22 動き出す歯車
今回恋愛度が高めです。
急にこんな展開になってびっくりです。
失礼な話だが、26年間生きてきて、菅沼克也は決して女性の経験が少ないほうではない。
高校生だったとき、確かに亜紀が好きだったが、それでもそのときにつきあった女の子を抱いたし、亜紀にふられてからも大学の女の子とつきあって夜を過ごした。
だけど、こんなに緊張した夜はなかった。
ある意味で、本当に好きな人と初めてだったからかもしれない。
「あっ・・・・・」
静かな部屋に響くのは、互いの呼吸の音と、ベッドがきしむ音と、時々発する玉木の声だけだった。
軽いキスの後唇を吸うと、玉木はぎゅっと目をつむって克也の腕を掴んできた。
やっぱり怖いのかもしれない。今日は優しくしよう。
と、最初は思ったのだが、すでに自分の中の感情が理性では抑えられずにいた。息をする暇を与えないほど貪るようにキスをする。
それから、玉木の首筋に顔をうずめて何度も唇を這わせた。その度に彼女が小さく、耐えるような声を出すのがかわいくて、ますます克也の中の男としての欲望が大きくなってしまう。
「・・・痛かったら、言ってください」
30分くらいたって克也がそう言うと、玉木は目を開けて少しだけ笑った。だけど、自分が動き出してからその顔は痛みに耐えるような表情へと変わっていく。痛いのは見てわかるんだけど、それを言うつもりはないらしい。
ごめん・・・・・
玉木が必死に耐えているのに、それさえも克也は愛おしくなってしまった。
やべぇ・・・・・
克也が現実に戻ったのは翌朝、目を覚ましたときだった。隣でまだ玉木は寝ているようで、その寝顔を見ながら昨夜の自分を思い出す。
初めてだから優しくしようって思っていたのに、だんだん我慢できなくなってしまった。
やっべぇ・・・すげーよかった・・・・・
体の相性があるとするなら、克也にとって玉木が1番なんじゃないかと思うほどよかった。それに、こんなに緊張したのも初めてだった。
玉木先生、大丈夫かな・・・痛かったよな・・・・
と、そのとき、ベッドが揺れて玉木が起き上がったのがわかった。毛布を肩までかぶり、全身を隠すようにして克也を見る。
「「おはようございます」」
2人の声が同時に重なる。たったそれだけのことでなぜか笑えてしまった。
「あの・・・大丈夫ですか・・・・痛かった、ですよね・・・?」
おそるおそる尋ねてみると、玉木は恥ずかしそうに俯いた。
「最初は、少し痛かったです・・・・でも、その後からは大丈夫でした・・・」
「・・・そっか」
「菅沼先生が私のために優しくしてくれて嬉しかったです」
やばい・・マジかわいいんですけど・・・
優しく微笑む玉木を見て、克也は自分が赤面するのを感じていた。
▽
同じ頃、早々とバイト先に向かっていた成瀬弘樹は、横断歩道の前で信号が青の点滅になっていたので、すぐに赤になると察して自転車をこぐのをやめた。
大通り。まだ朝なのに目の前を車が何台も通っている。
しかし、弘樹はゆっくりと通り過ぎていく車の中の1台に釘づけになってしまった。元々視力は良かったし、テニスで鍛えた動体視力だってある。
だから、見えた。
見たことがある車に、弘樹のよく知っている人の運転する車に唯が乗っているところを。
「唯!」
飛び出そうとしたとき、すでに信号は変わっていて、目の前を車が通り過ぎていく。
今見たことが信じられなかった。
まさか・・・まさか・・・・唯が・・・
▽
「僕らの関係も・・・もう1年になるね」
「うん・・タイムリミットが近づいてきたんだね・・・・・」
菅沼唯はわかっていた。この関係が1年で終わるということが。そういう約束だったから。
初めてその人を見たとき、唯は一目惚れをしてしまった。まるで電撃が走ったかのように感じた。それから、内気な自分が自ら話しかけて知り合った。奥さんがいることを知っていながら・・・
「1年間でいいんです!誰にも迷惑をかけません!あなたの恋人にしてください!」
迷惑をかけないと言いながら思いっきり迷惑をかけながら言った言葉は、最初は受け入れてもらえなかった。だけど、お願いしますお願いしますと頼み込んでようやく受け入れてくれたとき、唯は高校を卒業していた。
1年間、デートしたり、ごはんを食べに行ったりする日々が続いた。
彼は奥さんを愛していたので、唯とはデート以上のことはしなかった。
それで唯は満足だった。
「最後に思い出を作らない・・・?」
「え・・?」
「僕たちが恋人だったって証。君の体にも心にも、僕を焼き付けたいんだ」
それが何を意味するのか唯は知っていた。だけど、何も言うことができなかった。
彼は懐から自分の名刺を取り出して、その裏に日にちとどこかのホテルの名前を書いた。
「ここで待ってるから」
4月1日、唯の誕生日だった。
▽
菅沼克也が帰宅すると、リビングに亜紀の姿があった。不意打ちだったので驚いたが、母がにこにこと笑って「今日帰ってきたんだって」と教えてくれると、なんとなく安心して彼女に声をかける。
「よー亜紀」
「かっちゃん!急にお邪魔してごめんね?」
「いーよいーよ。帰ってくるって弘樹から聞いてなかったから少し驚いただけ」
「そうだ・・・弘樹なんだけど、なんかあった?あんまり元気ないようだったけど」
思い当たる節がなくて、克也は首を傾げる。最後に会ったのは真琴とデートするときだったから、彼女とケンカでもしたのだろうか。
「あ・・あのさ!かっちゃんの部屋に行ってもいい?」
「え、ああ・・いいよ」
やや躊躇したのは、もちろん玉木がいてこそだったが、結婚した人妻を部屋に連れ込む後ろめたさがあったからだ。
それにしても、亜紀の様子がおかしい。まるで無理してテンションを上げているようだ。
「わぁ・・・全然変わってない・・・!」
克也の部屋に入った亜紀は開口一番にそう言った。
「そうか?これでもいろいろ捨てるモン捨てたけどな」
亜紀は嬉しそうに周りを見渡してから、くるっとこっちを向いた。
「懐かしいね。あの頃に戻ったみたい」
「そうだなぁ・・・よくお前家に遊びに来てたからな・・・ちっさい弘樹連れて」
「・・・・・あの頃に戻りたいなぁ・・・」
そんなふうに呟かれるものだから、一瞬焦ってしまった。たぶん以前の自分だったらここで何かしてしまうところだが、今の克也はそんなことはなかった。だけど、彼女の真意を知りたくなる前に一旦ここから出ようと思った。
「俺さ、昨日からずっとこの格好なんだ。着替えてくるからちょっと待ってて」
身近にあったジャージを掴んだが、それよりも先に亜紀が声を出した。
「昨日・・・どこ行ってたの?」
「・・・・・彼女んトコ」
正直に答えて部屋を出て行こうとしたが、それでも亜紀は早口で喋りだす。
「まだ遊んでるの?」
さすがにむっとなって克也は振り返った。
「遊んでねぇよ!俺は本気で・・」
「私だって本気だったよ!!」
気づくと、克也はぎゅっと抱きしめられてドアに背をついた。亜紀はその手を離そうとはしなかった。
「好き・・・」
絶対に言ってはならない言葉を口にした。彼女が8年前、言えなかった言葉を。
なんかすいません…?
もうちょっと文章力を上げたいです。