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年上の彼女  作者:
19/26

19 お父さん

「で・・・どうだったの?」

 坂井真琴はどう切り出せばいいのかわからず、自分でも驚くほどストレートに訊いてしまった。

『・・・・・落ちた』

 実にストレートな答えだった。

 Y大学合格のために空いている時間は家庭教師として弘樹と一緒にいたが、後から成績はぐんぐん伸びてきて合格圏内にまで到達した。しかし、現実は甘くはなかった。

『俺、もし全部ダメだったら、浪人しようと思うんだ』

「浪人?だって私立の大学には受かったんじゃ・・・」

『そうだけど・・・このままじゃ悔しいから』

 淡々とした口調で弘樹は述べるが、すごく強がっているわけではないことが声でわかった。

 弘樹は本気なんだ。本気でそう言ってるんだ。

「わかった。でもまだ後期があるんでしょ?」

 後期試験は前期試験よりも募集人数が少ない。そのため、倍率も高くなってしまうのだ。

『うん・・・あのさ、待っててくれる?』

「待ってるよ。私は執念深いからね」

『ははっサンキュー』

 電話の向こうで笑ったのがわかり、真琴はほっとするのを感じた。

 大丈夫、きっと桜咲くから・・・・・



 弘樹のセンター試験が終わってから、真琴の仕事は急に忙しくなった。正確には融通がきかなくなってしまったのだ。

「大丈夫?まだ時間あるから少し休んでこうか」

 藤村が心配そうに尋ねてくるが、真琴は大丈夫だとそれを断った。

「休んだらいろいろ考えちゃうんです・・・あいつも今はこんなふうに不安なのかなって」

「真琴・・自分の合格発表のときより緊張してない?」

「んー・・・・・同じくらいかも」

 早いものであさっては弘樹の後期試験の合格発表の日だった。まるで自分のことのように緊張してしまい、今日は食欲がない。それでも必死になって栄養食品を喉に通した。

 なんで他人のことでこんなに緊張してるんだろ・・・

 その理由になんとなく気づいていたが、弘樹の受験が終わるまでは言葉にするつもりはなかった。

 と、そのとき、真琴のケータイが鳴った。マナーモードにするのを忘れていたらしい。

 相手の名前を確認してから電話に出る。

「もしもし」

『・・・久しぶり』

「そうですねね、お父さん・・・・・・」


          ▽


「やっぱわかんねぇ・・・・どういう関係なんだよ。克也と坂井さんって」

「どうもねぇよ。昔生き別れた妹とか言ってほしいのかよ」

 どうでもよさそうに答える克也に成瀬弘樹は不満になる。今2人が向かっている所は、真琴の実家近くらしかった。

 県内でもかなり山。まるで獣道と思うような道路を通り、ようやくたどり着いたのが世間から隠れるようにひっそりと(たたず)む一軒家だった。

「・・・なにここ」

「だから坂井んちだって」

 克也は堂々とその家の庭に入っていく。弘樹も慌ててその後を追った。

「やばいって!勝手に入っちゃ・・・」

「誰もいないんだよ」

「へ・・?」

「ここは坂井の父親の家・・・・・もうこの世にはいないけどな」


          ▽


 坂井真琴が初めての映画の撮影を終えた頃、その人物は撮影場所近くまで来ていた。

 お父さんと呼ぶにはまだ若いかもしれないその男は、真琴を見つけると紳士的な笑顔を浮かべて出迎えた。

「久しぶり、まこちゃん」

「・・・お久しぶりです」

 固い表情で真琴は答える。どうしても敬語を使うことしかできなかった。

「仕事の都合で日本に来てね、由理子さんも明日の朝イチの飛行機でこっちに帰ってくるんだ」

「そうなんですか」

 微妙な反応。真琴は上手く言葉にすることができなかった。まさかお父さんが20歳の男の人になるなんて・・・・・

「そうだ、まこちゃん夕ごはんもう食べた?」

「いえ・・・まだですけど」

「よかったら一緒に食べない?ネットでおすすめの店を見つけたんだ」

 父は必死に真琴と仲良くしようとしていることがわかった。だからこそ、戸惑ってしまう。

「・・・食べます」

 世間には知られていない家族。真琴はこのことを誰にも言ったことがなかった。そして、これからも誰かに言うつもりもなかった。



 そのとき、真琴は気づいていなかった。

 まさかこのシーンをカメラで撮られていたなんて・・・


          ▽


 誰もいない一軒家に残る仏壇の前で合掌をする克也と、いまいち事情を呑みこめていない成瀬弘樹。

「なんで坂井さんの父親の命日にここに来るんだよ・・・・・」

 さっぱりわからない。克也も真琴もなんの関係もないと言っているが、いくら高校の担任だったからと言って、実家の場所まで知っているなんておかしい。そう思い始めると、とことん気になってしまった。どうせ答えてくれないんだろうけど。

「・・・俺の先生だったからだよ」

 合掌する手を下げて、克也は呟いた。

「先生?」

「うん。俺が高校生だった頃の担任だよ。病気で死んだ」

 弘樹は何か言おうと言葉を探したが、何も浮かんでこなかった。克也はそのまま続ける。

「結構面倒みてもらったからな。その関係でここに遊びに来たし、子供だった坂井真琴とも仲良くなった。先生が死ぬ間際に真琴を頼むって言ったからあいつの親代わりするつもりだったけど・・・・・もう大丈夫みたいだな」

「大丈夫って・・・」

「坂井は弘樹に任せる。あいつ泣かせたらぶっ飛ばすからな」

「・・・・・うん」

 初めて克也と真琴の絆に触れたような気がして、弘樹は言いようのない感情を覚えた。それと同時に疑っていた自分が恥ずかしい。

 真琴は俺が守る・・・弘樹は決心した。


          ▽


 2日後、弘樹は受験の結果を知らせようと真琴に電話をかけたが、留守電になってしまった。仕方なく真琴の家に行って直接言いに行こうかと考えて出かけたとき、書店の前を通ってその記事を見つけてしまった。

『坂井真琴 深夜のデート!』

 真琴にとっての初めてのスキャンダルはそうして幕を開けた。

 弘樹は何も信じられなくてその場に立ち尽くした。合格通知を強く握り締めながら・・・・・

1日更新が遅れました;;


次回はこの話の続きと、玉木有子が意外な行動に

出る……予定です。

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