25 会いたい
最終回のつもりで書いたんですが
長すぎたんで2つに分けました。
今回は短めで、最終回は次にします。
克也の運転する車に乗りながら、成瀬弘樹は考え事をしていた。
『坂井真琴は世界で最も権力が高いと言われる財閥の孫』
初めて克也にそれを言われたときは、正直なぜ冗談を言うのかわからなかった。しかし、実際に今日の朝刊を読んでそれを実感した。
昨日、真琴の祖母に当たる人が勝手に会見を開き、真琴を強制的に本拠地のイギリスに連れて帰ると言う。
「俺も詳しいことは知らなかったよ。ただ、事情で親の名前をここには書けない・・って言われたから保証人になったんだ。なんかあるってことは坂井先生の態度でなんとなく気づいてたからな」
運転席からミラー越しに弘樹を見る克也。一瞬だけちらっと見ただけで、弘樹はまた俯く。
今真琴が日本にいるのか、すでに別の所にいるのかはわからないが、それでも空港に行きたいという願いだけで向かっていく。
「悪かったな・・・」
突然の克也の謝罪に弘樹は驚いた。
「なんで謝るんだよ」
「こんなゴタゴタに巻き込まれてなきゃ、もっと早くに坂井のところに行けたのにな」
「別に俺が勝手に首突っ込んだだけだし・・・克也のせいじゃねーよ」
弘樹はシートにもたれていた体を起こした。ようやく寝不足だった体が元通りになってきた。
「なんで姉ちゃんは克也に告ったんだろう・・」
「女心なんだと」
答になっていない返答。しかし、弘樹はそれ以上追及しようとは思わず、疲れ果ててまたシートにもたれかかる。
車のラジオから坂井真琴がすでにイギリスに飛び立ったとのニュースが流れたのはそのときだった。
「ごめん・・・間に合わなかった」
自分のせいじゃないのに克也はうなだれる。弘樹は何も考えずに首をふるふると振った。
「元々年下だから興味ないって言われてたし、行ったってごめんなさいって言われるだけだから」
「そんなわけないだろ・・・お前、気づいてないだけだ。ちゃんと自分の気持ちを言えば・・・・」
「俺はただ・・・・・」
克也の言葉を弘樹は途中で遮った。
「坂井さんに誕生日おめでとうって言いたかっただけなんだ・・・・・」
▽
月日は流れていく。
季節は夏にさしかかろうとしていた・・・
▽
「よー弘樹!久しぶり!」
月曜日、大学の授業がたまたま休講になった3限時、ちょうど高校の創立記念日で休みになった克也が大学に遊びに来た。
「ほんと久しぶりだな」
成瀬克也は苦笑しながら食堂で出迎える。
あれから4ヶ月と少し。弘樹と克也は久しぶりに顔を合わせることになる。とは言っても、お互いにたいして変わりない姿に特に感動を覚えることなく席に着く。
それと同時に、周囲の女子の視線が克也に向く。いくら三十路前でも確かにルックスだけは衰えてないらしい。
「やべ・・・・大学生活またやり直そうかな」
「やめとけって。玉木先生に会えなくなるよ」
「その話は反則だろー・・・ただでさえ今会えなくて寂しい人生を送ってんだから」
嘆くように克也は言うが、急にがばっと起き上がって真剣な面持ちで弘樹を見てくる。
「ってか、俺の話をしに来たんじゃないっての。ようやく連絡が取れたんだ、坂井と」
坂井真琴は日本中の様々な思いを残し、日本から去っていった。
まずは仕事。受けていた仕事は全て断ってしまったらしい。これで、世間の坂井真琴に対する印象が変わった。
元々真琴は財閥の家系に生まれたそうだが、真琴の母が日本で坂井先生と会ってカケオチし、勘当された。しかし、その跡継ぎがそろって電車事故に遭ってしまったらしく、急遽最後の跡取りである真琴を連れ戻したとの話だった。
結構勝手な話だ。
「イギリスに研修中の玉木先生が坂井に会ったんだって」
「・・・・すげー偶然」
「だな。それで、玉木先生が帰国するとき、一緒に坂井も帰ってくるって」
「え・・・!」
思わずがたっと立ち上がると、周りの学生に何事か不思議そうに見られた。しかし、そんなことはお構いなしに弘樹は克也に詰め寄る。
あれから真琴とは連絡が取れていない。会うのは久しぶりだった。
「今1番会いたくない人は?って訊いたら弘樹だって言ってたぞ」
真琴の言いそうなことだ。っていうか、本当に会いたくないのかもしれない。少しだけショックだったが、弘樹は落ち着いてすとんと座った。
「・・・・・会いたい?」
克也の試すような言い方。答なんてわかってるくせに、本当に性格が悪い。
「会って・・・文句が言いたい」
精一杯の強がり。しかし、克也はにっこりと笑った。
「お前、俺に似て不器用だからね」
もうすぐ真琴に会えるんだ・・・・・・!
なんつーか……
弘樹と克也が話しただけで終わった気がします。
次で最終回です。
たぶん番外編はないと思います。