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タイムリミット7200  作者: 古川ムウ
12/23

<12>

 「清水刑事」

 探偵事務所のドアが開き、声がした。

 清水が振り向くと、濃紺の3ボタンスーツを着た男が、そこに立っている。

 「おう、米近」

 清水が軽く手を上げる。

 事務所にやって来たのは、清水の後輩刑事・米近経敏だ。


 「どんな状況ですか」

 米近は前髪をかき上げながら尋ねる。

 「お前、その癖はやめろ」

 清水は見咎めた。

 米近は緊張するとすぐに前髪をかき上げる癖があるのだが、それが清水は気に入らない。

 いつも注意しているのだが、なかなか直らない。

 「ああ、すみません、つい」

 米近は、慌てて右手を隠すような仕草を見せた。

 「大体、そんなに緊張するような状況じゃないだろう」

 「しかし、急を要する事件ですので」

 堅い表情で、米近は言葉を返す。


 米近は30歳、城南署に配属されて2年目になる。

 アイドル風の甘いマスクで署内の女子からも人気が高いが、未だに独身だ。

 まだまだ清水からすると刑事としては半人前だが、意欲の高さは伺える。

 そこを清水は買っており、何かと良く面倒を見ている。

 過激な考えを口にすることも多い男だが、それは熱い正義感から来るものだと清水は受け取っている。


 「それにしても、お前だけなのか、応援に来たのは」

 清水は、不満そうな表情で米近に尋ねた。

 「ええ、東武課長の指示で、そういうことになりました」

 「課長が?どういうつもりなんだ、あの人は」

 「何しろ隠密に行動せよという清水刑事からの指示でしたので、こちらは1人で充分だろうということに」

 「充分ってことは無いんだがな」

 清水は頬を引きつらせる。

 「いえ、充分というのは言葉のアヤですが」

 米近は慌てて弁明する。

 「しかし署の方では送られた動画の分析を急いでいますし、それに須藤博士の方にも人員が回っていますので」

 「そういう都合は分からないではないが、しかしなあ」

 「須藤博士の所で、現われた井手の身柄を確保すれば、犯人や監禁場所に繋がる手掛かりが得られると思います。早急に行動すべき中で優先順位を考えた結果、こちらに回す人員は最小限になったということです」


 「まあいい。その辺りで説明は終了しろ」

 清水は、さらに説明を続けようとする米近を制した。

 「時間に限りがあるんだ。ゆっくり喋っている時間は無い」

 「確かに、そうですね」

 米近はうなずく。

 「暗殺者が井手だけと仮定すれば、警官の人数の方が遥かに多いはずだから、博士の安全は確実だろう」

 清水が言う。

 「ええ」

 「俺たちが最優先すべきことは、人質の監禁場所を突き止めることだ。そのために、部屋を調べて手掛かりを探しているんだが」

 「何か見つかりましたか?

 「いや、まだ目ぼしい情報は全く見当たらん。せめて奥さんの住所ぐらい分かればいいんだがな。お前も手伝ってくれ」

 「分かりました、では私は奥の方から探します」

 米近は、井手の生活スペースへと入っていく。


 「ああ、その前に」

 清水は米近を呼び止めた。

 「何です?」

 「こっちでも監禁場所の動画をチェックしたいと思ったら、どうすればいいんだ?」

 「どうすれば、とは?」

 米近は、聞き返した。

 「つまり、動画を再生するにはどうすればいいんだ?」

 「再生ですか」

 けげんな表情で、米近がパソコンに近付く。

 「それなら、マウスでこのボタンをクリックすればいいだけですが」

 米近は、実際にやってみせた。


 「ああ、そうか。それと、この動画は途中で止めることも出来るのか」

 「もちろん出来ますよ」

 米近は一時停止やスロー再生など、幾つかの簡単な操作方法を教えた。

 「なるほど、分かった」

 「清水刑事、そこまで機械音痴なんですか」

 「悪かったな」

 「いえ、別に悪くはありませんけど。ただ、それでよく動画を署のパソコンに送ることが出来ましたね」

 「んっ?ああ、その操作だけは偶然にも知っていたんだ」

 清水は、目を反らしながら取り繕った。

 「さあ、そんなことより急がないと。人命が懸かっているんだぞ」

 清水は強い口調で告げる。



 時刻は10時00分。



 タイムリミットまで、残り1時間。


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