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年上の彼女  作者:
26/26

最終話 年上の彼女は強い

 荷物を受け取り、税関、検疫、全ての帰国の手続きを終わらせて、玉木有子は帰ってきた。

 いよいよ出口のゲートに向かうだけだというときに、ふといつも少し後ろを歩いていた人物がいないことに気づいた。

「あれ・・・坂井さん?」

 振り返ると、坂井真琴が10メートルくらい後ろで立ち止まっていることに気づいた。慌てて傍へ行った。

「大丈夫です・・・一緒に行きましょう」

 日本の誰とも会わせる顔がないと言って、帽子に眼鏡をかけた真琴は、一見してもモデルの坂井真琴だとは気づかない。玉木は真琴の心中を察して彼女の顔を覗き込む。

「なんのためにここまで来たんですか」

 それを聞いて、真琴はこくっと頷いて歩き出した。

 2人はゲートをくぐった。



 そこには、多くの出迎えの人がいた。

 玉木は無意識に辺りをきょろきょろと見渡して、ある人物を探す。しかし、なかなか見つからなくて、仕方なく一旦人ごみの中から抜けることにした。

 そのときだった。

 目の前に菅沼克也が立っていた。

 嬉しくて、思わず玉木はがばっと抱きついてしまった。しかし、周囲の目が気になって慌てて離れようとしたとき、克也が背中に回した手を離してくれないことに気づいた。

「すが・・・ぬま先生・・・」

 そして、耳元で呟かれた。

「おかえり」

「ただいま・・・」

 なによりも、なによりも嬉しかった。



 しばらくして、克也が玉木を離し、後ろにいた真琴に向き直った。

「おかえり、坂井」

「・・・ただいま」

 顔を少しだけ上げた真琴が頷く。しかし、克也の傍に弘樹がいないことが気になったらしく、無言で克也を見る。玉木も同じ思いだった。

 しかし、すぐにそれに気づいた。克也の後ろから男の人が歩いてくることがわかった。真琴がその人物に釘付けになっていることに玉木は気づいた。

「おかえり」

 成瀬弘樹は呟いた。


          ▽


「そうしたらニコラ先生が本当に現れちゃったんです!もうほんとにびっくりで!それで、それで」

「はい」

「私たち慌てて・・・・・ってごめんなさい!私の話ばっかり」

 そのとき、ようやく自分の話ばっかりしていることに気づいて、玉木有子は慌てて黙り込む。延々とイギリスでの研修話をしていたのだが、本当に長い時間話していたようだ。いつのまにか外は真っ暗になっていた。

 しかし、その間、克也は嫌な顔1つすることなく玉木の話を楽しそうに聞いてくれた。

「もっと話してください。玉木先生が楽しいと俺も楽しいんです」

 にっこり笑ってそんなふうに言われると、恥ずかしくなってくる。こんなに幸せでいいのだろうか。

 いや・・・こんなに幸せなのはおかしい。きっと自分の思い違いだ・・・!

 と、そんなことを考えている玉木を見て苦笑している克也が目に入った。それだけで、言いようのない感情を覚えた。

 そして、気がついたら、玉木は自分から克也にキスしていた。

「え・・・・」

 お互いに驚いた瞳が至近距離でぶつかる。玉木は唐突に自分がしたことを理解した。

「すすすいません!なんか・・・したくなっちゃって」

 しかし、今度は克也のほうからキスをしてきて驚いた。角度を変えてもう1度。

「今日は・・・寝かせないって言ってもいい?」

「はっはい!飛行機の中でいっぱい寝てきました!」

 玉木は、克也の冗談とも本気ともつかない言葉を本気の言葉で返した。


          ▽


 弘樹・・・坂井・・・頑張れよ。


          ▽


 同じ頃、坂井真琴と成瀬弘樹は母校の科学室にいた。学校は休みだったが、たまたま部活動が行われており、その関係で校舎の中に入ることができたのだ。

 しんと静まり返る教室。ここが2人が出会った場所・・・

「元気だった?」

 弘樹からの問いかけに真琴はびくっとなった。何も言わずに日本を去っていったことを怒っていると思ったからだ。

「元気だったよ・・・そっちは?」

「うん、まぁ・・ぼちぼちだよ」

「あ・・あの・・・ごめんなさい・・・・せっかくY大学合格したのに一緒に通えなくて・・黙って行っちゃって、ごめん」

 ずっと言おうと思っていたことがようやく言えた。許してもらう気などなかったが、それでも淡い期待を抱いて俯き加減に弘樹を見る。

 弘樹はしばらく何も言わなかった。ただ、テーブルの上に座って、キーケースを指でもてあそんでいる。

「日本のみんながどう思ってるか知ってる?坂井さんがイギリスに行ったこと」

 それは聞きたくないことだった。自分は責任を全て投げ出して逃げてしまったのだ。

「無理やり日本に連れて帰された不幸な女の子だって思ってるよ。たぶん坂井さんが思ってるようなことは誰も思ってないから安心して」

「そ・・・そうなの?」

「うん。だから責任を感じることはないんだ」

 その言葉に少しだけ肩の荷が軽くなったように感じられた。真琴はほっとして力が抜けそうになったが、1番言いたかったことを思い出して気を取り直した。

「あのね・・・聞いてほしいことがあるんだけど」



「私、少年に会って・・・最初は生意気な後輩だなって思ったけど、少年が私の目を見て綺麗だって言ってくれたときからずっと・・・その、気になって・・・・・なんとか仲良くなりたくて・・・・・」

 支離滅裂に言葉が進んでいく。

 恥ずかしい。どんな仕事よりも恥ずかしかった。しかし、勇気を振り絞って言葉を紡いでいく。

「か、勝手だけど、こんなこと言える義理なんてないんだけど、私・・・弘樹が好きです」

 目を閉じて、なんとか恥ずかしさを紛らわせる。ひどいことをしたんだから、断られることぐらい覚悟している・・・つもりだった。だけど、ここまできて断られたらその後どんな表情をすればいいのかわからない。

 おかしいな。モデルだったんだから表情作るぐらいわけないのに・・・・・

「俺、不器用だよ?知ってる?」

 いきなり予想もしていなかった言葉が返ってきて、真琴は面食らった。彼はそのままこっちに歩いてくる。

「知ってる・・・」

「女心とかさっぱりわかんないよ?」

「知ってる」

「坂井さんより1日後に生まれたんだよ?」

「知ってる」

「俺・・・坂井真琴のことが大好きなんだよ?」

 目の前で弘樹が立ち止まる。真琴はどきどきしながら弘樹を見上げた。

「あ・・それと、俺スケベだよ?」

「知ってる」

 付け足された言葉に真琴は苦笑する。それと同時にぎゅっと抱きしめられた。


 嬉しくて嬉しくて、涙がとまらなかった。誰よりも優しくて、温かくて、大好きな人の背中を、真琴はぎゅっと抱きしめた。


          ▽


「唯ももう不倫はしないって約束したし・・・まぁ一件落着かな」

 後日、久しぶりに弘樹と克也は科学室に集まった。

「その後どーよ?玉木先生とは順調か?」

「おう。やっぱ年上の女の人っていいな・・・時々見せるギャップがいい」

「ギャップ?」

「ベッドの上とか」

 ああそうかいと適当にあしらった弘樹だが、ふとあることに気づいた。

「そういえば、真琴もちょっと違ったかも」



「ちょっと!!!」

 弘樹の言葉のすぐ後に女2人分の声が重なって聞こえた。驚いて声のしたほうを見ると、顔を赤くした坂井真琴と玉木有子の姿があるが、その顔は怒っているように見えた。

「なんてこと言うんですか!!ここは学校です!!」

「わっ!!有子さん、落ち着いてくだ・・」

「学校では名前で呼ばないでください!!」

 ばしーんと容赦なく英語の教科書が飛んできて、慌てて避ける克也。

「弘樹のスケベ!!ほんっと子供だよね!!」

「ごめん・・!冗談だっつーの!」

 反対に、直接攻撃を加えられる弘樹。




 ここでの年上の彼女は強かった。

真琴はたぶん跡を継ぐと思いますが

今は日本で暮らすことをおばあちゃんに許して

もらったんだと思います。だから帰ってきた…?


ハッピーエンドです。

この作品を読んでくださって本当にありがとうございました。

感想をくれた方々…本当に嬉しかったです!

ちゃんと読んでます!励みになってます……!!

これで終了ですが、また機会があったら別の小説で会えることを祈ってます。


―廉―

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