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年上の彼女  作者:
5/26

5 ストーカー退治

 3ヶ月くらい前に送られてきた一通の手紙。それが全ての始まりだった。

「隠し撮り?」

「そう。そんなのが郵便で1週間に1度届くようになったの。最近は気持ち悪いから開けてないけど。これってストーカーでしょ?」

 坂井真琴のマンションに向かいながら、成瀬弘樹は彼女の話を聞く。

 踏んづけて壊してしまったサングラスを弁償する代わりに、ストーカー退治を任されたのだが、話を聞いてもあんまり実感がわかなかった。

 ちなみに、真琴はもともとこのことを相談するために克也のもとへ行ったらしく、何を思ったのか弘樹を退治役に選んだ。

「これが写真」

 渡された2枚の写真を見比べてみる。1枚目は今の格好とあんまり変わりがない。違うと言えば、寒いのかやや厚着をしていることぐらいで、いつものように野球帽にサングラスをかけている。2枚目は・・・・カールした栗色の髪の毛を揺らして歩くかなり綺麗な女の人が写っていた。

「誰これ」

「私だよ」

 怒気を含みながら答える真琴。しかし、まるで同一人物だとは思えない服装の違いぶりに、とても信じられなかった。

「へぇ。馬子にも衣装とはこのことだな」

「あんたねぇ。年上に対する言葉遣いに気をつけなさいよ」

 サングラスがぎらりと光ると同時に、真琴は立ち止まった。なんだか高級そうなマンションの目の前で。

「ここが私の家」



 まず玄関はオートロック。それだけでもびっくりなのに、部屋も綺麗で広かった。さらに、1人暮らしをしているという。

「大学ってどこに通ってんの?」

「一応Y大学なんだけどね、あんまり行ってないんだ」

「頭いい上に、金持ちなんだ・・・」

 事情を知らない弘樹は部屋を無遠慮に眺める。女の子の部屋なんて唯の部屋以外入ったことがないので新鮮だった。

 その間、真琴はリビングのテーブルの上にぱらぱらと写真を出していく。これが全部ストーカーから送られてきたものだと思うと弘樹でも気味が悪かった。

 写真は真琴がベランダに出ているときと、マンション近くを歩いている姿が多い。

 弘樹はその内の1枚を手に取って尋ねる。

「ねぇ、例えばこのベランダの写真、どこから撮られたかわかる?」

「・・・たぶん、向かいの公園だと思うんだけど・・・・・」

 ちなみに、この部屋は5階。公園からでも十分写真が撮れる高さだった。

「いつもいつ頃ベランダに出てる?」

「決まってないよ。7時とか8時とか、洗濯物を入れるか出すかのどっちかだもん」

「オッケー。じゃぁ俺外で見張ってるから今までどおり普通に過ごしてて」

 そう言って、何枚かの写真を取って出て行こうとする。そんな弘樹を慌てて真琴は呼び止めた。

「・・・・・大丈夫なの?」

「うん。心配しなくても大丈夫だよ」

 ドアがぱたんと閉められた。


          ▽


「うぅ・・今日も疲れたー・・・」

 玉木有子が学校から帰宅し、自宅のマンション専用の駐車場に車を停めた。いつにもまして疲れたその体を引きずるようにしてマンションの玄関口に立つ。

 ふらふらとした頭で番号を入力し、オートロックの玄関を開ける。すると、ウィーンと機械的な音を立ててドアが開いた。

 そのとき、自分の追い抜いていく人の気配があった。

「・・・え?」

 顔を上げると、目の前を小柄な女の子が歩いている。背は低いが、お嬢様のような格好をしている。

 いつのまに後ろにいたのだろうか。少し気になったが、それよりもまず自分の体を休めたかったので、そのときは特に気にすることもなかった。


          ▽


 玉木が自分の部屋に戻っている頃、成瀬弘樹は写真のアングルと公園の位置を照らし合わせて、ようやくここだという場所を見つけた。写真はズームされて撮られたらしく、ずいぶん顔がアップになっている。

 弘樹は真琴の写真を眺めてため息をついた。

 それにしてもかわいい。もしも自分が唯を好きではなかったら、きっと真琴に一目惚れしているところだろう。だけど、簡単に唯をあきらめられるほど弘樹は大人ではなかった。

「・・・・・!」

 と、そのとき人影を見た。その人物はマンションの明かりのせいで逆光になっていたが、明らかに挙動不審な態度でマンションの前を行ったり来たりしている。

 怪しい・・・そう思った弘樹は後先考えずに飛び出してしまった。



「成瀬君!」

 本当はその人物の後を追おうと考えていたのだが、飛び出してからわずか3秒で見つかってしまった。しかし、それよりも自分の名前を知っていることに驚いた。しかも、その人物は―・・・

「玉木先生?」

「あぁ、よかった。違ったらどうしようかと思いました」

 彼女は微笑んで駆け寄ってくる。弘樹は混乱してその場に立ち止まってしまった。なんでここに先生がいるんだ?

「こんなところで何してるんですか?」

「いや、先生こそ・・・」

「私の家はそこのマンションなんです」

 そう言って、玉木は真琴と同じマンションを指差す。弘樹もそのマンションを見上げた。そして、違和感に気づいた。

「・・・!?」

 5階の真琴の部屋の電気が消えているのだ。確か、あそこが真琴の部屋だったはずだ。

 どこか出かけたのかと一瞬考えたが、弘樹の胸騒ぎは消えなかった。

「先生・・・最近このへんで変な人とか見ませんでしたか?」

「変な人?」

「なんでもいいんです!少しでもあれって思ったことでいいんです」

「あ・・・変な人っていうか・・・今日帰宅してオートロックの玄関を開けたとき、私の後から一緒に入ってきた人がいるんです。なんかそのことが気になってここまで出てきたんですけど・・・・・」

 まさか!最悪の考えが浮かんできてもう1度マンションを見上げた。あいかわらず消えた明かりを見て瞬間的にやばいと思った。

「先生!玄関開けて!」

 事情が飲み込めていない玉木を連れて、弘樹はマンションへと駆け出していった。


          ▽


 弘樹が出て行ってから、坂井真琴はすることもなく1人テレビを見ていた。しかし、間が持たなかったので、仕方なくいつもどおりにコンビニへ行くことにする。

 正直、自分の写真を隠し撮りされていると知ったときは怖かったが、今日弘樹が来てくれて、大丈夫だと言ってくれたから少し恐怖が和らいだような気がする。よくわからないが、どうも弘樹と話すと妙な気持ちになる。

 世間ではこういうのをなんて言うのか知っている。しかし、真琴は自分が年下の男を好きになるなんて真っ平ごめんだった。

「行こ・・・」

 ようやくコンビニへ行こうと考えたとき、部屋のインターホンが鳴る音がした。

 弘樹が忘れ物でもしたのかと思って、特に相手を確認することなく玄関を開けた。

「こんばんは」

 そこには弘樹ではなく、カメラを手に持つ女の子が立っていた。

基本的には弘樹を主人公にしていますが、

玉木視点で書くことも多いですね。

まぁ書きやすいというか……

ちなみに、克也はジョーカー的な役割で書いています。

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