて美奈への怒りを示しながら、携帯電話を受け取った。
「何でしょう、リーダー」
「殺されたいのか」
いきなり養陸に浴びせられた男の言葉が、それだった。
激しさは無かったが、静かな物言いは恐怖を感じさせるに充分だった。
「私は、そこで人質を見張るよう、お前に命じた。そして人質に手を出すなとも、言っておいたはずだな」
「え、ええ、それは確かに」
養陸の顔が強張る。
「つまり、お前は命令に背くつもりだったということになる」
「そんなつもりは。ただ、ちょっとムラムラしてしまって。すみません」
電話の向こう側には見えないにも関わらず、養陸は深々と頭を下げた。
「この計画に加わった以上、命じた仕事はこなしてもらえねば困る」
「それはもちろん理解しています」
「そうでなくても厄介なことになりつつあるんだ。余計な面倒を起こすな」
「あの、厄介なことって?」
「城南署の刑事が動いている」
「刑事が?」
養陸の大きな驚きに、その声を聞いた美奈もビクッと顔を引きつらせて反応する。
「井手の部屋に刑事がいる。須藤博士の暗殺計画にも、人質がいることにも気付いているようだ」
「それはマズいですよ」
養陸は、こめかみをポリポリとかく。
「いっそ、今ここで人質を始末しましょうか」
「慌てるな。まだ、その段階ではない。計画は少し変更を余儀無くされたが、破綻したわけではない」
「だったら、その刑事を殺しますか」
「いや、そちらは、しばらく様子見だ」
「しかし、そいつがいなければ計画も上手く行くのでは」
「そういう問題ではない」
男は養陸の考え方を否定する。
「何しろ相手は刑事だ、簡単に殺して構わないという人物ではない。余計に事を厄介にする可能性も考えられる。殺すという選択肢は、ギリギリまで取っておくべきだ」
「分かりました」
完全に同意したわけではなかったが、養陸は自分の意見を引っ込めた。
「それから勲、今後の行動を指示しておこう」
「俺は何をすればいいんですか」
「お前は、もう見張り役は終わりだ。美奈と交代しろ」
男は、冷淡に言い放った。
「そんな」
養陸は、困惑の顔になる。
「ここまで来て、それは無いでしょう」
「お前、見張りは退屈だと言っていたらしいじゃないか」
「い、いえ、それは・・・・・・」
養陸は、それも美奈が告げ口したのだと察知し、彼女に怒りの視線を向けた。
しかし美奈は養陸の方を見ておらず、詠美の衣服の乱れを直している。
「だけど、ここまで来て俺を外すんですか」
「早とちりするな。今回の計画から外すわけではない。そろそろ次の任務に移ってもらうだけだ」
「ああ、なるほど」
養陸は、すぐに納得した。
「というと、そろそろ例の仕事の時間ですか」
「そうだ、クリーニングに行ってもらう」
時刻は10時04分。
タイムリミットまで、残り54分。




