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年上の彼女  作者:
24/26

24 なんとかする

 とにかく唯を捜さないと。

 その思いで一睡もすることなく自分の部屋の窓から唯が帰ってくるのを待っていたのだが、結局彼女が帰ってくることはなかった。ちなみに、唯とは隣どおしの家ではないが、たいてい自分の家の前の道を通るので帰ってきていないことがわかった。

 警察の張り込みって大変なんだなと能天気なことを考えながら、成瀬弘樹はそのときを待っていた。

 ケータイに電話しても出ない。メールを送っても返事は来ない。

 唯に会ってどうするつもりなのかはまだ考えていないが、とにかく会って話がしたかった。



 ブーン ブーン

 ケータイが鳴ったのは4月1日の午前5時だった。

 慌ててケータイを開けると、唯からのメールの返信が来ていた。弘樹が話があると送ったメールの返事のようだった。

『話ってなに?メールで言えないこと?』

 実に単純明快でわかりやすいメールだった。弘樹は少し迷った後、会って話したいことがあるという内容で再度メールを送る。

『わかった 駅前のマックで待ってるね』

 時間の指定もなく、そっけない唯からのメール。弘樹にとって、唯は幼なじみである前に好きだった人だ。それだけでも心配になってしまった。

 そのとき、すぐにケータイが鳴った。唯からのメールだと思って慌ててディスプレイを見ると・・・・・


          ▽


 そんなメールのやり取りを終えてから20分後、自転車でかっ飛ばしてきた弘樹がマックに入っていくのを、菅沼唯は駅前にあるビジネスホテルから見下ろしていた。

 たぶん全て見透かされているんだ。ここからでも、あんなに汗だくになっているのが見えた。

 ありがとう・・・・・すごく嬉しい。

 自分の間違いを許してくれない人がいて・・・

 ひとつ息をついてから、唯は背後に向き直る。そこにはノートパソコンを前にカタカタと文章を打っていくサラリーマンの姿が見えた。

 しばらくじっと見ていたが、やがて唯の視線に気づいたらしく、優しい笑みを浮かべてこっちを見てきた。

「どうしたの?唯ちゃん」

「そろそろだと思って」

「ん・・・・・心の準備ができたんだね」

 その声と共に、ぱたんとノートパソコンを閉じる。そして、ゆっくりと男が近づいてきた。

 唯は動かない。よく見ると亜紀の旦那さんに似ていると後で思ったその顔を睨みつける。

 正面から見たらあんまり似てないな・・・

「田口さん・・・」

 唯は男の名前を呟き、

「ごめんなさい!私にはできません!」

 はっきりと言い放った。



「できない・・・で済むと思ってんのか」

「え・・?」

 不倫相手、田口の言葉は唯が想像していた言葉とは全然違っていた。

「散々人に迷惑をかけながら今さらできないで済むと思ってん・・・」

 ぞくっとするほどの冷たい空気が体中を帯びていく。1年間見てきた田口のどんな顔とも違う顔がそこにはあった。

 怖い・・・!最初に思った言葉はそれだった。

「ごめんなさ・・・」

 そこまで言いかけたところで、唯の手ががしっと掴まれていることに気づいた。驚くと同時に田口が力ずくで唯の服を脱がそうとしてくる。

「いやぁっ・・・・・!」

 恐怖で体の力が入らない。必死で抵抗しようと思っても女の力では敵わなかった。

 助けて・・・お願い!ヒロ君・・・・・助けて!

「ヒロ君!!」


          ▽


 バンッ!!

 突然のドアの開く音。何事か一瞬田口が止まったところで、すかさず唯はその場から飛び出した。

 そして、入ってきたある人物を見た。

「ヒロ君・・・!」

「唯!こっち来い!」

 言われるがままに弘樹の元へ駆け寄る。彼に肩を抱かれ、そのまま後ろへとかばわれる。

「どうしてここに・・!?」

「マックから見えた。泣きそうな顔で見下ろしてる唯の姿。ちゃっちーホテルで助かったよ」

 成瀬弘樹は右手をぶんぶんと振りながら、田口を睨みつける。田口はというと、渋い顔でなぜか枕元のスタンドを見ている。

「唯は返してもらいます。詳しい事情は知りませんが、もう関わることはやめてください」

 それだけ言ってホテルを後にしてドアを開けたとき、田口が何かを呟くのがわかった。そして、気づいたときには背中側の服を掴まれて・・・・・振り返った瞬間、顔を思いっきり殴られた。



 ガターン

 あまりにもあっけない一撃。しかし、とっさに避けるなんてことをこの狭い部屋で行うことは不可能に近かった。

「ヒロ君!!」

 クソッ・・・・俺は平和主義者なんだよ。

 心の中で言い訳しながら、弘樹は切れた口の端を押さえて起き上がる。しかし、何度か腹に足蹴りを入れられて、さすがに息が詰まってしまった。

「田口さん!もうやめてっ!この人は関係ないでしょ!」

 唯の泣き叫ぶ声を聞いて、痛む腹を押さえてなんとか起き上がる。彼女に離れているように促して立ち上がる。

「なんとかする」

 ただそれだけしか言って、目の前にいる田口という男を睨みつける。


          ▽


「あれ・・・?達夫じゃん」

 その緊迫した状況の中、最初に声を出したのは、第三者である菅沼克也だった。いつのまに背後にいたのかきょとんとした顔で立っている。

「克也・・・お前いつのまに・・・」

「お前追ってここまできたんだけど、なに?達夫と知り合いなの?」

 一瞬、弘樹は田口と克也が知り合いなのかと思ったが、目の前にいる田口の様子がおかしくなっていくことに気づいて疑問を覚える。

「田口・・・さんと知り合いなのか?」

 弘樹の質問に、まるで全てを理解したかのように克也は無表情で田口を見る。

「いや、ちょっと前に知り合っただけだよ。へー・・・アンタ田口達夫っていうんだ」

 興味深そうに言っているが、克也の口調からその様子は感じられない。むしろ怒気さえ含んでいるように思われる。

 克也は無言で部屋の中に入っていくと、中央にいた田口達夫とかいう男の前にすとんと座った。

「まだ()りてなかったの?」

 たったそれだけの言葉で。田口は悲鳴を上げて逃げるようにその場を去っていった。

 何が起こったかわからない弘樹と唯はただ立ち尽くすだけだったが、克也がくるりと振り返って、

「帰ろう」

 と言ったから全ての力が抜けてしまった。情けなく弘樹はその場にすとんと座り込んでしまった。



「弘樹・・・立てるか?とにかく今は行かないと」

「・・・?どこにだよ」

 弘樹としては腹の痛みが治まるまではもう少し休憩していたかったのだが、克也はそれを許してくれないようだった。

「亜紀に聞いたよ。たぶんお前勘違いしてると思うけど・・・唯の相手は亜紀の旦那さんじゃないからな」

「わかってる。さっき電話があった・・・・・顔立ちが似てたから勘違いしたんだ」

 唯からマックで待ってるとメールがあったすぐ後、亜紀の旦那、修一から1日早い誕生日おめでとうメールが届いたのだ。どうやら出張で今はアメリカにいるらしい。

 だから、どうして亜紀が克也に告白したのかはわからないが、それよりも克也が深刻な表情をしていることが気になってしまった。

「・・・・・克也?」

「なぁ・・・なんで俺が坂井の保証人やってたか知ってるか?」

次で最終回になる予定です。

今までにないほど消化不良で終わるかも…

彼らのその後は番外編で書きたいと思ってます。


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